第八十四話:荒ぶる『波』~検証㉛~
※※ 84 ※※
気温は上がらず墨を流したような曇天のまま朝を迎えた。湖岸に
「ねえ、平良」
「なんだ」
寄り添い歩く男女のカップルに冬季とは異なる情熱的な温度は感じられない。二人はお互い確かめるように言葉を交わした。
「現在でも
「さすがだな」
俺の能天気な
「あのねー……って、まあいいけど。小侍従って女だてらに無類の策謀家だと思うわ。しかも『利』が働くところではなく『正しい』と思う方向に策を用いてる。まあ、小侍従に限らず『菅原家』には軍略家や策士が多く輩出してるけど、『菅原
今まであんたの『
押しの強い少女の言葉は確実に的を得ていた。その鋭さに俺は
「そうだな。平家には実質的な権力を
「本当に
灼が呆れ顔で白い息を
「祖父・菅原
同じく『菅家廊下』の
灼も
「だから
身も蓋もない事実を言って俺をさらに困り顔にさせた。
「まあ、三人いる
また、
灼が不審げに俺を見上げた。
「……なるほど。
「山科会――……先輩は、そういう部分はあるけど、小侍従は
俺は説得力のない言葉と共に、ゲフンッと
「きっと、小侍従が現在に転生して
「まあ、それはともかく……として」
力なく答える俺は先に進める。
「
藤原
「ふーん……まあ、いいわ」
灼は草に埋もれてる小石を軽く蹴った。何度か跳ねて湖岸の
「そんなこんなで後白河院も平家も、
とはいえ、やはり最初の事件は当時各地で
後白河院の
灼は肩をすくめて、
「平家物語にある白河法皇の天下三不如意――『……賀茂河の水・
くるりと身体を返し、俺を
「まあ、強訴に悩まされてたのは後白河院だけではない。清盛も同じだ。僧徒は
「何だか織田信長みたいね」
後ろ向きで歩いていた灼が、石に
「おいおい、気を付けろ」
「えへへ。ごめん」
灼は舌の先をちょろっと出して、並んで歩き出した。俺の苦笑とため息が同時に
「信長とはかなり時代背景が違うが……いつの時代も人のやることに違いはないということか。摂関家の分裂の時もそうだが、俺の
「奥さんに
嫌味なく言う灼は事件の進展を訊いた。俺も拘らず明るく返す。
「延暦寺の焼き討ちを命じられた
「知ってるわ。安元三年<1177>
灼の明るさに刹那の
「――『平家物語』の巻二・『……多田
「夜は遥かに更けぬらむ。ただ今いかに何事ぞや」
と
「昼は人目を
入道、
「それは山<比叡山>攻めらるとこそ聞け」
と、いと事も無げにぞ宣ひける。
「その儀では候はず。一向御一家の御上とこそ承り候へ」
入道、
「さて、それをば法皇<後白河院>も知ろし召されたるか」
「子細にやおよび候ふ。……
比叡山延暦寺を攻めるのは
灼は
「
戸惑いの声を
「事件が発覚した後も、次々と近臣が
ただ『
「つまり、あんたは……」
「ああ、私見だが
「……内乱がまた起きるのね」
「平良ァー、何してるのッ。早く渡らないと赤になっちゃう」
「……あの花」
手を引き、手を引かれて、赤に変わる横断歩道を渡り切って灼が振り返った。
「あ……ああ、あの花は寒椿ね。確か花言葉は『愛嬌』『
灼は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます