第64話

ゲームして、動画編集して、ゲームして、飯食って風呂入って、動画編集して、少し仮眠して、ゲームして……といった感じで、睡眠を限りなく減らした生活を送り続け、ついに先行体験最終日となってしまった。

流石にだいぶ疲れは溜まってきているが、それでも1日しっかり寝れば完全回復できそうな程度の疲れなので、我ながら凄い体力だと思う。


だが、これだけ頑張った結果、私のチャンネル登録者数は超爆増し、なんと10万人を超えて12万人台に乗っていた。

やはり『新作ゲームの先行体験』という、限られた人にしか提供できない話題の動画を、誰よりも速く詳しく発信していた私の動画に、引き寄せられる人が多かったということなのだろう。

コメントの約6割が外国語だったことは少し気になるが、タンス動画の再生数はどれも100万を超えているので、いったいどれだけの収益が得られるのか、今から本当に楽しみだ。


そしてなんと、毎日ずっとタンスを遊び続けた結果、ゲーム内のフレンドは14人も増えて、2日前くらいからパーティにも誘われるようになっていた。

動画内で、お相手がパーティを組んで遊んでいるのに対し、私はず~~~っとソロで遊んでいることと、フレンド申請が1回も来ていないことを自虐的に話したところ、同情されたのかパーティにお誘いいただいて、フレンド申請していただけたのだ。

昔からよく言われているが、0から1にはなかなかならないが、1から増やすのは楽という話は、結構信憑性があるのかもしれない。


「そういえば、チガイネさんに聞きたいことがあるんですけど……」


フルパでのマッチング待機中、新しくフレンドとなったジンガさんが、声をかけてきた。

ジンガさんはいわゆる企業所属のVチューバーというやつで、登録者はなんと38万人。

やはりFPSゲームのプレイ配信が活動のメインで、ドゲザーで遊んだことはないらしいが、タンスでの動きを見た限り、間違いなく私よりもゲームIQが高いはずだ。


「なんですか?」


「『Don't get there』の人達って、皆チガイネさんみたいなキャラコンしながら戦う感じですか?」


「ドゲザーですか? あ〜……皆ではないですね。 むしろ最近戦った人たちは、キャラコンよりもエイム重視な動きの人ばかりでした。 まぁ、クロスプレイの影響でパッドの人が多いから、そう感じただけかもしれませんけど……」


「あ、そうなんですね。 このゲームとドゲザーって、どっちがキャラコンヤバい?」


「間違いなくドゲザーですね。 移動スキル単体で見るなら正直キャラコンに差はない感じなんですけど、こっちは移動スキルを使ったらクールタイム中は動けなくなるのに対して、ドゲザーならスキルを切り替えて別の移動スキルでキャラコンできますからね。 しかもスキルとキャラコンをミスらずに上手く組み合わせれば、ど・こ・ま・で・も加速できちゃうんで、マジでエイムして撃ち殺すのは無理ってレベルになりますよ」


