第60話 けじめツアー 3

 さて、翌朝を迎えている。


 萌果と里音さんが浄化された影響で、非常に静かな朝だ。2人は今朝のところは僕を貪りに来なかった。別に僕との戯れをやめるつもりはないんだろうけど、僕が里帆と里奈ちゃんにけじめを付けるまでは手を出してこないつもりっぽい。


 そんな中で里帆がちゃっかりと僕の部屋を訪れ、部活前の英気を養い始めている。催眠アプリ未使用での戯れだが、知っての通り里帆はまだアプリを使うこともある二刀流だから、きちんとけじめは付けないといけない。

 まずは里奈ちゃんから、だけど。


 で、その里奈ちゃんは現在閉め出されていて、カーテンを開けたら斜向かいの部屋で恨めしい表情をしているはずだ……。


「こんなに出して……私を孕ませようとでもしているのかしら……まったく」


 コトが済んだあと、里帆は運動着を着直しながらそんな風にぼやきつつも、どこか満足そうに身支度を整えていた。相変わらず表向きはツンツンしているが、内心では僕を100パー受け入れてくれているわけだ。

 ヤってる最中も「劣等遺伝子を勝手に出したら承知しないわよ」とか言っていたくせに、だいしゅきホールドしていたからな……本当に素直じゃない。


 そして素直じゃないのは僕もだ。

 こいつを欺くところから、すべては始まった。

 里奈ちゃんにけじめを付けたあとは、もちろん里帆にもけじめを付ける。

 ラスボスだ。


「何よ、どうかした?」

「べ、別になんでもない」


 誤魔化すようにそう告げて、とりあえずこの時間は終わることになった。



   ◇



 そんなわけで今日も1日が始まる。

 里帆と萌果は部活へ、里音さんはお仕事へ。

 僕は帰宅部なので夏休みを満喫したいところだが、里奈ちゃんにけじめを付けるという大事な役目がある。

 だから、


「里奈ちゃん、ちょっといいか?」


 斜向かいの部屋に声を掛けた。

 すると、


「なに? 琉斗くん」


 ガララと窓が開けられて、黒髪ツインテールの可愛いJCが顔を出してくれた。

 ダークサイドの住人・里奈ちゃん。

 さて……ラスボスへの前哨戦だな。


「ちょっと用があるんだよ。来てくれるか?」

「えへへ、実はあたしも用があるんだ♪」


 そう言ってじゅるり、と舌舐めずり……。

 そんな里奈ちゃんの手には、スマホ。

 なるほど……鬼たちの居ぬ間に洗濯しよう、って魂胆らしい。

 里奈ちゃんは里帆の部屋経由ですぐさま僕の部屋にやってくると、


「――じゃあ琉斗くん、そっちの用事を聞く前にまずはえっちなことしちゃうね♡」


 と、催眠アプリを見せ付けてきた。

 これまでの僕なら、それに対して虚ろな演技をしていたわけだが――


「……里奈ちゃん、無駄だよ」

「え」


 虚ろな状態にならない僕を見て、里奈ちゃんは驚いていた。


「な、なんで!?」

「催眠アプリはニセモノなんだよ。ごめん」


「ええっ!?」と驚き続ける里奈ちゃんに対して、僕は頭を下げ始める。


「……2ヶ月くらい前、里帆の催眠アプリに演技で応じてみたら、騙すのに成功したんだ……で、そこから色々と引くに引けなくなって、他のみんなにも演技をしていた、っていうのが事の真相なんだよ」

「…………」

「でも欺き続けるのは良くないことだから、みんなにけじめを付けて回ってる。ごめん……今更だけど、そういうことなんだ」

「あは……」


 すると、


「あはははははははははははははははははははははははははは!!」


 里奈ちゃんが腹を抱えてケラケラと笑い始めていた。

 り、里奈ちゃん……?


「――だよね~」


 そして里奈ちゃんは、ニヤけた眼差しで僕を見つめ始めていた。

 だ、だよね……?


「だって琉斗くん、あたしがラブホに連れ込んだとき催眠中なのに勝手に動いたように見えたことがあったし、他にも色々と怪しい部分、あったもんね?」


 ……そういえば里奈ちゃん、僕に唯一疑いの目を向けていたんだよな。


「でも結局見抜けなかったんだからあたしの負けだね……はあ、してやられたなぁ」


 言葉だけを聞けば、悔しそう。

 でも表情を見れば、やたらと清々しそうなのが分かる。


「あぁもう、恥ずかしいなぁ……ダークサイドぶって暗躍してたつもりが、全部琉斗くんの手のひら、もとい金玉の上だった、ってことなんだね?」


 ……実際比喩じゃなく金玉の上で腰を振って躍ってもらったことはあるんだけど、下品な言い回しすぎる……。


「す、すまん里奈ちゃん……」

「ううん……いいよ別に。ア○ルのシワの数まで知られちゃったけど、別にいいもん……」


 ……絶対気にしてるヤツだ。


「里奈ちゃん……ホントにすまん……」

「謝らなくていいってば。でも、……責任取って欲しいかも」

「せ、責任?」

「……きちんと真っ当なえっちがしたい、ってこと」


 しおらしい表情でそう呟く里奈ちゃんが可愛らしい。

 そうか、そうだよな……催眠アプリから解き放たれれば、里奈ちゃんはいたいけなJCなんだよな。

 そんな子をダークサイドに染めていた責任を、僕は取らないといけないはずだ。


「分かった……じゃあ里奈ちゃんがヤりたいなら、ヤるよ」

「里奈好きだよ、っていっぱい言いながらシてね……?」


 いたいけで可愛いなぁ。


「ア○ルハメ撮りしながら……ね♡」


 ……前言撤回。

 どこもいたいけじゃなかったです(白目)。



   ◇



 さて、里奈ちゃんとのお突き合いを済ませたあと、時刻はお昼を迎えている。

 前も後ろも僕で満たされた里奈ちゃんとの禊ぎは済んだ。

 あとは里帆だけ。


 そう考えながら昼食の準備を始めた矢先、外が突発的な豪雨に見舞われ始めたことに気付く。すぐに止むかと思ったら、勢いが弱まりつつ降り続いている。

 そんな中――


【ごめん琉斗。傘がなくて雨宿りしている場所から動けなくなったわ。迷惑じゃなければ迎えに来てもらえる?】


 と、部活終わりの里帆からSOSが届いた。

 ……これがラスボス戦への突入イベントになるんだろうか。


 僕は【分かった】とメッセージを返して、傘を差しながら家を出ることになった。

 


――――

つづく

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