第74話
下の階に降りると、まるでビジネスホテルの様にいくつも扉が並んでおり、親分さんの部下らしき人がすぐに来て、親分さんのいる部屋へと案内してもらう。
部屋の中は上のキャバクラとは違い、高級感はあるが落ち着いた雰囲気のインテリアとなっている。
「おう、随分早いな。 悪いが、年寄りの酒飲みに少し付き合ってくれ」
というわけで、私は1人用のソファーに座り、親分さんと累パパと私の3人で乾杯を行い、お酒を飲み始める。
お酒はキャバクラでも最初に出してもらったウィスキーの水割り。
今回は綺麗な女性ではなく、親分さんの部下の方が作ってくれたが、先程よりも少し濃くて、正直飲みにくい。
氷が溶けて薄くなるまでゆっくりと飲むしかないだろう。
「上はどうだった? 気に入った女はいたか?」
「えっと……まぁ、そうですね。 綺麗な女性ばかりでした」
「そうかそうか。 こんな年寄りに言われても煩いだけだと思うが、女遊びは若いうちにいっぱいしておいた方がいいぞ。 碌に女と接してこなかった奴は、女に簡単に騙されるし、浮気されて逃げられる奴が多いからな」
……今日の親分さんは少しテンションが高いみたいだ。
まだ飲み始めなので酔ってはいないと思うのだが……お酒が好きでテンションが上がってるのかな?
表情も明らかに楽しんでいるように見える。
まぁ、楽しくお酒を飲めることはいいことだと思う。
だけど……彼女の父親がいる前で堂々と浮気を勧めるのはやめて欲しい。
累パパが私をジッと見て来るから少し怖いし……。
こっちから何か話を振って、話題を変えた方がいいだろう。
「上もそうですけど、ここもオシャレで雰囲気のいいところですね。 このビルはその……縄張り的な感じですか?」
「まぁそうだな。 この土地と建物は、うちの奴が管理してる。 だが、上のキャバクラを経営している奴はカタギの人間だぞ。 従業員と女も、ほとんどがカタギの人間だ。俺と奥阿賀さんは、上のキャバクラに結構な額を出資していてな……。 おかげでこうして、自由に酒を飲めるってわけだ」
……普通、カタギの人がお金を借りるのなら、銀行に借りに行くと思うのだが、累パパや親分さんが出資することってあるんだな……。
いや、むしろ親分さんか親分さんの部下が、カタギの人に『大金を出資するからお金持ち向けのキャバクラを経営しない?』的なお誘いをしたのではないだろうか?
暴対法のせいで、ヤーさんの方々は外で堂々とお酒を飲めないって話を聞くし、お金出して自分たちが気持ちよく飲める店を作っても不思議ではないかも……?
そんなことを考えながら、お酒を1口飲み、先程のことを話すことにした。
「先程上でちょっと絡まれたんですけど……」
「……絡まれた? お前がか? それとも……」
「最初は奥阿賀さんの方ですね。 仕方がないことですけど、俺が貧弱な雑魚に見えたみたいで、調子に乗って喧嘩を売ってきた感じです」
「まぁ……確かにお前さん、見た目は普通の若造にしか見えないからな……。 それで、どうしたんだ?」
「殴ってきたので、腕をこう……捻ってやりました。 近くにキャストの女性がいましたし、他のお客さんもいましたので、結構穏便に済ませた感じですね」
「……つまり上の店で暴力沙汰を起こそうとした馬鹿がいるんだな?」
「正確には、暴力を命令したゼネコンの社長と、命令に従って殴ってきたデカい馬鹿ですね。 俺としては、少しあの場の雰囲気が悪くなっただけで、特に被害はなかったんで気にしませんけど……ちょっと気になりますよね」
「……気になる? 気になるって何がだ?」
「単に飲んで馬鹿になっただけならいいんですけど……最近の襲撃と関係があったら面倒だな~って思いまして……」
「……そいつの名前は?」
親分さんが怖い目で聞いてくるが、私は名前を知らないので、累パパの方を見た。
親分さんも累パパを見る。
さっきから静かにお酒を飲んでいたが、あの社長さんのことを考えていたのだろうか?
