第15話 たまには真面目な話
「――好きだ
あくる日の放課後。
しちめんどくさい委員会の仕事で居残りを食らっている僕は、その作業中に通りかかった校舎裏の一角で、そんな声が木霊してきたことに気付く。
……玉地さん、と言えば里帆の名字だ。
もしや、と思いながら近くの角からこっそりそちらを覗き込んでみると――
「お願いだよ玉地さん! マジで付き合ってくれないか!!」
そう言って1人のチャラ男生徒が腰を90度に折り曲げて右手を前方に差し出していた。
その正面には、長い黒髪の美少女が佇んでいる。
言うに及ばず、里帆である。
やっぱり里帆への告白シチュエーションだったか。
学校で一番可愛いと言われている里帆は、当然のようにモテる。
こうして呼び出されて告白されるのは日常茶飯事。
でも実際にこういうシーンを目撃すること自体は少なくて、高校に上がってからは初めてのことだった。
「ごめんなさい」
そして里帆の答えはそれだった。
当たり前だよな、僕のことが好きなわけだし。
「くぅ……やっぱりダメかぁ。なあ玉地さん、ごめんなさいの理由はひょっとして山田琉斗か? あいつとよく一緒にランチ食べてるみてーだし、ひょっとして付き合ってんの?」
「付き合ってなんていないわ。琉斗はミジンコだもの。男子の中で一番底辺よ」
……本心を知らなかったら心が折れそうなくらい酷いことを言われているな。
僕を男子の敵にしないための優しさでもあるんだろうから、ああ言うしかないんだろうけどさ。
「ミジンコw ぷはっ、玉地さんサイコーw だよなぁ、あんなヤツ玉地さんには不釣り合い過ぎだから、そういう扱いで良かったわw」
便乗して僕をバカにしやがって……。
「あいつ地味だし冴えねーくせに玉地さんと一緒に居るからさぁ、見ててイライラすんだよなw なあなあ玉地さん、良かったら俺があいつのこと一発バシッとシメといてやろうか?w 付きまとってんじゃねーよ、ってさw」
「シメる?」
「ああ、どうよ?w ボコボコにして不登校に追い込んでやってもいいけどw」
「へえ、そう」
「おうよw 厄介者退治出来た暁には、改めて付き合ってくんねーかな?」
「ねえ、あなた」
「おう、何か?w」
「……先に謝っておくわ」
――パシンッ!!
と、僕に酷いことをのたまい続けていたチャラ男の頬が、綺麗に平手で振り抜かれていた。
炸裂したそのビンタは、目を鋭く細めた里帆が放ったモノである。
あいつ……。
「え……た、玉地さん……」
「改めて、平手打ちはごめんなさい。でも腹が立つから――あなたが琉斗をバカにして笑うんじゃないわよ」
里帆……。
「あ、わ、悪い玉地さん……別に悪気があったわけじゃ……」
「なら個人的には尚更タチが悪いと思うわ。理由もなくナチュラルに他人を小馬鹿に出来る精神性なんて冗談じゃない。私はあなたみたいな男が大っ嫌いだわ」
「ぁ……」
「さっさと消えてちょうだい。さもないと女子のあいだにあなたの悪評を流して――この学校じゃ絶対に彼女が出来ないようにしてやってもいいわよ?」
「ひィっ――ご、ごめんなさい……!!」
チャラ男は顔面を青ざめさせながら慌てて向こう側へと走り去っていった。
……催眠アプリを躊躇なく利用しまくる変態だが、里帆はそうだよな……改めて、やっぱり、良い幼なじみだなって思う。
僕は顔を出してお礼を言おうか迷った末に、何も言わずにUターンした。
なんとなく無粋な気がしたからだ。
今の光景はきっと、僕がひそかに知っていればそれでいい。
そう考えて、僕は委員会の仕事に戻ったのである。
……ありがとうな、里帆。
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