第49話 未亡人

 里帆と素でえっっっっ、なことをした翌朝を迎えている。

 僕の朝は基本的に里帆から不法侵入されて催眠アプリを起動されてちゅっちゅとキスの嵐を降らされるところから始まるが、今日はそうじゃなかった。


「おはよう琉斗……


 里帆がそう言って僕の上に跨がっていた。

 ……申し訳ないけどコレは描写出来ない(白目)。


 そんな至高の起き掛けを経て、自室に戻った里帆を尻目に僕は制服へと着替え始める。

 今の時間、里帆は催眠アプリを使ってこなかった。成長を感じるが、本当にもう使ってこないのかは分からない。しばらく経過観察しないとな。


 ところで……斜向かいの部屋からハイライトオフのお目々がジッとこちらを見つめているのが怖い。里奈ちゃんは相変わらず催眠アプリに依存中だからな……こちらはこちらで要警戒である。


「――りゅー兄ぃ、自我オフ」

 

 そしてもう1人の依存者、萌果が朝食後にタンパク質の摂取を開始してしまう。

 僕は休まりませんね(げっそり)。

 しかも萌果は一線を越える前に色々まだやりたいことがあるらしいし、もう何段階か変身を残している可能性があるのが怖いよな。フリーザかよ。


「――ふーん、じゃあ里帆さんは催眠アプリ依存から脱却しそうな兆しがあるんだ?」


 そしてこの日の放課後は、氷海に自宅まで呼び出されてもはや形骸化しているかもしれないが例の如く脅され、ヤることをヤった。

 現状はそのあとの入浴中であり、乳白色の湯船に氷海と一緒に浸かっている。氷海の自宅は和建築なので、風呂も例外じゃない。趣きのある湯船で僕は氷海に身体を預けられている。ほのかな重みが心地よく、おっぱいに指を這わせてその柔らかさを堪能中でもある。たまらん。


「まだどうなるかは分からないけどな……催眠アプリをアンインストールした気配はないし」

「素の状態でえっちしたなら、気持ちを伝え合ったり……もしたの?」

「いや……それはしてない」

「……伝えないの?」

「まぁ……僕は自分から里帆に気持ちを伝えたら負けだと思ってるからな」

「無駄にプライド高いやん……でもそれは里帆さんもか」


 そうさ、僕らは強情なのだ。

 そう簡単に「お前のことが好きだったんだよ!」と大胆な告白が出来るくらいなら、今の面倒な関係にはなっていないはず。

 もうしばし、段階を踏んでいくことになるかもしれない。


「ま、2人がそういう感じならあたしは助かるからいーけど」


 率先して1番目になろうとしない腐れ縁の金髪ギャル的には、なあなあで過ごせる今が気楽ということだろうか。


「ちなみにだけど、新しい催眠アプリ保持者が誕生しそうな気配はないんだよね?」

「それはない」


 多分もう催眠アプリの輪が広がったりはしないだろう。

 ……ないよね?



  ◇



「あら、こんばんは琉くん。奇遇だね」

「あ、おばさん。こんばんは」


 氷海の自宅からの帰り道、僕は偶然にもとある女性と出くわした。

 パンツスーツ姿の黒髪ショートヘアの美人さん。

 その人は僕にとって馴染み深い大人だ。

 一体誰かと言えば、玉地里音りねさん。

 何を隠そう、里帆と里奈ちゃんのママである。


 歳は確か30代後半だったはず。

 仕事はどこぞの音楽事務所の企画ディレクターでバリキャリながら、おじさんを早くに亡くしているから女手ひとつで里帆と里奈ちゃんを育てているシングルマザーでもある。


「こ~ら~、おばさんって呼ばないでって言ってるでしょ?」

「あ……ご、ごめんなさい里音さん」

 

 僕は平謝り。

 里音さんはおばさんと呼ばれるのが好きじゃないらしいんだよな。まぁそりゃそうか。でも実際おばさんって感じの人じゃなくて、里帆を少し大人っぽくした感じのお姉さんにしか見えない。里帆と並んで歩いていたら姉と勘違いされた、という話もあったはずだし。


「まあ良しとしましょう。ところで、どこかに行っていたの?」

「あ、えっと、氷海のところに」

「あー、氷海ちゃんは1人だけ別の高校に行っちゃったんだっけ? まあ定期的に交流があるなら問題なさそうだけど。ちなみに何して遊んできたの?」

「げ、ゲームです……」


 大丈夫な日という言葉を信じて生えっちを堪能してきたとは言えない……。


「そういえば琉くん、最近里帆や里奈との進展はどうなの?」

「え……それは……」


 催眠アプリという変なガジェットのせいで乱れまくっています、とも言えないよな……。


「お、言葉を濁したね? まー、別に何かシてるならそれでもいいよ? 琉くんならあの子らをキズ物にしてもおkおk」


 ……母親としてその姿勢は大丈夫なんですかね?


「はあ……にしても、良いねえ琉くんたちは若くて……」

「……急に嘆きますね」

「そら嘆くよー……お仕事つらいし疲れるし、パーッと何かで発散したいけど良い発散方法もないしねぇ……はあ……」


 どうやら色々と溜まっているらしい。そりゃ僕が物心ついた頃からシングルマザーとして頑張っている人だもんな、熟成された鬱憤があるのかもしれない。


「……新しい恋人でも作ったらどうですか? 里帆や里奈ちゃんだってもう理解ある年頃になってきたわけですし」

「恋人かぁ……」


 そう言って里音さんはなぜか僕に流し目。「(……琉くん可愛いねぇ)」だの言いながらじゅるりと舌舐めずりしているが、ハッとした表情で「(だ、ダメよそんなのお隣の息子よ……)」と言い出したりしている。

 なんだ……?


「と、とにかく……恋人なんて別に要らないの。私は熟成した身体を悶々と持て余して我慢するわ……晩酌とオ○ニーで充分」


 ……急にオ○ニーとか言い出さないで欲しい。


「まぁ……我慢はほどほどにした方がいいと思いますけど」

「やめて! 琉くんにそう言われると理性が……!」


 急にどうした……理性がなんだっていうんだ……。


 やれやれ……あの子供たちにしてこの親、この親にしてあの子供たち。

 里帆や里奈ちゃんの性質を思えば、里音さんもひょっとしたら妙な欲望を兼ね備えているかもしれないよな……。

 もしそうならゆめゆめ、僕にその性質がぶつけられないことを祈るばかりだ……。


――――

つづく

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