第10話 JCはウブ
「――あたしのこと、押し倒してチューしてみてよ」
ちょ、ちょっと待って……里奈ちゃんまで催眠アプリを使ってくるとか聞いてないぞ……。
僕は混乱せざるを得なかった。
なぜ里奈ちゃんまで催眠アプリを……?
……まさか里帆が催眠アプリの存在を教えた?
いや……里帆は僕のことを独占したがっているはずだからそれはない。
となると……
1,里奈ちゃんが偶然インストールして使ってきた。
2,里帆の催眠アプリ使用現場を目撃されてしまい、里奈ちゃんが真似してきた。
……このどちらかだろうな。
多分2だと思う。その手の影響なしにたまたま姉と同じ催眠アプリをインストールする確率ってどんだけだよ、って話だし。
にしても、さて……僕はどう対応すべきだ?
その催眠アプリはもちろん贋物であって、効き目なんてない。
無視して受け流せばそれでおしまいだ。
ところが……その対応は危険な可能性がある。
だって考えてもみて欲しい。里帆の真似をして催眠アプリを使ってきた可能性がある里奈ちゃんにそんな対応をしたら「なんであたしのは効かないの!?」と疑問を持たれてしまうはずだ。
その疑問がきっかけで、僕の里帆への対応が演技だ、と里奈ちゃんにバレる可能性はゼロとは言えない。まして里帆にその演技バレ情報が行ったらおしまいだ。
となると……、僕がここで取るべき選択肢はひとつ。
――大人しく言うことを聞いてそのアプリが本物だと思わせるしかない。
そうすれば、里奈ちゃんが余計なことに気付く可能性はなくなる。
というわけで早速――
「――わっ、りゅ、琉斗くんっ!?」
僕は虚ろな演技を開始して里奈ちゃんに覆い被さって顔を近付けていく。
里奈ちゃんの注文は、押し倒してチュー、だからな……。
「す、すごいっ――この催眠アプリ本物なんだっ!」
よし……本物だと思い込んでくれたな。
正直、騙すのは申し訳ない気持ちもある。
でも里帆に対して演技をしてしまったからこそ、もはや本物として押し通すしかない。
そうさ……これは僕が始めた物語なんだ。
今更やめられるかよ……!!
「――きゃっ♡」
僕は精神的な勢いを活かして、押し倒したまま里奈ちゃんにキスをした。
「ちゅ……んんぅ♡ 琉斗くん情熱的だ……♡」
今まで里奈ちゃんの方からほっぺにチューをされることはあっても、僕の方から、ましてや唇同士を重ね合わせたことなんてただの一度もない。
だからなんだか興奮する。いたいけなJCを押し倒してディープキス。
ほっそい身体を下敷きにしてめちゃんこについばむ。
「好き♡ 好きだよ琉斗くん……んっ♡ ……おねえなんかよりも、あたしのこと選んで……♡」
……やっぱり里奈ちゃんも僕に好意があるんだよな。
選んで、って言われても、僕はまだ答えなんて出せそうにない。
だからその分、催眠アプリの指示に応じるしかないんだ。
里帆と分け隔て無く、ひとまずは平等に。
「ん……い、いきなりこれ以上のことは緊張するから、今日はキスだけね……♡」
やがてキスを一旦中段させた里奈ちゃんが、僕からいそいそと離れていった。
照れ顔で可愛らしい。
「へへ、気持ち良かったよ……? こ、今度は琉斗くんのことも、気持ち良くしてあげたいな……♡」
命令の解除を告げる直前に、里奈ちゃんはそう言ってくれた。
ぼ、僕のことも気持ち良くするとは一体……。
き、気になるけれど、あまり過度な期待はせずにいよう。
そう考える僕なのであった。
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