第三十七話:『貞信公』と『定家』と ~検証⑥~
※※ 37 ※※
「あ、あれ?」
「
「なんだ、おまえたちも来てたのか?」
遅れて、苦笑と共に振り返る部長。確かに、何だかずいぶん久しぶりな気がした。
「部長と四字熟語か。奇妙なところで会うもんだ」
「全くだ。お前たちもデートか?」
部長は再び苦笑を漏らしながら言う。不意に俺の中で違和感が
「
四字熟語が何か言おうとして俯き、部長の腕に回した自分の手に視線を向け、それがいけないことだったかのように、急いで離れようとする。しかし、部長が四字熟語の肩を抱き、半ば強引に引き寄せた。
「まあ、言ってなかったしな。付き合って1年半くらいかな? ちなみに色々と儀式は済ませたぜ」
不敵に笑う部長に対し、灼は頬を赤らめ、四字熟語は
「
鉄面皮から僅かに
「
その名前を聞いて、先ほどまでの楽しさが
「――『玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする』
会長が
どういうつもりか、なにを考えているのか、全く読めない
「……俺たちも行くか」
俺は
「うんっ! 行こう」
俺は思わず灼の小さな頭を撫でた。
会場のゲートでチケットを渡し、少し
俺達が最初に見なければならない色紙……それは、
――『このたびは
「やっぱり、菅原
「ああ……まあ、最後のおさらいだ。この歌は
ちなみに、この歌の意味だが……」
灼が「はいっ」と、元気よく手を挙げた。
「このたび<今回>の旅は慌ただしい出発でしたから、神前に
灼は
「そうだな。
その際に
――『
「えっ……と、どういう意味?」
灼は、その理論を考えて少し
俺は柔らかく優しく、灼の手を
「その答えは、次の歌を見てからだ」
俺は歩みを進め、色紙の前に立った。
――『小倉山
「これは
「
俺は、にやりと笑い言う。
「この歌の意味は?」
灼は嫌悪と緊張、
「小倉山の紅葉、私の気持ちに応えてくれるならば、その優美な景色をそのままに。どうか散らずにそのままで。きっと今度は
俺は笑いかけ、わざとらしく肩を
「『
詞書にはこうある。
――『
つまり、
「で? この歌も定家によってひっくり返る?」
灼は平然と答え、話題を戻す。
「そうだ。最後にこの歌を見てほしい」
再び、俺は灼の手を取り、新たな色紙を探す。手を引かれながら灼は「うん」と
山科会長から突き付けられた命題である『
「平良、手……」
「ん? どうした?」
「……痛い」
「ご、ごめん。検証のことばかり考えて、お前に
俺はさらに灼から距離を取ろうと身を逃がす。だが、灼は俺の腕に手を
お互いの胸を合わせるほど近く、灼は大きな栗色の瞳に、接するという
「……手は痛くないの。ここは暗いから
(これ以上、離れるのは……心が痛い)
灼の
俺たちは、とある色紙の前に立つ。
――『ちはやぶる
灼は
「『ヘンタイ少女漫画家』の
俺は苦笑を交え、答える。
「百人一首は定家の選定だが、正直その基準は分かってない。まあ、その話は後でするが、この歌は『古今集』秋に収められてる。
――『
つまり、実際に景色を見たわけでなく、これは
と、気軽に促す俺に、灼は一瞬厳しい視線を送ったが、重たい肩を落とし、
「
もはや諦めたかのように、ありったけの
「やっぱり流石だな。で、この二人は道真の知人であり、親友なわけだが……ここからは俺が尊敬する
菅原
加えて
「誰に?」
返る答えに、灼は
「それは
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