第50話 飢えた獣
土曜日を迎えている。
部活に向かう前の里帆から英気を養うという名目のもと一発搾られ、同じく部活に向かう前の萌果から授○手○○をされ、僕は朝から干からびそうになっている。
でも萌果が滋養強壮の朝食(とろろご飯とアボカドサラダ)を用意してくれていたので、午前9時現在はちょっと回復していた。
けれど……、
「――琉斗くん♡」
里帆と萌果が部活に行ったあと、黒髪ツインテールの悪魔、もとい里奈ちゃんまでやってきて催眠アプリを使われてしまい、僕は虚ろな演技を強いられつつベッドに大の字で拘束されてしまっていた……朝からハード過ぎる(白目)。
「ねえねえ琉斗くん……なんか最近、おねえが催眠アプリを使わなくなってるみたいだね?」
拘束した僕のシャツをたくし上げて乳首をイジりながらそんなことを言ってくる。
……気付いていたかさすがに。
「おねえは偉いよね。きちんと自制しようとしてて。……じゃああたしも自制すべきなのかな? 正直、そう思うことはあるよ? でも、今更我慢するのって中途半端な気がするんだよね。……ぺろぺろ♡」
里奈ちゃんが僕の乳首を舐め回してくる。結構大事な吐露をしてくれているのに、僕の意識は乳首舐めに耐える方向に向きっぱなしだ。でもしょうがないじゃないか。演技だとバレるわけにはいかないんだから、乳首舐めに耐えて虚ろな演技をキープしなくちゃいけないんだ……。
「ぺろぺろ……ぷは、えへへ……あたしはね、使えるモノはなんでも使おうって決めてるの。欲望に正直な生き方をするのって、そんなに悪いことじゃないと思うから♡」
里奈ちゃん……半ばもう開き直っているんだな。もはや完全にダークサイドへと堕ちてしまっている。特に悲しき過去のない純粋悪。とんだJCが居たもんだ。
でも、僕はそんな里奈ちゃんが嫌いじゃなかったりする。この奔放さに振り回されるのがクセになる。催眠アプリ依存を治すことを諦めはしないけど、このダークサイドっぷりを大人しく味わうこともまた、この物語を始めてしまった僕の責任かもしれないと思うから。
「さてと……じゃあ自我のない琉斗くんに今日もえっちなことしちゃうね♡」
そう言って里奈ちゃんは水色のキャミソールを脱ぎ始めていた。その下は何も身に着けておらず……ごくり。
そして下も脱ぎ始めてしまい……ごくり。
「あのね琉斗くん、今日って実は……大丈夫な日なんだ♡」
大丈夫な日……ごくり。
「そんなわけで、今日はあたしの子供部屋たぷたぷにしてもらうね♡」
……こうして僕はこのあと、今は亡き婆ちゃんが川の向こうで手を振っている謎の光景が現実と重なって見える状態になるのだが、それはまた別のお話……。
◇side:里音◇
「あー、琉くんとえっちしたい……」
この土曜日、休日の里音は他に誰も居ないリビングのソファーでぐでっとしながらあらぬことを呟いていた。
モラルに反する欲求であることは自覚しつつも、琉斗に対するその感情は嘘偽りない本音と言えるモノだった。悶々と募り続けている未亡人としての欲望が、そんなアンモラルな感情を里音の胸中に植え付けているわけだ。
里音にとって琉斗は、可愛い息子とも言える存在だ。琉斗の両親が海外で働いている都合上、里音は彼や萌果が小さい頃は保護者代わりに色々と面倒を見ていた。
男の実子も欲しかった里音としては、琉斗という存在にはやたらと母性をくすぐられる部分があった。最初は純粋に可愛い存在として見ていたが、悶々とした欲求とその感覚が混ざり合って最近のムラムラに繋がっている。
もはや琉斗を1人の異性として捉えているのは確かな事実であった。夫が若くして亡くなり、2人の娘を育てるために仕事一筋で生きてきた影響もあり、里音のそうした欲望は年々、日に日に、大きくなっていると言えた。
「でもさすがにお隣の息子相手に堂々と『えっちしよ?』なんてお願い出来ないもんねぇ……」
その辺りの常識は社会人として持っているので、里音は悶々とした欲求を溜め込むばかりである。
そんな昼下がり、お昼も食べずに部屋で何かをしていたらしい里奈がリビングにやってきたことに気付く。麦茶で水分補給をし始めたそんな彼女の表情がどこか火照っていることにも気付いて、里音は不審に思う。
「里奈、あんた顔赤いね? 体調大丈夫? もしかして具合悪くて寝てた? お昼食べに来なかったし」
「あ、ううん……別にそういうんじゃないよ……?」
「どれどれ」
母として心配は徹底して行うべき、というモットーがあるため、念には念を入れて里奈に近付きおでこに手を当ててみた。
「あぁうん、確かに熱はなさそうだね。てか汗かき過ぎじゃない? 部屋で何してたわけ?」
里奈は汗だくの状態で、さながら激しい運動でもしてきたかのようだった。しかも近付いて分かったことだが、なんだか臭う。汗臭さとは違い、生臭い感じだ。まるで栗の花の香り。そして里音はそれを嗅いだ瞬間にぴんと来るモノがあった。
(このニオイ……まさか精子?)