「絡んできたのは関西大阪に本社を置く、四海建設の代表取締役会長、四海 兎影さんです。 僕とも面識はありますけど、妻の高校の同級生という繋がりで知り合いました。 まぁその……高校時代に妻のことが好きだったみたいで……」
「まぁ、動機としては普通に考えられる範囲だな。 だが大阪か……少し厄介だな」
私は累パパが嫌われている理由に内心爆笑していて、表情に出ないよう頑張って勤めているのだが、親分さんはなにやら難しそうな表情をしていた。
大阪という場所に問題があるのだろうか?
大阪と言えば……カジノとホームレスと治安の悪さが有名かな?
あとはたこ焼きのイメージしかない。
私の知見・知識が貧弱なことがよくわかるね。
「一応調べさせてみるが、今回はあまり期待しないでくれ。 今の大阪は金があって兵隊も沢山いる。 向こうの組織と四海建設に繋がりがある場合、こっちが送った人員なんてすぐに消されるだろう。 うちに出来るのは、こっちにいる間の足取りを追うことだけだ」
「やっぱり大阪みたいな有名な街だと、裏の組織もデカいんですか?」
「まぁな。 と言っても、何年も前に、国内唯一のカジノが誘致されたことで、金も人員も一瞬で国内一の組織になった。 裏の賭場と比べればレートは少し落ちるかもしれねぇが、表でカタギ相手に堂々とぼろ儲けできる商売だ。 金は入るし、借金で駒にできる人間が山ほど増えるわけだから、そりゃ国内一になって当然だよな……」
……まぁ、カジノとヤクザが繋がっていても、別におかしなことではないよね。
『暴対法はどうした』とか『あれ?カジノ事業って、国から補助金出てたよね?』とか、思うところはたくさんあるのだが、なにもおかしなことではない……。
賭博を認めるのはまぁ自己責任の問題だから別にいいのだけど、カジノ施設の建設に補助金を出すとか、今考えても税金の使い方としておかしいよね。
当時の政治家が死んでなかったらぶっ殺しに行くところだったわ。
とりあえず、あの社長さんは敵かもしれないが、調べることはできないみたいなので、今回のことは一旦忘れることにした。
お酒の席で、難しい話をいつまでも続けるのは、無粋なことだろう。
今夜はアルコールでハッピーな気分にならなければ……。
というわけで、相変わらず美味しいと思えない酒を体内に取り入れながら、累パパや親分さんの愚痴や逸話などを聞いて、夜を過ごすのだった。
朝方までお酒に付き合い、運転代行で奥阿賀家へと戻って、歩いて家へと帰った。
少し眠気はあるが、明日は予定があるので、今日はこのまま頑張って夕方まで起きていることにしよう。
とりあえずやることと言えば、昼ダンジョンの探索だ。
ダンジョンの『マップ』は、昨日の時点ですべて埋めることが出来ているのだが、オートマトンでは宝箱の中身を回収できないため、ボス部屋へ行く前に私自身で宝箱を回収しに行かないといけない。
宝箱は14個発見しており、内訳は茶色が11個と銀色が3つだ。
流石に金の宝箱は珍しいのかな?
