第55話 禁忌前

 最近、僕の朝は姉妹丼から始まる。

 里音さんの熟練テクに対抗すべく、里帆と里奈ちゃんが催眠アプリを見せ付けてきて若い力を継続的に刻み付けようとしてくるわけだ。


 そして今朝はそんな光景のさなか、恐れていた事態とも言える『里音さんの乱入クエスト』が発生したのである……。


「――里帆も里奈も楽しそうなことをしているじゃない。私も混ぜてよ?」


 なんか聞いたことがあるようなセリフを言いながら、出社前のマッパ里音さんが窓を乗り越えてやってきた。


 ……どうやら今日は朝から親子丼を食わされることになりそう(白目)。



   ◇side:ドア越しの萌果◇



「(ま、ママは引っ込んでなさいよ)」

「(そうだよっ)」

「(そうはいかないわ。あなたたち2人の動きはつたないったらありゃしないし。どきなさい)」

「(きゃっ)」

「(おねえ!)」

「(いい? 上での動きはこうよ)」

「(――っ。す、凄くリズミカルだわ……)」

「(ま、ママ凄い……!)」

「(でしょう? ん……♡ あなたたちは動きがまだまだ独りよがり……、自分たちの心地よさを優先してちゃダメなの……あんっ♡ もちろん自分がそう在ることも大事なんだけど、相手のことも考えないとね……♡)」

「(……なんでママ、私や里奈に技術をレクチャーしているのよ)」

「(ママはあたしやおねえに成長して欲しいの?)」

「(まぁそういうことね。んっ……琉くんを巡るライバルではあるけど、元を辿れば琉くんが好きという部分は同じでしょ? だったらまずは、んぅ♡ 琉くんファーストであるべきだもの)」

「(……確かにね)」

「(じゃああたしもその動きやってみたい!)」

「(じゃあ、よいしょ、っと……ふぅ、さあどうぞ里奈)」

「(ズルいわ里奈。まずは姉の私からでしょう)」

「(早い者勝ちだよーだ♡)」

「(里帆、とりあえず我慢ね。お姉ちゃんなんだし)」

「(ぐぬぬ……じゃあ私は琉斗の顔に乗っておくわ)」

「(んんっ♡ こ、こんな感じの動きで合ってるかな? ママ)」

「(その動きが正解なら、琉くんが反応してくれるはずだよ)」

「(反応って言うと……)」

「(あ……♡ アツいのが……♡)」

 

 というところまで耳を澄ましていた萌果は、自らの中に渦巻く悶々とした感情にウソがつけなくなってきたことを悟る。


(……シたい)

 

 段階を踏んで一線を越えようとしている萌果だが、そんなことを言っていられる精神状態ではなくなってきた。

 お隣の淫獣一家が兄を貪っているのに、なんで妹の自分だけ律儀に段階を踏もうとしているのか、という気分になったのである。


(もう……我慢しないもん)


 そんな決意をした萌果はこの日の部活終わり、ドラッグストアに立ち寄って日用品に混ぜる形でスキンを購入し、続けて立ち寄ったスーパーでは精の付く食材を購入。


(これで準備完了……)


 決行は今夜。

 そう腹をくくって、萌果はぷにあなを研ぎ澄ますことにした。



   ◇side:琉斗◇



 ……萌果の様子がおかしい。

 現在夕飯タイム中の僕がそう思う理由としては、まず献立。

 最近スタミナ料理を出してくれている萌果だが、今夜は輪に掛けてスタミナ色が濃ゆい。ご飯がうな重だし、メインディッシュはまさかのスッポン鍋。マムシドリンクまである。

 これはもしかして……仕掛けてきたのか?

 なんとなくそんな気がする。


 あぁ……食べているだけで身体がカッと火照ってくる。

 朝にずっぽり搾り取られた僕だが、子種が凄い勢いで再生産されていく感覚だ。

 

 ……僕はいよいよ義妹の子供体温ぷにあなをも体験することになってしまうんだろうか。

 そんなことあっちゃならないんだろうけれど、僕の倫理観は正しい感覚を失いつつある。

 催眠に掛かった演技をしているうちに、僕の心はガチでそっち寄りになっている気がする。狂人の真似をするヤツも狂人やで、みたいな格言もあったりするしな……。

 ……里奈ちゃんのことを普段ダークサイドとか言っているけれど、実は僕が一番ダークサイドなのでは? シスの暗黒卿に加われますかね……?


 そんな風に思いながら、やがて夕飯を終えて風呂へ。

 萌果の乱入に警戒していたが、この時間は特に何もなかった。

 でもそれがホラー映画によくあるつかの間の安寧でしかなかったことを、僕はこのあと思い知ることになる。


「――りゅー兄ぃ、自我オフ」


 風呂上がりに麦茶を求めてリビングに顔を出したら、催眠アプリを見せ付けられてしまった。

 やっぱりな♂


「今からあたしお風呂に入ってくるけど、りゅー兄ぃはあたしの部屋で待ってて」


 ……ひとまず待機命令か。


「今夜は……攻めちゃうからね? 一番依存すべき相手が誰かってこと、分からせてあげるもん……」


 そんな言葉と共に、萌果はリビングをあとにする。

 さて……いよいよ禁断の時間がやってくるのかもしれない。

 演技を捨てて正しい道に戻ることも出来る……けど、萌果にだけそう在ることが正解とは思えない。

 ここまで来たからには、全員に、平等に。

 そんな覚悟を決めながら、僕は萌果の部屋に向かった。



――――

つづく

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