第45話 対抗策
そんなこんなで、僕は問題の日曜日を迎えている。
僕が今居るのは、地元から割と離れた屋外プール。デカいウォータースライダーや流れるプールが存在するレジャー施設で、里奈ちゃんと萌果を連れて来訪中だ。里帆は部活に行っているが、この外出を悟っていたようなので夜に何かありそうで怖い……。
……ともあれ、まだ遊び始めていなくて、現状は水着へのお着替えタイム。僕はトランクスタイプの水着に着替えを完了させており、更衣室の外で2人を待っているところだ。
「どうなるんだろうな、今日は……」
里奈ちゃんが素の状態で誘ってくれた週末デートだが、萌果の参戦によって多少荒れ模様になりそうだ。
「……まぁでも、今思えばプールで遊ぶときはスマホなんて持ってこないだろうし、催眠アプリの心配は要らないはず……だよな?」
現に僕はスマホをロッカーに置いてきた。
でも待てよ……僕みたいな陰キャはアレとして、現代を生きる女子がスマホを持たずにいることなんて果たして出来るんだろうか。競馬の女性ジョッキーが調整ルームにスマホを持ち込んだ事案とかあったよな?
時代はスマ依存。こんなプライベートの時間にスマホを持ってこないなんてありえないはずだ。まして防水ケース使えばいいじゃんって話だしな。
はあ、やっぱり催眠アプリの心配は要るね(白目)。
「「――琉斗くん(りゅー兄ぃ)っ、おまたせっ」」
と、揃った声が背後から聞こえてきたのはそのときだった。
JCとロリ義妹のコンビがおいでなすったようだ。
どれ、まずは普通に水着姿を拝見させてもらおうか。
「……おぉ」
背後を振り返った瞬間、僕は思わず唸ってしまった。
「どうかな琉斗くんっ!」
まずは里奈ちゃん。いつも通りに黒髪をツインテールにまとめているスレンダーJCは、シックな黒ビキニを着用していた。細身でしなやかな猫っぽい身体がいつになく色っぽい。でもトップスにフリルが付いているので可愛らしさもある。里奈ちゃんにぴったりの水着だと思った。
「似合ってるな」
「えへへ、ありがと琉斗くん♪」
「ふん……黒ビキニなんてJCの里奈ちゃんにはオマセでしょ」
一方で萌果が毒づいている。
そんな栗毛ショートポニテの妹は、肩周りに軽くフリルの付いた白いワンピースタイプの水着を着用していた。萌果の体型と合わさってセクシーさは微塵もないが、その分キュートさ全振りのロリコン特効。もちろん本人にそのつもりはないんだろうが、特定層を狙い撃ちである。
「お前はもうちょっとオマセになるべきだと思うぞ? 可愛いけどな」
「か、可愛いなら別にいいじゃん……」
僕の言葉に照れながら、萌果はふんとそっぽを向いていた。
……やっぱり萌果はミニ里帆って感じだな。表向きは手厳しいが、ウラに潜むのは僕を依存させたいという想い。
手元には案の定防水ケース入りスマホ。
それは里奈ちゃんもそう……。
……2人ともやっぱり催眠アプリを使ってくる気がありそうだな。
でも今日はなるべくなら使わせないようにしたいところだ。里奈ちゃんの催眠アプリ依存を少しずつ払拭させたいし、萌果だってダークサイドに堕ち過ぎたら大変だ。
だから催眠アプリを使わせないようにする。僕がそう仕向けるつもりだ。
催眠アプリへの対策は、一応あるのだ。
対策の要点をかいつまんで言うなら――催眠アプリを使われそうになったら僕の方から先んじてえっちなことをする、である。どういうことかと言えば、先日里奈ちゃんのお尻を素の状態でお触りし、催眠アプリなんて使わなくても僕とえっちなことは出来るんだよ、と分からせようとしたわけだが、早い話がそれの応用。
催眠アプリ使用の気配を悟ったら、見せ付けられる前に僕の方から欲望を満たしてあげるということだ。それを徹底すれば2人の闇堕ちを改善出来るはずなんだ。
「ねえねえ、最初は流れるプールに行こうよっ。萌果ちゃんもそれでいいよね?」
「ま、あたしはお姉さんだからね。里奈ちゃんの希望優先でいいよ」
対策について考える僕をよそに、2人がそんな会話をしていた。
僕も異論はなかったので、ひとまず流れるプールへと出向くことになった。
◇
「萌果ちゃんここ結構深いから溺れないようにね!」
「水泳部舐めんな!」
……さて、僕らは流れるプールに浸かり始めている。
この流れるプールは日本一長いそうで、水路の総距離は大体700メートルくらいあるらしい。深さは1メートル前後。
僕らはフロートマットを借りて遊覧していたが、挑発された萌果が里奈ちゃんを追いかけ回し、里奈ちゃんは逃げるように先の方へと流れていった。
「まったく……あの子最近生意気になってきてない?」
追走をやめてフロートマットに戻ってきた萌果はため息まじり。
「まあいいけどね……それより」
里奈ちゃんが居なくなった現状がチャンスであると言わんばかりに、萌果は早速首に提げた防水ケースに手を掛け始めていた。
ハッ――まさか催眠アプリを使うつもりか? こんな衆人環視のもとで一体何を……さすがにえっちなことではなさそうか?
「よいしょ、っと……」
萌果はフロートマットの上で体勢を正座に変え始めている。
それを見てピンと来た――この第六感は外れている可能性もあるが、萌果は多分、僕を膝枕させようとしているんだ……。
僕を依存させたがりの萌果は、ウラの顔に多少のバブみがある。膝枕はそんな萌果ママがやりそうなことだし、ちょうどそれが出来るサイズ感のフロートマットだし、膝枕なら衆人環視のもとでも憚られる内容じゃないしな。
ふむ……膝枕がやりたいだけなら、別に催眠アプリを使わせてもいいか。
――いや。
そんな些細なことにさえ催眠アプリを使うようになるのは依存の始まりだろう。良くないことだ。
だったら、やっぱり催眠アプリの使用は阻止するべきだな。
「――悪い萌果、ちょっと失礼」
「え……ちょ……」
催眠アプリが起動される前に、僕は依存対策に打って出た。
依存対策は先ほども説明した通り、催眠アプリ使用の気配を察知したら思考を先読みして僕の方からえっちなことをやる、ってことだ。
すなわち――僕は萌果の膝元にごろんと寝転がったわけである。
ぷにぷにのもも肉がお出迎えしてくれた。
「りゅ、りゅー兄ぃ何してんの……!」
お前がやりたがってることをやってやったんだよ、とは言わない。
それとなくニーズに応えることで満足感を覚えさせて催眠アプリを封じる。
それが僕の考えた依存対策だ。
「ふ、ふん……こんな子供っぽいことしてバカじゃないの……」
口ではそう言っているものの、萌果は嬉しそうに口角を上げながら僕の頭をなでなでし始めている。
「へへ……よちよち」
ふぅ……どうやらきちんとニーズに応えられたようだな。
しかしである……。
「ジーーーーーーーーーーーーーーーー」
この状況に気付いたらしい里奈ちゃんが数十メートル先からドス黒いオーラを噴出しつつこちらをジーッと見据え始めているが、うん、まあ……なんとかなるでしょ。
――――
つづく
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