第十九話:そうだ、発掘へ行こう



               ※※ 19 ※※



 つい、言ってしまうのはくせなのか、と思うくらいだが。

 俺とあきらは小学3年以来の幼馴染おさななじみである。

 ただ、初対面のときから共に『歴史』について研鑽けんさんし合う仲ではなかった。色々と紆余曲折うよきょくせつがあって、今に至る。

 本人が気づいているのか分からないが、俺が思うに灼の極端な人見知りの性格は変わらない。コイツとのファーストコンタクトは例外なく最悪な決裂を迎える。現在もはたで見る限り、それは相変わらずだ。

 とにかく、そんな性格のせいで灼は一度も発掘調査に参加したことがない。考古オタクにも関わらず、だ。

 しかし、今回の結衣先輩の提案に、真っ先に賛同したのは灼だった。


「いいじゃんッ! やろうよ!」


 自分の掌に拳を打ち、やる気を見せた。だが、反して発案者であるはずの結衣ゆい先輩が愁眉しゅうびを見せた。


「そないに、積極的に言いはられると返って不安になりはります。地元大学の教授ですら閉口しますのえ?」


 飯塚先輩が大きく嘆息して補足説明してくれた。


「実は、ウチの卒業生から生徒会経由で依頼が来たんだよ。……まあ、そんなことはできないと断ったんだが、それが今回の『部室整理令』にハマったのかな? とにかく、発掘現場で収まりがつかないほどの論争を収めてこいってね」


 確かに、これは灼の大好物だ。が、うまくいくのか? 俺も事情を知るにつれていぶかしさを隠しきれなかったので、結衣先輩にたずねた。

 

「色々、人員的に問題はあるけど、それを敢えて提案したってことは、何か考えがあるんだろ?」


 急に結衣先輩が悪戯いたずらネコのような顔になる。


「やっぱり、平良君に話して正解だったわ。こんな生徒会の提案、ウチと飯塚君だけやったら、絶対無理やわ。

 しかし、断ったら『部室整理令』や。ほしたら日本考古学で論文の大賞取った双月ちゃんに協力してもらうしかないやんね。色々あったけど平良君のおかげで、うまく双月ちゃんがやる気をだしてくれはったわ」


(まあ……いいけど)

 

 これが俺たちに接触してきた本心か。しかし、俺たち『歴史研究部』も対象に入っているのだ。それにメリットはあるのか?

 俺は無意識に部長の顔を見た。得心した顔で部長が口を開く。


「今回の文化祭で催した『設楽原したらがはら』の実験考古の経費を生徒会に提出した。そうしたら『部室整理令』のリストに載った。しかし、せない。費用も工事も全て完璧に手配したのに!?」


 食堂で、サーロインステーキ定食を喰ったことを思い出す、俺。


「聞いていいのか分からないけど……あのときいくらかかったんだ?」


 俺の質問にしれっと答える部長。


「いや、ほんの21億3432万円ほどだよ」


 その場にいた全員の反応は想像に難くないだろう。俺を含め石化したことも意に反さず四字熟語が言う。


破天荒解はてんこうかい。地元建設会社および政財界から、地元経済の活性に繋がったと称賛を受けた。さらに観戦チケットの完売と屋台の利益で、興行利益132億2001万円でた」


 一体、何の話?

 俺たち、そんなすごいことしてたの?


春宵一刻しゅんしょういっこく。売り上げは全額学校に渡した。私たちはお金よりも文化祭を愉しむことが大事。ただ、これが裏目にでた」


 部長と四字熟語は不可思議な顔で語る。

文化祭の出し物を決めた後、部長が四字熟語も『ノリノリ』だと言ったとき、全く信じれなかったが……。

 ホントに『ノリノリ』だったのか。鉄面皮の表情を読むのは部長にはかなわない気がした。

 

(しかし。なるほど……)

 

 これで生徒会が『歴史研究部』を潰そうという理由ができたわけか。得体も知れぬ、かつ自分たちの手に負えぬ部を存続させる気にならなかったということだ。

 俺は腹をくくらざるを得なかった。


「結衣先輩の意見で、まずは生徒会の向う脛を蹴ってやりましょう」

「せやな、まずはみなで発掘調査に行って、先輩たちの論争に決着をつけてやりまひょ」


 結衣先輩の意見に対し、闘志をむき出しにしている灼に少なからず不安を覚えたのだった。

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