第20話 モンスターは休まない

「――どうかしら琉斗、気持ちが良いでしょう?」


 ……日中の買い物を除け者にされた里帆が、催眠アプリをかざして僕の入浴タイムに突撃してきた現状。

 里帆に全部脱がされ、一応タオルを巻かれた僕は、浴室にご案内されている。

 そしてバスチェアに座らされ、背中を洗われ始めたところだ。


 おっぱいで洗ってくる暴挙に出るんじゃないかと思ったが、意外にもタオル。

 里帆は変なところで理性的だが、まぁその方がありがたい。

 あまりにえっち過ぎると、虚ろな演技どころではなくなりそうだからな。


「にしても……琉斗の背中って意外と広いわよね。昔は私より背丈が小っちゃかったのに、今じゃ追い抜かれてしまったし」


 語る言葉には郷愁の色。

 確かに僕は小柄だった。

 今も別にデカくはなくて、あと1センチで170に至るという程度。

 里帆も165くらいあるから、言うほど差はないんだよな。


「どうせなら小っちゃいままが良かったのに。そしたらヨチヨチバブバブごっこが出来たわけでね」


 ……なんだそのおぞましい遊びは。


「でもいいわ。今の琉斗が好きだから」


 そんなありがたい言葉と共に、里帆は引き続き僕の背中をゴシゴシ。


「さてと……背中はこんなもんかしら。じゃあ今度は前ね」


 数分後に発せられたその言葉に僕はドキリとした。

 今度は前か……問題はここからだな。


「よいしょ、っと」


 里帆が前方に回り込んできた。

 その姿はバスタオルを巻いた状態ではあるとはいえ……えっっっっっど。

 柔らかそうな深い谷間が丸見えだし、タオルが湿気で張り付いてセクシーな輪郭を浮かび上がらせているし、何より剥き出しの太ももがたまらん。

 僕の理性を奪い取ろうとするスケベな身体。

 虚ろな演技を続ける上で、僕はそれに惑わされてはいけない。

 加えて気を付けるべきは――


「じゃあ洗うわね?」


 鎖骨にタオルを這わせられた瞬間、ぞわっとした感覚が僕を襲った。

 そう……背中側よりも前の方がこそばゆいのだ。

 この感覚に耐えねばならないのが1番つらいかも。

 鎖骨から胸元へ。

 胸元から腹部へ。

 こそばゆい感覚が続く。

 でもまだ耐えられる。


 やがて里帆の手は……詳細を省かざるを得ないポイントに差し掛かった。

 ひとまず淡々と洗われたので助かった、とだけ記しておく……。


「ま……こんなもんね」


 ちょっと赤く染まった表情で呟きながら、里帆による洗体が終わった。

 ふぅ……これで危機は去っ――


「――じゃあ今度は琉斗が私のことを洗ってちょうだいね?」


 去ってなかったああああああああああ!

 むしろメインイベントに突入じゃないかよ!

 僕の理性を消し飛ばすつもりかこいつ……!


「はい、次は私がそこに座るから、琉斗は一旦どいてくれる?」


 とのことで……ひとまずどくしかない。

 すると里帆はバスチェアに腰を下ろし――ばさり。

 バスタオルを外して、裸をお披露目。

 あぁ……マズいですよ。

 理性がががががが……!


 で、でも耐えろ……耐えるんだ……。

 鋼の心で、やってやろうじゃないかよ!



   ◇side:里奈◇



 一方その頃――


(はあ、はあ……おねえと琉斗くんのお風呂……寝取らせ感を味わう絶好の機会、逃すわけには……!)


 琉斗の部屋に窓から侵入した里奈は、忍び足で1階に降りて脱衣所のドアをこっそりと開けたところだった。

 寝取らせにも似た変態性癖に目覚めた里奈にしてみれば、今の状況はご馳走。

 お尻ぺんぺんで大人しくなっている場合ではないのである。


「――さあ琉斗、ここを念入りに洗ってもらえるかしら?」


 すると里帆の声が脱衣所に木霊してきた。

 里奈は息を潜め、耳を澄ます。


「んっ……そう、そこよ……そこをしっかりと洗ってね?」


(お、おねえ……どこを洗わせてるんだろ……はあ、はあ……)


「私の肌は繊細だから、特にそこはタオルでゴシゴシじゃなくて……ね?」


(はあっ、はあっ)


「ん……っ」


(はあっ、はあっ)


「琉斗……こっちもね?」


(はあはあはあ……っ!)


 こうして里奈は琉斗と里帆の入浴タイムを存分に悶々と堪能したのち、


「――何 を し て い る の か し ら ?」


 最終的には存在がバレて、天に召されたのである。


  ◇


 ちなみに。

 なんとか虚ろな演技で耐え忍んだ琉斗だが、脳裏に焼き付いた里帆のぴんく映像でその後数回自家発電したのはここだけの話である。

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