「……そんなに? マジで? それは大げさでしょ」


「いやいやマジですマジです。 今度ちょっと練習して、SNSに動画上げますよ」


「マジか……そんなヤバいゲームやって大丈夫なの? 人間辞めちゃってない?」


「あはは……。 自分はまだ大丈夫ですけど、あの頃一緒に遊んでた人たちがどうなったかは、分からないですね……」


そう……ドゲザーの運営元を買収したと思われる、あの頃一緒に遊んでいた化け物の方々は、恐らくなんの情報も残さずに引退してしまった様だった。

でなければ私の『ドゲザー最速移動講座』なんていう、面白味はほとんどない真面目解説系の動画が300万再生を超えて、コメントも何百件と書き込まれる訳がない。

元々野良で普通にマッチングするより、身内カスタムで鎬を削りまくって技を磨いている人たちだったので、情報を広めていないこと自体は不思議ではないのだけど……。

まぁ、ここまで何の情報も残していなかったからこそ、私はドゲザーでバズることが出来たのだ。

何千回殺されたか覚えていない化け物達に、圧倒的感謝……。


「でもちょっと興味出てきたな……。 これ終わったらしばらくドゲザー遊んでみようかな?」


……まともな人をドゲザーの沼に引きずり込むのも、これで3人目か……。


直接話して興味を持ってもらったのは、別ゲーで知り合ったフレンドさん以来のはずだ。

1人目は全くドゲザー適性がなかったようで、ストーリーモードだけクリアして、マルチはすぐにやらなくなった。

2人目のフレンドさんは適応したようで、今でも時々1人で遊んでいるみたいだが、そこまでゲームをガチでやるタイプではないため、正直ある程度上手くなった時点で成長は止まっているように思う。


ジンガさんはどうなるか……。

まぁ、適性があるかは分からないが、タンスの先行体験が終わって、正式にリリースされるまでの間、少し触るくらいなら全然ありだろう。

ゲームIQの低い私がこのゲームで活躍出来ているのは、間違いなくドゲザーで遊んでいたことが主な要因のはず……。

正直私はドゲザーからタンスに完全移行するつもりだが、逆にタンスからドゲザーに入る人がいてもいいのではないだろうか?

是非ともジンガさんには、ドゲザーの魅力を楽しんでほしい。


「戻りました~」


「はーい」


「おかえり~」


丁度ジンガさんとの話が一段落ついたタイミングで、飲み物を取りに行っていた、ジンガさんと同じ事務所所属の女性Vチューバーである、小奈闇 モモチさんが戻ってきた。

どうせならフルパで遊ぼうということでジンガさんが誘い、私とは今日が初対面だ。


「すみません戻りました」


「実は戻ってました~」


トイレと飲み物を取りに行っていた、元プロさんとは別の元プロストリーマーさん達も戻ってきているようなので、再びマッチングを再開した。




「時間的に、次でラストになるかな?」


「そうですね。 勝って終わりたいですね~」


「最初はなんというか、普通のFPSって感じだったけど、数日でマジで化けたよね~」


「ホントそれ。 やっぱキャラコンが面白いFPSってやっていて楽しいし、動画映えが凄いよね」


「チガイネさんのキャラコン動画が流行ってからマジでゲーム性変わった。 FPS初心者には難しいかもだけど、こういう系のFPS好きな人めっちゃ増えそう」


そんな話を聞いていると、マッチングが決まって試合が始まった。

試合ルールは、ドゲザー民でも順応しやすそうな拠点取り。

A・B・Cの3つの拠点があって、10秒ごとに取っている拠点の数によって一定のポイントが加算され、先に300ポイントへ到達したチームが勝利するルールだ。

最後なので一番得意な武器とスキルを選び、相手を確認すると、タンスで初めて見る名前の人しかいなかった。


「あれ? 射致命さんじゃん。 参加してたんだ」


「あ、ほんとだ。 最近見てなかったけど、配信してるのかな?」


他の方々は、同業者が相手にいるとしか思っていない様だが、私は内心めちゃくちゃ焦っていた。

タンスでは初めて見る名前だが、ドゲザーでは見たことのある名前だったのだ。

ITIMEIさんと射致命さんが同一人物の可能性を考えると、私以上のドゲザーの化け物が敵にいるということになるし、それ以外の名前も、引退したと思っていたドゲザーの化け物達と同じ名前……。

本物だった場合、マジで地獄絵図になる予感しかしないのだが、まだ確証はない。

一応警告しておくべきだろうか……?


「開幕、B拠点通ってから敵陣攻めに行っていいですか?」


「お〜? チガイネさんめっちゃやる気だね〜。 了解了解。 じゃあ、自陣取ったら4人でB攻めようか」


「すみません。 お願いします」


流石に確証のないことを言うのはあれなので、少し自分勝手かもしれないが、まずは確認するため単独突撃を敢行することにした。

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