夫が亡くなって以降ついぞ嗅がずに来たニオイだが、ハッキリと分かってしまった。そんなニオイの出どころは、間違いなく里奈からだ。
そして、なんとなく彼女の下半身に目を向けたそのとき、ホットパンツの内股付近から謎の液体が滴ってきていることに気付いてしまう。
(――っ、こ、これは……!!)
汗だくの顔。
栗の花のニオイ。
内股から滴る謎の液体。
そこから導き出される結論は――
「――まさか里奈……あんた窓伝いで琉くんのところに行って……えっちを……?」
「えっ。そ、そんなことしてないよ……?」
里奈の視線が左側に逸らされる。この仕草は里奈がウソをつくときの目だ。母として騙されたりはしない。
「里奈、別に怒ったりしないから正直に言いなさい」
もしそういうことなら、怒りこそしないがどういう関係なのかは追及しなければならない。恋人なのかえっちなフレンドなのか。もし後者ならば、自分にも琉斗とヤれるチャンスがあるのではないか。大人にあるまじきそんな変態思考が里音の脳裏を支配し始めていた。
「どうなの? 琉くんとえっちしてきたの? 正直に言わないならお小遣い削るよ?」
「――っ!? し、してきた!」
「やっぱりそうなのね。どういう関係なの?」
「えっと、その……なんて言ったらいいんだろう、なんというか……あたしね、催眠アプリを使ってるんだ……」
「催眠アプリ……?」
「……コレ、なんだけど」
そう言って里奈がスマホを操作してとあるアプリ画面を見せ付けてきた。そこにはグルグル模様が一定のリズムで動く怪奇なエフェクトが映し出されている。
「それが……なんなの?」
「……コレを見せるとね、琉斗くんがなんでも言うこと聞くようになるの」
「――な、なんですって!?」
「自我を失わせたり、とにかく好き放題に出来ちゃうんだよ?」
「じ、自我を……」
そんなことが出来るなら、琉斗の記憶に残らないように彼とえっちをすることも可能になるということだ。
「ほ、本当にそんなことが……?」
「うん……もしかしてママも、琉斗くんと色々発散したいの?」
「そ、それは……」
「……もし興味あるなら、インストールしてみれば?」
そう言って里奈がえっちの汗を流しにお風呂場へと向かった一方で、取り残された里音は自身のスマホを取り出して今見た催眠アプリをストアで発見した。
レビューには【偽物です】【本物です】【偽物です】【本物です】【不細工の俺がハーレム築けました】などなど、どう判断すればいいのか判断に困るネタコメにあふれていた。
(でも……里奈が琉くんを好き放題に出来るって言ったんだから、私は娘を信じる!)
そう考えた里音は催眠アプリをいざインストール。
そして、ソレの使用舞台を整えることにしたのである――。
◇side:里奈◇
「頑張って琉斗くん……あたし以上のビーストが、目覚めたかもしれないから……」
シャワーを浴び始めた里奈は、母に催眠アプリの存在を教えたことをちょっと後悔し始めていた。
――――
つづく
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