第八十五話:『挙兵』の日
※※ 85 ※※
長く緩やかな坂道の頂上に県立東葛山高校の正門がある。門を抜けた正面には山々の
作業に当たっているのは、もはや授業はなく終業式まで時間と暇を持て余している三年生のようだ。女子は、まとめられた資材を仕分け、ビニールシートを広げて大きさに合わせて並べている。少し離れた場所で小さな女子生徒――
「部長、今度は何を始めるんだ?」
振り向いた部長が笑って返す。
「おッ! 平良に双月か。決まってるだろ、
継ぐように、
「
四字熟語が
「文化祭の時のようにやり過ぎたら次期生徒会に恨まれるぞ」
多少の
「この場合、恨まれるどころか感謝されるはずだろ。大いに盛り上がる先例を作ってくれてありがとうってな」
「そんな先例、迷惑なだけだわ」
灼はムスッとした顔で言い、見た目の幼さとは異なる押しの強い迫力で会長を鋭く
「あんたが、また何か企んで二人を
「クックック。歴代の生徒会長は信任で決まってたから選挙運動は未経験なのよ。全く企みようがないわ。だから、あなた達の――
「さあ、一年と二年は短縮授業が始まるぞ。行った、行ったッ」
会長と灼の間に入り込んだ部長が追い払うように手を振る。諦めの溜息を
「ちょ、ちょっと平良ァ! あたし、まだ言いたいことがッ」
「どうせ、また後で会うんだ。その時でいいだろ?」
文句を言いつつ灼は俺に
短縮授業といっても学習課程を進行させるものではなく、前日まで行われた期末試験の答案返却だ。いわば冬休み前の最終関門――つまり審判の時である。
受け取った答案の評価次第で、ある生徒は地獄の淵を
初日は簡単な採点の感想と解答合わせで終業し、終礼も略式で済ませた担任教師はさっさと教室を出て行く。正規時間前の放課後は遊び盛りな高校生にとって最高のひと時であり、先程の悲鳴と安堵が飛び交っていた教室も一変して、ご機嫌の生徒たちが
出た先、
「あ、やっと来たわね」
廊下の窓際に
「
「そっか。動ける三年は全員『
俺は窓の外に目をやる。校舎の前面に広がるグラウンドにステージを組み上げるための資材が次々と運び込まれ、三年生たちがジャッキや支持架台
思う
「申し訳ないが選挙準備は先輩たちに任せよう。俺は演説文を考えなければならないが……」
言葉の意味を感じた灼が不敵に
「あんたの応援演説はあたしに任せてちょうだい。最高のものにするわ」
軽く言い置き、俺の腕に自分の腕を
「お前には、いつも……すまん」
灼は首を横に振り、
「あたしは、あんたと一緒にいたいの。それだけ……」
はにかんで
「と、いうわけで、あんたは応援してくれる皆のために頑張らないとねッ」
強く冷たい冬の風の受け、灼は押し出しの強さだけでなく、幼さを隠しきれない笑顔で振り向いた。
『歴史研究部』と表札が
「誰ッ!」
勢いよく扉を開けた灼の
「あ、谷と双月。遅かったじゃん」
新庄の
「『
笑われて、灼の力に満ちた闘気が
「な、なによォ! 勝手に鍵が
むくれた灼に何ということもなく、尾崎が笑って答える。
「選挙運動に使う
浮かれてはしゃぐ尾崎は、スレンダーな
「こっちが平良君
その声に明るい笑いが周囲に
「
当然の疑問に少女三人は興味なさげに首を傾げた。
「そう言えば、四字熟語さんが
「そうッスよ。戦国大名のよく分からない家紋より、平良君のイニシャルの方が断然良いッス。庶民バンザイッスよ」
俺の渋い顔に少女たちの笑いが更に
「た、たた……谷家は
灼が気恥ずかしさを
「
「……まあ、分家らしいけどな」
俺は頭を
「らしいって、『自分のルーツ』も歴史じゃないの? ともあれ、あんたの応援であたしたちが着るのよ。あんなのだったら絶対に嫌だしッ」
あんなの、という富樫チームの家紋入りTシャツを指差し、自分が手にした桃色Tシャツをスポーツバッグに突っ込んだ。
「そ、そうかな……。俺的には――」
――カッコイイと思うけどな――という言葉を口の中で
「あたし、そろそろ部活だから行くわ。谷も双月に恥かかせないように堂々と『出陣』してよね」
去り行こうとする気配に
「あたしもサーキットに用事があったッス」
「このTシャツ、うちの部員にも
最後に退室していく有元が、何に対してなのか意地悪く笑って見せた。
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