第43話 栄養補給

「おはよ、りゅー兄ぃ。朝ご飯出来てるよ」

「……なんか濃ゆいな」


 あくる日の朝。起床した僕がリビングに向かうと、食卓に並ぶ萌果お手製の朝食に違和感があった。いつもはオーソドックスな洋風メニューなのに、今朝はなぜか……とろろご飯にレバニラ炒め。


「単にあたしの気まぐれ。たまには良いでしょ?」


 ……にしたって、とろろご飯とレバニラ炒め。しかも僕にだけ。

 なんかウラがありそうだけど、あまり気にしない方がいいんだろうか。


「食べないの?」

「いや、食うけど……朝からレバニラ炒めは体臭が心配になりそうだな、と……」

「りゅー兄ぃの匂い気にしてる人なんて居ないからへーきへーき」


 何気に酷いことを言われつつも、まぁいいかと思って頂いた。味は非常に美味だった。


 その後、学校生活が始まりやがて昼休みを迎える。ランチはいつものように里帆も交えて萌果と3人で学食だ。カウンター上のメニュー表とにらめっこしている。


「(今日の私はチーズインハンバーグの気分だわ。中から黄ばんだモノがネットリと垂れている絵面は、昨晩の私みたいでシンパシーを感じるものね)」


 里帆が危険な呟きと共に注文へと向かっていた。

 ……何も聞かなかったことにしよう。


「里帆ちゃんはもう決めたっぽいね。りゅー兄ぃは?」


 萌果に問われるものの、まだ決まっていない。この学食は採算が取れているのか心配になるくらい無駄にメニューが豊富で、すぐに決めるのは難しいのだ。


「ねえ、悩んでるなら牡蠣フライ定食はどう?」

「え」

「牡蠣フライ定食にしなよ。ね、美味しいと思うしさ、牡蠣フライ定食」


 どこか押し付けるような言い方で萌果が僕を見上げてくる。

 なんだろう……謎の圧を感じる。

 とはいえ、牡蠣フライ定食はまだ食べたことがなくてちょうどいいと思い、僕は言われるがままに牡蠣フライ定食をチョイスした。


 そんなランチを済ませたあとは、午後の授業をこなしてやがて放課後を迎える。

 図書館に出向いたら暗黒微笑で待ち伏せ中の里奈ちゃんを発見したので撤退し、駅前のネカフェで動画を観たり自習してから帰路に就いた。


「――夕飯出来てるよ」


 帰宅すると、すでに萌果が夕飯を用意してくれていた。献立は……ウナギの蒲焼きであるらしい。


(……不穏過ぎる)


 朝はレバニラ炒めをお出しされ、昼は牡蠣フライ定食をオススメされ、夜はウナギが用意されている……いずれも精の付くモノばかり。

 萌果が何かえっちなことを企んでいる可能性があるな……でも必ずしもそうだとは限らない。

 僕はひとまず普通に食べ始めるが、警戒は怠らないように努めた。


「――じゃありゅー兄ぃ……今日もお願いね?」


 やがて諸々済んだあと、毎度の如く育乳の時間が到来する。風呂上がりの萌果が、下着姿で僕の前に現れたわけだ。相変わらず華奢というか、ロリというか、身の回りに居る他の女子に比べれば色々と足りない体型をしている。でもそれが悪いかと言われれば違う。キュートなのは間違いない。


 それはそうと……散々精の付くモノを食べさせられたあとだ。果たして普通の育乳で済むんだろうか。


「……ねえりゅー兄ぃ、今日はちょっと違うこと試したいから、ごめんだけど自我消すね?」


 いきなりだった。萌果がスマホを手に取って催眠アプリを稼働させてきた。

 ほれ見たことか、やっぱり普通で済むはずがないんだ……。


「あのねりゅー兄ぃ……おっぱいの成長ってさ、タンパク質の摂取が大事なんだって」


 虚ろな演技を始めた僕に対して、萌果がそんなことを言ってくる。


「タンパク質を摂ることで、乳腺が成長しておっぱいが大きくなるんだってさ。あと女性ホルモンも大事で、分泌量が増えるとおっぱいの成長が活性化するんだとか」


 ……なんだこの説明。


「でね、それを知ったときにあたしはこう思ったんだ……それってつまり、えっちなことをしながらタンパク質を摂取すれば、女性ホルモンが活性化しておっぱいの成長に繋がるんじゃないか、ってね……」


 萌果が羞恥に染まった表情で僕のハーフパンツに手を掛けてくる。

 まさか……。


「つまり今の話を要約すると……りゅー兄ぃの濃厚なアレ、をじかに飲めば効果ありそう、ってこと……」


 ――やっぱり……。


「そのために今日は朝から精の付くモノばっかり食べさせてきたんだよ? 栄養もらうね、りゅー兄ぃ……最終的に依存してもらうために、バブバブ出来るサイズのおっぱいになってみたいし……」


 バブバブとは一体……。

 そんな疑問に気取られているあいだにも、萌果が僕の前にしゃがみ込んでいた。

 

「へへ……じゃありゅー兄ぃ、あたしのためにいっぱい出ちまちょうね♡」


 あ……!(スタッカート)。


 

   ◇side:里奈◇


 

(へえ……萌果ちゃんもかぁ)


 一方その頃、琉斗宅の庭先にはハイライトオフの目を光らせる里奈の姿があった。

 最近萌果の動きが怪しいと睨んでいた里奈は、今夜こうしてリビングのカーテンの隙間を覗き込み、何かが起こらないかどうかをチェックしていたのだ。

 そしたらコレである。


(普通の兄妹じゃありえないことシてるけど……ひょっとしたら血の繋がりがないことが判明したりしたのかも?)


 琉斗と萌果は似ていない。二卵性にしてもだ。

 もしそういうことなら、萌果が想いを募らせていても、それを発露させていても、さほど問題ではないのかもしれない。


(ライバル増えちゃったなぁ……でも別にいっか。そういうことならあたしだってもっともっと琉斗くんを無意識下で洗脳しちゃうもんね♡)


 催眠アプリさえあれば琉斗を好きなように扱える。

 しかしだ、催眠アプリに依存し過ぎるのは良くないという自覚もある。

 催眠アプリを手に入れて以降、里奈はそれに頼ってばかり。

 もし何かのきっかけで催眠アプリが消えたりしたら、自分は琉斗への歩み寄り方が分からなくなってしまうんじゃないか。そんな危機感もあるのだ。


(たまには……きちんと真正面からアピールしてみようかな)


 先日のショッピングで、琉斗が素の状態で里奈のお尻を触ってきた出来事があった。ひょっとしたら、催眠アプリに頼らなくてもチャンスはあるんじゃないか。そう思わないでもない。

 

(よし……)


 里奈は少し勇気を出してみることにした。

 脳裏をよぎる考えは、週末のデート。

 姉が先日そうしていたように、自分もちょっとくらい前進しなければならない。

 成長無き人生に、潤いは訪れないのだから。



――――

つづく

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