第46話 ダメみたいですね

「はー、流れるプール楽しかったぁ」

「…………」


 萌果ママの膝枕で流れるプールを一通り堪能したあと、僕らは一旦休憩しているのだが……上機嫌な萌果とは対照的に、里奈ちゃんはハイライトを消したお目々で真顔の状態だった。


「里奈ちゃんも楽しかったでしょ?」

「……そ゛う゛た゛ね゛」


 どう発音しているのか分からない部分を交えながら、里奈ちゃんは表面上は同意を示している……が、挑発的とも言える萌果の問いかけに腹を立てていそうだ。妬ましそうに僕と萌果の膝枕を眺めていたからな……。


 マズいぞ……里奈ちゃんのフラストレーションは十中八九僕への欲望として変換されるはずだ。となると、このあと催眠アプリを使おうとしてくるのは確実……。そのときいかに里奈ちゃんの思考を先読みして催眠アプリ使用前に欲望を満たしてあげられるかが鍵となる。催眠アプリなんて使わなくても僕とえっちなことは出来るんだよと分からせて、催眠アプリ依存を改善させないといけないのだから。それが、演技を始めてしまった僕が成すべき責務だと思う。


「あ、海辺の洞窟エリアだってさ。なんか凄そうだし入ってみようよ」


 別の遊び場を求めて移動し始めたさなか、萌果がそう言って指差したのは、その名の通り海辺の洞窟をイメージして作られた探索エリアであるらしい。僕の膝丈くらいの水で満たされた岩肌の洞窟は、内部が迷路っぽくなっているようだ。薄暗くて、なかなか本格的に見える。


「えへへ……良さそう」


 里奈ちゃんが薄暗い洞窟を見てニヤリと笑っていた。なんてあくどい笑みだろう。良さそう、ってなんだよ。絶対何かろくでもないことを考えているな……。

 僕は戦々恐々しながら、2人と一緒に洞窟へと足を踏み入れることになった。

 入り口で想像していたよりも中は暗くて、これは目が慣れてくるまで大変だ。


「あ、分かれ道」


 萌果がふとそう言った通り、ある程度進んだところで前方の道は二手に分かれていた。


「じゃあ萌果ちゃんは左ね? あたしと琉斗くんは……へへ、右に行くから」

「あ、ちょっ!」


 萌果を取り残す形で、里奈ちゃんが僕の手を引いてズンズンと右の道に進み始めてしまう。萌果はムキになって付いてくるかと思いきや、「まったく……」とため息まじりに左の道へと進んでいくのが見えた。どうやら、流れるプールの分ここは譲ってやる、という心境らしい。

 萌果のそんな優しさは、僕にとっては厳しさでしかない……暗い場所で猛獣と二人きりにさせないでくれよ……。


 しかし、弱音を吐いている場合じゃない。催眠アプリの使用気配を感じたら、先んじてえっちなことをして里奈ちゃんを満たしてあげないといけない。催眠アプリへの依存はダメゼッタイ。

 というか、使用気配を感じたら、とか悠長なことを言っていないで今のうちからえっちなお触りをして里奈ちゃんを満足させてしまえばいいのかもしれない。催眠アプリを使うという思考にそもそも至らせなければいいんだ。


 というわけで、僕は里帆へのプレゼントを買いに行ったときのように、薄闇の中で早速里奈ちゃんのお尻をさすり始める。


「ひゃっ……りゅ、琉斗くん……?」

「里奈ちゃん、先日の続きだ」


 そう言って僕はビキニの上からむんずとお尻を揉みしだいていく。

 僕のゴッドフィンガーで満足させてやるんだ。

 でりゃりゃりゃりゃ!


「あん……♡ ど、どうしちゃったの琉斗くん……なんか最近えっちになってるような……♡」

「そうだよえっちだよ! 里奈ちゃんを見てるとムラムラしてくるんだ!」


 僕がえっちだと分からせる。

 催眠アプリなんて使わなくてもえっちなことは出来るんだと悟らせる。

 それがたったひとつの冴えたやり方だ(違う)。


「――あは」


 そんな中、里奈ちゃんがなぜか再びあくどい笑みを浮かべ始めていた。

 な、なんだ……。

 小声で何か呟き始めてもいるので、少し耳を澄ましてみれば――


「(そっかそっか……催眠アプリによる無意識下洗脳が効き始めたおかげで、琉斗くんは自我アリの状態でもあたしに手を出したくなってきた、ってことなんだね♡)」


 え、なんか妙な勘違いをされていらっしゃる……?


「(じゃあもっとたくさん催眠アプリを使えば、もっともっと琉斗くんをあたし色に染められるってことだよね♪)」


 それは違うよ!


「(催眠アプリを使うのは我慢しなきゃいけない部分もある、って思っていたけど……そういうことなら我慢せずに使った方がオトクなのかも♡)」


 アカン(アカン)。


「(とにかく、素の琉斗くんをもっとあたし色に染めるために――)」


 スッ、と首に提げた防水ケース入りスマホに手を掛け、里奈ちゃんが電源を押した途端に映り込んだのは催眠アプリだった。アプリ起動状態でスリープしてたってことかよ。準備万端だなぁオイ(白目)。


「――もっともっと無意識下で洗脳してあげるね♡」


 ……かくして、先読み作戦は裏目った。

 虚ろな演技を強いられた僕は、洞窟の岩陰で里奈ちゃんのフロンティアを掘り進め、横穴式住居で暮らしていた原始人じみた情事を味わったのである……。


――――

つづく


新作ラブコメを始めてみましたので、興味があれば覗いてみてください

https://kakuyomu.jp/works/16818093074070304144

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