第十話:設楽原攻防戦




                  ※※ 10 ※※




 色とりどりの幟を背負ったモトクロスバイクがデコボコの地面で弾みながら迫ってくる。


「……すげェ。まるで暴走族だ」


 今、俺たちは正面馬防柵前の塹壕内にいる。首だけをひょいっと覗かせた富樫が唸った。


「俺たちも負けてない格好だぜ?」


 学校指定のジャージに剣道部から借りた防具。背中には給水用タンクと白地に黒の織田木瓜。統一された十五本の幟が一列に陣を構えている。こちらも圧巻だ。


剣抜弩張けんばつどちょう。来る……構えて」


 四字熟語の言葉で織田軍全員が正面に意識した。

 鉄騎馬隊の先鋒が連吾川に差向かったとき。耐え抜いた気迫が大きく膨らんで爆発した。


「放て」


 四字熟語の声は小さい。しかしバイクの轟音よりもはっきりと皆の耳に届いた。

 瞬間、圧搾空気が弾ける破裂音が戦場に響いた。会場の観覧者は、驚きと刺激の強さで、誰もが耳をふさぐ。近くの山々に木霊して余韻の音が細くたなびいた。

 銃口マズルから漏れる微細な水滴が、一斉射撃によって一瞬にして濃霧になり、目の前が見えなくなる。


迅雷烈風じんらいれっぷう。次の指定位置まで後退」


 四字熟語は戦果を確かめることなく、新たなる指示を下した。

 十五名が三隊に分かれ、迅速に行動する。

 濃霧が晴れた頃には、正面の織田軍はすでにいなかった。






 灼は勝利の確信を疑っていなかった。

 なにせ、こっちには機動力がある。塹壕陣地はモトクロス部員にとってフープスを越えるほどでもないくらい、難なく突破していくだろう。

 だが、ワンサイドゲームとまではいかないことも灼は熟知していた。

 確かに鉄砲の一斉射撃は脅威だ。射線域に誘い込まれたら、こちらが不利だ。


「みんな、いい? 最初は必ず一斉射撃が待ってる。五名三隊の縦深陣で敵正面を目指し、射程ギリギリの連吾川手前で一斉に敵前反転。その後、密集陣形で敵陣を素早く突破してフラッグを取るわよ!!」

「おー!!」

 

 気合を入れる。


「御旗楯無、ご照覧あれ!!」


 モトクロス部員の尾崎が言った。……いや、それいいのかな? 叫んでも。


「御旗楯無、ご照覧あれ!!」


 他の部員も面白がって叫びだす。尾崎は灼にこっそり舌を出し、ささやいた。


「武田なんとかってドラマ見たとき言ってたけど、どういう意味?」


 灼は天を仰いだ。


「と、とにかく気合い入れて行くよ!!」


 全員バイクに跨り、スロットルを手袋越しに確認する。


「突撃ィー!!」


 瞬間、鉄騎馬ならぬマシンのエンジンが雄叫びを上げた。

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