第27話 独立したから出来たこと

「お前が僕の部屋に来るのっていつぶりだ?」

「春休みに1回だけ来たじゃん」

「あー……あん時はまだ貞子だったよな」


 あくる日の放課後。今日は氷海ひみが僕の部屋に来たいと言い出したので、こうして連れ帰ってきたところだ。

 中学卒業まではこの光景が割と普通だったが、氷海が僕とは別の高校に進んだ影響でそうじゃなくなったわけだ。


「ねえ……なんか里奈ちゃんが怖い目でこっち見てるんだけど」


 氷海の言う通り、里奈ちゃんが斜向かいの部屋からジッとこちらを見つめている。

 相変わらず本当に怖いな……もし里奈ちゃんが早死にしたら特級過呪怨霊・リナちゃんとして僕に取り憑いたりしない? 大丈夫? 状況的に僕は純愛じゃないから、僕のことも襲う無差別っぷりを見せ付けてきそうで恐ろしいね(白目)。


「……まぁ里奈ちゃんは気にしなくていいよ。今日は2人で遊ばせてくれ、って言ってあるし」


 久しぶりに氷海を招いたのだし、とりあえず妨害はNGと伝えたわけだ。

 あとあとが怖いけどな……「ごめん」のジェスチャーをしながらカーテンは閉めておく。


「……にしてもお前、ほんとに変わったよな」


 もう何度も見ているのに、氷海の変わりようにはまだ驚ける部分がある。

 貞子⇒金髪ギャルだからな。


「春休みにどんだけ頑張ったんだよ」

「ま、必死こいてファッション誌とか買い漁ったよね~。慣れないメイクにもチャレンジしたりしてさ」


 言われてみれば、申告がなきゃ分からん程度のナチュラルメイクを施しているっぽい。そういう部分もしっかりと女子らしくなっているようだ。


「あ、ちなみに今日の下着はこないだ選んでもらったヤツだよw」


 そう言って氷海がスカートをめくって黒いショーツを見せ付けてきた。

 うむ、えっちでよろしい。

 やっぱりギャルには黒いおぱんつだよな。

 異論は認める。


「どうせならブラも見せたげるw こないだは試着だったからさ、自前の白い下着の上に着けてて可愛さ台無しだったじゃん?」


 言うが早いか、氷海は夏服のブラウスを脱衣して黒いブラも見せてくれた。

 ついでにスカートまで脱いで完全な下着姿に。

 うむうむ、サービス精神の塊だな。


「どうよ?w」

「まぁ、文句なし」


 里帆には劣るがおっぱいデカいし、ケツも良い。

 おっぱいの里帆、脚の里奈ちゃん、バランスの氷海って感じだろうか。


「見た目がここまで磨かれると、お前のこと狙ってる男子とか出てきそうだよな」

「あ、うん。頻繁にじゃないけど、高校入ってから数人に告白されてるからね」

「……マジか」


 貞子時代じゃ考えられない大事件だ。

 

「ま、もちろん全員お断りしたけどね。なんせあたしの本命は……」


 ジッ、と氷海の視線がまじまじと僕に向けられる。

 照れ臭いが、好意を示されるのはありがたい。


「そういえばさ……お前って僕のことが好きだって言うなら、なんで別の高校行ったんだよ」


 近隣の他校とはいえ、そのせいで普段から会うのが難しくなったわけで。

 色々とチグハグだな、なんて思わないでもない。


「まぁほら、それはアレだし」

「アレって?」

「要するに、変わるための儀式」


 下着姿のまま、氷海はカーペットに腰を下ろしてそう言った。


「貞子時代のあたしって、ずっと琉斗の後ろ付いて歩いてたでしょ? 引っ込み思案でさ、他につるむとしても里帆さんとか里奈ちゃん、萌果ちゃんくらいで、自分にとって楽な環境におんぶに抱っこの状態だった。別にそれでも良かったのかもしれないけど、あたしはそのままじゃダメかもって思ったんよね。甘える先があるせいで、自堕落な見た目と性格をヨシとしちゃってる自分に、危機感を覚えたわけ」

「じゃあ、その甘えを無くすために進学先を別にして退路を断ったってことか?」

「そーゆうことだね」


 ……なんともまあ、ストイックというかなんというか。

 一歩間違えれば自分を追い詰めていたかもしれないが、現実には功を奏しているんだから、氷海はなかなかすごいヤツな気がしてきた。


「でも寂しいから来年くらいに琉斗の高校に転校しよっかなぁ」

「そんな理由で転校出来るのかよ」

「まぁ冗談だけどねw 新しい友達も居るし楽しいからさ」


 そう言って氷海は四つん這いの女豹ポーズで僕ににじり寄り始めてくる。


「ま、そういう辛気臭い真面目な話はここまでね。ここからは……分かるでしょ?」

「……演技のことをバラされたくなかったら、ってことだろ?」

「そゆこと。バラさない代わりに今日もえっちなこと、しちゃっていいよね?」

「へいへい……お好きにどうぞ」


 僕としては拒否のしようがないのだし。

 とはいえ、別にイヤなことでもないから苦痛に思うこともない。

 待ち侘びていたとも言える。


「ねえ……里帆さんとか里奈ちゃんとはさ、もうキスってしてる……?」

「まぁ……めっちゃされてる」

「じゃあさ……あたしもしちゃってもいい?」

「……したきゃご自由に、とだけ」


 照れ臭いのでどこかぶっきらぼうな言い方になった。

 すると直後に氷海の顔が迫ってきて――ちゅ、と唇同士が重なってしまう。

 ああ……ついに氷海ともしてしまった……。

 すでにぺぇでズラれた仲とはいえ、これはなんだか特別感がある。


「一応言っとくと、初めてだかんね……?」


 そんな申告になんだかホッとした。


「で……今日はなんかリクエストある?」

「リクエストって言われてもな……」

「じゃあ質問……、最近なんかすごいことされてる?」

「……えっと……まぁ、里奈ちゃんから脚で……」

「脚?」

「乗られるというかなんというか……」

「あー、なんとなく分かったかも……なら、あたしもそれやったげる♡」


 ……氷海が変わったことによる僕への影響は、正直プラス面しかない。

 もしマイナス面が存在するとすれば……、いずれ僕が干からびるかもしれない、ってことだろうか。

 オールキャストオフし始めた氷海を見て、僕はそう思わざるを得なかった……。

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