第57話 終わりの始まり

 里帆が催眠アプリを使ってきてから、僕の人生は変わった。

 里帆の催眠アプリに対して演技をし始めたことで、とんでもない生活、もとい性活が始まってしまったのだから。


 お隣の淫獣一家に貪られ、演技の秘密を握る腐れ縁にも貪られ、義理の妹にも貪られ、僕はもはやフリー素材の如く利用されまくっている。

 萌果とヤってから数日が経過していよいよ学校が夏休みに突入したこの日も、僕は朝から淫獣一家with萌果に美味しくいただかれていた。

 そう、萌果も混じってるんだよ(白目)。これは数日前からのことで、親子丼の饗宴に不干渉でいることに我慢ならなくなったらしい。

 里帆と里音さんは萌果が義妹だってことを知らないままだったから最初はびっくりしていたけど、今じゃすっかり淫獣仲間。

 そんな肉欲の宴はやがて4人とも外出を控えているということでお開きとなる。里帆と萌果が部活、里奈ちゃんは友達とのお出かけ、里音さんは仕事だそうだ。


 解放された僕は、つかの間の休息を挟んでから氷海の連絡を受け、自宅までお呼ばれされた。


「うぇ!? ついに萌果ちゃんともヤり始めてるの!?」

「ああ……禁断の関係になっちまったよ」


 氷海はこの時間、僕の貯蔵タンクをいたわってえっちなことを求めてこなかった。

 とりあえずエアコン効きまくりの部屋でアイスをご馳走になりながらお喋り中である。


「……行くとこまで行った感あるね」

「あるよな……僕はもうダメだ」


 完全にダークサイド。

 浄化不可能な暗闇の沼に頭までどっぷりと浸かってしまった気がする。

 だからこそ、このままでいいのか、って自問したくなる。


「てかさ……琉斗はこのままでいいの?」


 そして、氷海からもそんな言葉が発せられた。


「演技し続けたまま一生過ごすのって、多分キツいんじゃない?」

「キツいっていうか……まぁ無理だろ」

「自覚あるんだ」

「そりゃあな。誰がどう考えたって無理だろ。そんくらい分かってる」


 演技をし続けることにはどこかで絶対に限界が来る。

 綱渡り状態にもほどがあるんだから。


「じゃあ、琉斗的にはみんなに打ち明けるのも視野?」

「視野っていうか、もうそうすべきなんじゃないかって思ってる」


 いずれバレたら潔く認めればいい、って考えでやってきたけど、やっぱりそれは不誠実だと思ってしまう。

 物語を始めた責任の取り方は、自分から物語を畳むことではないかと思う。

 要するに自白するべきなんだ。


「結構腹くくってんだね」

「まあな。でも……バラすの怖すぎる」

「総スカンになるかもしれんしね。……でもその可能性、あたしは低いと思う」

「……そうか?」

「うん。だってみんな結局のところ、琉斗のことが好きなわけでさ。それに自分らだって催眠アプリで琉斗を良いように扱ってるわけじゃん? 本物じゃないにしてもさ。だから現状って別に琉斗だけがダークサイドじゃないはず」


 ……里帆たちも欲望に負けているところがあるのは確かに事実だよな。

 みんなダークサイド。僕らは頭がおかしい(断言)。


「だから、素直に言えば案外なんともないかもよ?」

「だといいんだが……」

「ま、もしみんなから嫌われてもあたしだけは味方でいてあげるしw」


 氷海の優しさが胸に染みるなぁ。


「で、実際どうすんの?」

「まぁ……打ち明けてみようかなと」


 ぼちぼち潮時だろう、みたいな考えもある。

 このまま貪られ続けることが正しいはずがないのだ。

 ダークサイドでいるのも良いけど、普通にみんなと表立って酒池肉林が出来たらもっと良いんじゃないかって思う。


「うん、それがいいんじゃない? でも一堂に会してるところで言うと収集つかなくなりそうだし、1人1人にバラしていくのが良さそう」

「かもな。でもお前はそれでいいのか?」

「え?」

「ほら、僕の秘密を知ってるっていうアドバンテージがなくなるだろ?」

「あー、別にいいよそんなの」


 氷海はあっけらかんとそう言った。


「だってもうその秘密があってもなくてもあたしと琉斗って普通に仲良しなこと出来るじゃんね。形骸化してるし」

「まあな」

「だから別に大丈夫。あたしのことなんて気にせんと打ち明けに行けばいいよ」

「おう……ありがとな」


 氷海の心意気はありがたい。

 よし……打ち明け行脚の始まりか。


 こうしてこの後、氷海に感謝の一発を撒き散らしてからお昼頃においとまし、誰から秘密を打ち明けに行こうか迷い始める。

 そんな中――


【琉くんヘルプ!! 家に大事な書類忘れちゃったんだけど、仕事場まで持ってきてもらうことって出来る!?】


 という里音さんからのLINEが飛んできた。


【午後からの仕事で必要なんだけど、お昼休みに取りに戻るのも時間的に厳しそうだからお願い出来ない?😭】


 とのことで。

 そういうことなら、届けに行くついでに里音さんを最初の打ち明け相手にするのはアリかもしれない。

 大人だし、きちんと話を聞いてくれそうだ。


【分かりました。じゃあ書類の詳細を教えてください】


 そう尋ねながら、僕は駆け足で帰宅した。

 書類の詳細を教えてもらったあとは、施錠されていない里帆の部屋の窓から玉地家に侵入して書類を入手。それから里音さんの職場を目指した。


 さあ……打ち明け行脚の始まりだ。



――――

つづく

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