第四十三話:薄幸の美女『式子内親王』~検証⑧~
※※ 43 ※※
その夜。
夜半を越え、空に垂れ込めた曇雲が街に冷たい
「朝までに止むかな?」
俺は意味のない自問をして『
この書物の作者は平安末期から鎌倉初期にかけての公家で、桓武平氏
葛原親王から第一皇子・
さらに『兵範記』原本の特長として、大量の
その中でも1993年、京都大学附属図書館報『
式子内親王は平治元年<1159>十月二十五日、十歳で内親王
退下後は、藤原
しかし、八条院とその姫宮を
建久三年<1192>後白河院
建久八年<1197>には蔵人大夫・橘
正治元年<1199>五月頃から年末にかけて病が重くなる。定家が式子内親王のもとへ何度となく参上している。定家の日記『明月記』によると式子内親王の病状を心配し、一喜一憂を繰り返している。
また、なかなか
現在では胸の
「二十一歳から五十三歳まで約三十年。病弱な身体で、
俺は思わず同情の声を
「朝が早いし、続きは……」
早くも
朝になっても雨は止んでいなかった。
昨日の柔らかな
肌を刺す風の中、灼は手袋越しに息を吹きかけ、手のひらを
「急に冷えてきたね。
「そうだな……」
俺は、降り止まぬ
「平良、昨日遅くまで
赤い傘の下から、灼が
「その通りだが……なんで、分かったんだ?」
「だって寝る時、あんたの部屋が明るかったのが見えたから」
通りを隔てた
灼は、そんな態度を気にすることなく、関心の色だけを表に出した。
「で、なにか気付いたの?」
「ん? んん……気付いたというか、考えさせられたというか……」
何時にない
「
深く嘆息した俺は続ける。
「まあ、退下後は帝や貴族と結婚して、第二の人生を歩んだ
だからこそかな、秘めた恋だけでも生きた
多分気付かれただろうが、再び吐息を漏らす。心が重い。
灼は言葉が終わったとみるや、こらえるように傘を持って
「……っく、くく」
無邪気で
「っあはははははは!」
大きな栗色の瞳に涙を
「平良、全くあんたらしくないわッ。何、気分出してるのよ」
「……そんなに笑うことかよ?」
「あんた、会長のこと考えてたんでしょ?」
「べ、別に……俺は……」
途切れ途切れの言葉が言い
小柄な
(
俺は、傘の柄を握る自分の手に視線を移し、言葉を
「確かに、俺は会長のことが気になってる」
「そう」
赤い傘の回転がふいに止まり、灼は素っ気なく答えた。胸を突き刺す、見えない傷の痛みに
「あたしは、あんたと歴史検証するのが一番
「すまん……」
灼は、何でもない一言を、泣きたいくらいに抱き
「なあ、灼」
「なに?」
傘の下に、顔を隠したまま
「
「……」
すぐには答えを返せなかった。
絶対だった二人だけの、当たり前の世界。しかし
体育の授業、上級生が校庭で球技をしていると、つい平良を探している自分。
放課後、校舎の入り口で平良を待つ、ちょっと恥ずかしい嬉しさ。
そんな
「あたしには分からない。幸せなんて人それぞれだから。でも、幸せだったといいなって思う」
俺と灼の言葉は
やがて、千葉県の動脈とも言える幹線道路を渡り、学校へと続く長い坂道の
「急ぐか」
「うんッ」
語って、頼って、一つの道へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます