第五十六話:立ちはだかる『壁』
※※ 56 ※※
俺と会長は
一人の女子が分度器が付随する
「いまいち計測点が分かりにくいのよねェ……」
誰にでもなく自分に言う少女。二つに
「ああ、もうッ! どうやっても計測できないわッ」
少し怒った少女の声が響く。恐らく彼女が
「谷じゃん。珍しいねェ……」
言って、同じくその声で会長へと視線を移し、にんまり笑う。
「いつも、べったり
「はァ!? 何を言ってッ」
意味もなく灼への後ろめたさから
「ごめん、ごめん」
笑って謝る。謝って、さらに
「三年と言えば、変人だけど……校内一番の超絶美少女・
「あのなァ……」
俺が、そんな
「谷君。この
ぶっきら棒で不愛想に。
その仕草に、目の前の女子は口元に手を当て、まさに『ほくそ笑む』の表情のまま「このハーレム男」と笑う。さすがに俺も
「いい加減にしろッ。会長、こいつは……」
「はいッ。谷のクラスメイトで
俺に答える間を与えず、その満ち
「……思い出したわ。確か『地質調査研究部』の有元さんね。
その平淡な声に
「会長がそれ、言いますか。あたしたち、生徒会からの課題で学校敷地の測量をしようって決めて、ここの
突如、
「全くうまくいかないだよねェー。谷、良い方法ない?」
「……良い方法って言われてもなぁ。この計測器みたいなのは自作か?」
と、
「うん。どうやら昔の先輩が作ったものみたい。せっかく見つけたので使ってやろうと思ったんだけど……さっぱり使い方が分からないんだよねェ」
明るく乾いた笑いで失敗を吹き飛ばす
「有元さん。あなた『三角関数表』は持ってないのかしら? 私も詳しくは分からないけど必要だと聞いてるわ」
「何ですか、それ。あたしは自慢じゃないけど数学が一番苦手なんです」
会長の
「何よ、その態度。どうせ、あたしは谷と違って
少し
「謝罪ついでに俺が知る範囲で助言できるなら、江戸時代で
彼は十七年をかけて日本全国を測量して『大日本沿海
その中に中国語に翻訳されたヨーロッパの数学書『
「で、具体的な方法は?」
答えを
「文献で読んだだけだからな。実際の手順は分からん」
「……使えないじゃん」
「使えないわね」
俺への不平を、期待外れの
「そ……それは、だな。これから話すとこだったんだ。実務に
俺はやや
『平良、どうしたの?』
「灼か。今、会長と部活動の
『へェー……。会長と一緒なんだぁ』
急にスマートフォンの向こう側から重く
「い、いや……えっと、おまえ知ってるはずだろ?」
『知ってるわよ。何だかあんたの周りに女子が他にもいる気がしただけだわ』
電話口でクスクスと笑う灼の声が悪魔の
「よ、要件なんだが……。『地質調査研究部』に測量の実測作業を教えてやってほしい」
『うーん……』
『いいわ。掃除当番だから、終わったら行けばいいのね。ちなみにレベルは何?』
俺は、ちらりと有元の横にある器具に視線を移す。一瞬、どう説明するべきか悩んだが、すぐに諦めた。
「なんでも以前在籍してた先輩が自作したものらしい。機能するかどうかは分からん」
『そう。だったら考古学研究部が使用してたレベルを持っていくわ』
「すまん。校舎裏の
俺はスマートフォンの電話機能をオフにして、
「後で灼がレベルを持って来て、教えてくれるそうだ」
「
有元が
「心配するな。灼は小学校の頃から
「……ホントに双月って何でもできるのね」
深く嘆息した
「一年の後輩が言ってたわ。調理実習の授業で双月、プロ顔向けだったって。ねえ、そうだったんでしょ?
呼ばれた背の高い男子が俺にペコリとお辞儀した。それを見届けた有元は聞こえるか聞こえないかの声で言う。
「まあ、目立つ反面、一部の女子から
有元は
「わかったわ、ここで待ってる。谷、あんがと」
「いや、俺は何もしてない。頑張れよ」
俺は会長を
校舎裏を
「
フェンス越しに会長がフェイスタオルで首筋を
「……ここまで来るなんて。会長、あんたのやり方、相当
ふん、と
「今は谷君と巡見中よ。だから
無関心で涼やかな声の重さが増す。新庄は静かに、挑むように
「何でしょう?」
「この前の朝、資料整理をお願いしてたのに、あなた部活の朝練を優先したわ。朝練は大事だけど、生徒会に入った以上、両立させるのも必要なこと。私、その時『三度目はないわよ』と警告したはずよ。
庭球部の部長……今は元部長かしらね。あなたのスポーツ推薦の底上げを依頼されたので生徒会へ入ってもらったのだけど、このままだと確実にスポーツ推薦は無くなるわ」
「かッ、会長のくせに
(ああ、会長に早朝から手伝わされた時、生徒会室に飛び込んできた女子か)
俺は
「
新庄は押し黙り、思い
「会長……。あ、あたしと勝負してくださいッ!」
その言葉のあまりな衝撃に、
「な……ッ」
「えッ……?」
俺と会長、二人同時に間抜けな声を上げていた。
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