第五話:長篠合戦図屏風~検証①~
※※ 05 ※※
灼と
部長は有頂天で何やらあちらこちらに顔を出し、あるいは頭を突っ込んで、体育会系・文科系問わず
(きっと天職は国会議員だな)
ともあれ。
今回、俺がやることはひとつ。
文献に記載されたあらゆる情報を研究し、合戦の全貌を探り、そしてそれを再現する。
文献学に実験考古のような立証方法は存在しないが、俺なりにやってみよう。
部室へ行くと色々な意味で心身に負担が大きいので、もっぱら図書館を利用している。
今日は地政学の観点から屏風図を見てみたい。
俺は図鑑を見つけ、机に広げる。まあ、何度も見かけたこともある有名な屏風図だ。しかし、今回は細かく分析する。
俺が最初に気になったのは、まず鉄砲の数だ。
屏風図には俺が数えた限りでは、わずか33挺だ。3千挺のおよそ百分の一。
描くにしろ、あまりに少なすぎるだろう、と思ったかもしれないが、実は信長公記では『千余丁』としか記載されていない。
江戸時代に書かれた小瀬 甫庵(おぜ ほあん)の『信長記』に鉄砲三千挺とあり、さらに『一段ずつ立ち替わり立ち替わり打たすべし』という記述から三段釣瓶落とし戦法と言われるようになった。
改めて屏風図を見る。
(……うーむ。三段はおろか、馬防柵に一列で左翼・右翼・中央と三隊に分かれているのみだ)
布陣も気になる。
武田勢は小高い丘から駆け下りて全面攻勢に出ている形で描かれているが、騎馬隊の圧倒的破壊力が大いに感じられる。
対して織田軍の中央……武田を正面からガチンコで食い止めているのは徳川勢だ。石川・本多・大久保含め、有名な金扇馬印もある。そしてこの部隊だけ、何故か馬防柵の前に出て敵を迎え撃っている。
実験考古で検証した鉄砲は馬防柵の中から、迫り来る騎馬軍団を水際で駆逐できるか、ということだった。
が、それは圧倒的な機動力によって難しかったのではという結論になった。
まあ、灼が主張する基本内容なのだが。
でも、史実では武田勢は、結果多くの有能な武将を失い敗走している。
文献を見ると映画とか、ドラマで見るように、一瞬で勝敗が決まったわけではなく、『信長公記』によると数時間に及ぶ大乱戦であったらしい。
そこに勝頼の意地も見えるのだが、それだけに単純に鉄砲の威力は最強騎馬軍団に対し、世間でいうほど大した効力はなかったのかもしれない。
俺は少し背を伸ばし、窓を見る。
鮮やかな紅葉が、はらりはらりと舞い落ちていくのが見えた。
(では、なぜ織田勢は優勢で勝ち得たのか?)
俺が灼に勝つ秘策もそこにあるような気がした。
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