そんなことを考えながらも、しっかりと装備の準備と確認を行い、夜のダンジョンから昼のダンジョンに切り替わったことを確認してから、お宝回収を開始する。
出発から3分ちょっと。
1つ目の宝箱へと到着した。
宝箱の色は茶色で、中身は『目のコイン』だった。
特に言うこともないため、速攻で使用して次へ向かう。
2分ほどで次の宝箱へと到着。
今回も茶色の宝箱で、中身は『扉の鍵』だった。
大事なものなので、小銭入れ型のマジックバッグに入れてから次へ……。
5分くらいジョギングし、3つ目の銀の宝箱へとやってきた。
銀の宝箱なので、期待しながら中身を確認すると、出てきたものは『位飴』。
まぁ、レベルが上がるのはきっといいことだ。
生命エネルギー的なものなので、できれば筋トレ前に食べたいが、包装されていないため、そのままマジックバッグに入れるのも汚い気がしたのでその場で食べた。
私のレベルが159になったのを確認し、どんどん宝箱を回収しに行く。
20分ほどかけて、6個の茶色の宝箱を回収したが、中身は付与のついた服やアクセサリーなどのハズレアイテムと、しょぼい威力のハズレ装弾射出型魔法銃で、唯一当たりと言えるの、は久しぶりに出た『スマホ』くらいだった。
純粋な中身の悪さはあると思うが、スマホ以外に価値を感じないのは、私自身で作ったり付与を行えるからだろう。
そんなことを思いながら、2つ目の銀の宝箱へとやってきた。
先程は『位飴』だったが、やはり銀の宝箱の中身には期待してしまう。
ワクワクしながら宝箱を壊すと、出てきたのは1枚のカード……。
『スキャン』したところ、『魔才のチケット』という、初めてのアイテムだった。
「魔才? 魔法の才能とか? それにチケット? ……これは一旦保留かな」
手に持った感覚的に、コイン系と同じように魔力を込めて使用するアイテムだと思うのだが、効果が分からないため一旦マジックバッグに保管しておき、帰ってから『データ』を確認することにした。
そこから7分ほど移動したところにあった茶色の宝箱は、中身が付与付きの靴下だったのでハズレだったが、さらに1分ほど移動した位置にあった茶色の宝箱からは、『魔法の種』をゲットすることが出来た。
さっそく使用したところ、『体調管理』の私のステータスに『念力魔法』という魔法が追加されている。
これは茶色の宝箱の中ではかなりの大当たりだろう。
「それで……『念力魔法』か……念力ね〜。 スプーンを曲げたりできるのかな?」
そんなことを思いながら試したところ、スプーンを曲げることはできなかったが、魔力を使って物を自由に移動させる魔法みたいだ。
だが、覚えたばかりでレベルが低いせいかパワーがなく重いものは動かせないため、戦闘には不向きな魔法のように感じる。
日常生活の中なら、なにかしらの使い道があるのかもしれないという結論を出して、次の宝箱へと移動した。
5分ほど移動し、最後の銀の宝箱。
中に入っていた物は綺麗な金色の指輪だった。
『スキャン』したところ『高価な魔覚の指輪』という表示がでる。
アイテム系が『高価な』で始まっている場合、アクセサリーではなく武器の扱いになっていると思うのだが、これは武器なのだろうか?
指に着けてみても、特に変化は感じない。
メリケンサックみたいに、これで殴ればいいのだろうか?
そんなことを考えながらも、とりあえず先に、昼のダンジョン最後の宝箱を回収しに行く。
茶色の宝箱の中身は『位飴』だった。
「終わった〜! やっぱ宝箱を回収するだけで1時間かかったな。 このペースでダンジョンが広くなると、すぐに1ヶ月ではダンジョンが終わらなくなりそう……。 まぁ頑張れば終わるだろうけど、昼か夜のどっちかに専念する感じになるかな? オートマトンが全自動でダンジョン探索してくれると、凄く楽なんだけどな~」
そんなことを言いながら、ボス部屋へと移動し、少し休憩を取りながら、体調や装備の確認を行う。
1発も銃を撃っていないため、装備は万全の状態。
体力的にも、まだまだ余裕があると思うし、眠気も特になく意識はハッキリとしている。
このままボス部屋に入っても、特に問題はないだろう。
というわけで、『扉の鍵』を使用して、ボス部屋へと入るのだった。
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