第六十話:さらなる向こうへ
※※ 60 ※※
陽も傾き
テニスの試合はかなり
「あんたの勝ちだわ。約束通り好きにしてちょうだい」
(勝利の虚しさ。いや違う、双月も会長も真剣だった)
やがて校舎裏の
「何か用? ラケットとボールは、明日きちんと返す約束をしてるわ」
灼は校舎の壁に
「双月。あんたって何でもできるのね」
「何でもできないわ」
重い口を開け、
「
と、同時に
「あんた……。
灼が壁打ちを止め、大きな栗色の瞳にしっかりと意思の光を宿らせて、真っ直ぐに新庄を見た。決意で硬く
「平良がいるから。平良の
(何がどうということわけではない。あたしは双月の強い意志と覚悟からくる自信に
新庄は深い
「あたし、生徒会や会長に
新庄が言い、手を差し伸べる。
「うん。こちらこそ」
灼は声に出して答えて、その手を取った。静かに強固な思いで新庄は頷く。
「あんたのストローク、強烈だった。あたしのライバルだわ」
「次は負けない」
灼は自分の気持ちを視線に込めて、見つめ返した。
そんな
「谷……と話をするのは初めて、かな」
まだレジ前の行列に並んでいる灼を待つことなく、ストローでアイスコーヒーを
「まあ、同級生だけど同じクラスになったことないし……初対面に近いかな」
「二年七組、新庄めぐみ。テニス部の次期部長よ。現在、生徒会の雑務を
「俺は……」
「知ってる。二年三組、谷平良。『歴史学研究部』で次期生徒会長。現在、双月灼と
「俺と灼が恋愛!? な、なな何故にそうなるッ」
その不意な回答に、俺は完全に
「
だから
一旦、声を切って核心を突く。
「谷。あんたには、そこまで捧げようとする双月を受け止める覚悟はあるの?」
互いに無言で
「二人とも深刻な顔で何してるのよ?」
ようやくレジの行列から解放された灼が、人ごみでふらふらになってトレイを手にやって来た。彼女の目の前にいる二人の空気を敏感に察し、少々不機嫌な態度で俺の隣に座る。尋ねつつ、見つつ、
「平良ッ! あんたバーガーを二つも買ったのッ」
「わ、悪いかよ? 校庭でお前を待ってる間、お
灼がむっと少し頬を
「今日の晩御飯、ハンバーグだったのに……」
「俺は問題ないぞ」
その傍らで
「……あんた達、毎日そんな夫婦ごっこみたいなことしてるの? カレシがいない女子高生には目に毒だわ」
俺は大いに乾いた笑顔で返し、灼は慌てて手を振る。
「ま、毎日じゃないわ。たまによ、ね? 平良」
「……あ、ああ。そうだな、たまにかな?」
その様を、やはり瞳をキラリと輝かせて新庄は平良と灼を眺める。
「ふうん……そうなんだ」
答えて、
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