第65話
試合開始直後の奇襲が普通に成功してしまい、序盤奪ったリードを堅実に守り続けた結果、十分なリードを確保したまま、試合は終盤へと差し掛かっていた。
唯一気を付けるとすれば、A・B・C全ての拠点を取られて、こちらにポイントが入らなくなることだけ。
5対5でこのルールだと、なかなかそんなことにはならないはずなので、ぶっちゃけ既にほぼ勝ち確だと思っている。
まぁ、勝って終わりたいので油断はしないのだが……。
そして気になるお相手の方々なのだが……恐らくドゲザーにいた古の化け物達ではなく、名前が同じだけの別人だろう。
なんと言えばいいか……このお相手さん達は、FPSの教科書を見ながらプレーしているのかと思えるほど基本に忠実な立ち回りをしている感じなのだが、私の知っている化け物達は、相手の思考まで読み切って未来予知を疑うレベルの立ち回りをするのが特徴だった。
今のお相手さん達はただ上手いだけで、全く相手の思考や心理を読んで動いていないし、誘導する素振りすら一切ない。
私が化け物と崇め尊敬していた人たちとは、根本から違っているのだ。
というより……これ、相手は本当に人間なのだろうか?
エイムは上手い人間っぽい感じだし、近距離での撃ち合いでいい感じのキャラコンしてるし、チームとしてしっかりと連携を取りながら動いているように感じるけど、なんとなく撃った時の反応が凄く妙な感じがする様な……。
冷静を通り越して機械的過ぎる反応のように感じたのだ。
ワンチャン、名前の元になった人の動きを学習させたAIプレイヤーの可能性も……?
相手をボット扱いして煽ってるみたいになりそうだから口には出さないけど……。
そんなことを考えながら、淡々と攻めてくるお相手さん達を、作業的に処理していく。
疑いの目で見ると、視界に入ってから撃ってくるまでの時間的猶予が同じように感じるし、撃ってからこっちを振り向く速さも同じに見えるし、キャラコンも5パターンくらいしかしていないような……?
「チガイネさんつっよ! 今のヤバ過ぎでしょ……」
「いや、なんというか……相手のキャラコン、同じような動きが多いから予測して撃てるんですよね。 数パターンの中からランダムで動いてるって感じで……」
「あ、やっぱりそうっすよね。 エイムいいしきっちりフォーカス合わせてくるから強いっすけど、結構同じ動きしてますよね」
「え、マジ? 射致命さんっぽくないなーとは思ったけど、それは気づかなかったわ。 もしかしてボットだったりする? ドゲザーのNPCもクッソ強かったし……」
「私8デスしてるんですけど……」
「キャラコンしながらめっちゃ当ててくるし、フォーカス合わせて撃たれるからしゃーない。 ちょっとスナに変えるわ……」
「あ、うちのコメントに射致命さん来てるっぽい。 AI戦? 相手やっぱりボットなんだ」
「マジ? AIとかチーターみたいなもんじゃん。 そりゃ強いわ」
「チーターは言い過ぎだけど、人間と比べたらエイムの安定感がヤバいだろうね。 まぁ、それでもこっちには複数相手に普通に撃ち勝っちゃう化け物いるからしゃーない。 遮蔽意識しながらチガイネさんのサポートしてるだけで勝てるっしょ」
化け物扱いされた気がするが、特に気にしないことにしてプレイを続け、特に何事もなく勝利することが出来た。
先行体験が終わるまであと10分ちょっと。
1試合当たりの時間は、速くて10分、平均15分くらいなので、マッチングや武器・スキル選択の時間を考えると、流石に次の試合は無理だろう。
というわけで、お礼の挨拶をしてから、チームは解散した。
ゲームを終了してから、SNSに参加させて頂いたことに対する感謝を綴り投稿し、お風呂にも入らないまま、ベッドで横になる。
この10日間は、今までの人生で本当に一番頑張った。
登録者数も再生回数も爆伸びだし、これなら収益にも期待が出来るはず。
明日……もう日付が変わったから今日か。
10日間も累と会っていないし、今日目が覚めたら累に連絡しないとな……。
そんなことを考えながら、意識が落ちるのだった。
翌々日の朝となった。
昨日はガッツリと休養を取り、昨晩は累達と楽しく過ごしていたのだが、今日はなにやら累パパからお話しがあるらしい。
というわけで、累と一緒に奥阿賀家へと移動した。
今日こそキャラメル君をモフモフするのだ!
「お帰り累。 それに音倉君もいらっしゃい」
「うん、ただいま」
「お邪魔します」
リビングへ行くと累ママが出迎えてくれた。
勿論キャラメル君もいたのだが……まだ前に会ってから2週間も経っていないのに、ぱっと見で分かるくらいには大きくなっている。
子犬の成長は速いんだね……。
匂いチェックをしてもらうために、累に抱かれたキャラメル君に右手を差し出すと、またもや匂いを嗅ぐことなくハムハムし始めた。
甘噛みなので痛くはないのだが、今日も右手は涎でベトベトになりそうだ。
だが、甘噛みとは言え匂いをほとんど嗅がずに噛むというのは、どういう意味なのだろうか?
表情を見た感じ、嫌っているとか警戒しているという感じではなく、口に入れているだけって感じなのだが……。
人間の赤ちゃんでいう、何でも口に入れる時期みたいなものだろうか?
犬には詳しくないので正直分からない。
ただ言えるのは、手を噛んでいいものだと学習したら大変なので、今の状況は躾的にまずい気がする。
なので、左手で優しく撫でながら、右手を口から引き抜いた。
キャラメル君は、キョトンとした感じの表情で私を見ている。
……正直すごく可愛い。
両手でもっふもっふしたいくらい可愛い。
というわけで、洗面所へ行き手を洗って戻ってきた。
キャラメル君は累の太ももの上で仰向けになっている。
そして私の足元には、猫のラテちゃんが……。
累の隣に座ると、さっそく太ももの上に乗ってきたラテちゃん。
めちゃくちゃゴロゴロと喉を鳴らし、前足でふみふみしながら甘えている。
この状況でキャラメル君を撫でたら嫉妬しそうだ……。
だがキャラメル君を撫でるね!
あのお腹には手が吸い寄せられるだけの魅力がある!
お腹だから圧さない様に優しく丁寧に……ラテ、そこで立つな。
めっちゃ口の匂い嗅いでるじゃん。
そんでスリスリ……可愛いから許そう。
そんなことを考えながらモフモフを堪能していると、累パパがリビングに入ってきた。
「累、音倉君、遅くなって悪かったね。 朝食はもう済ませた?」
「はい……一緒に……食べてから……来ました」
ラテちゃんのスキンシップが激しくてうまく話せない……。
そんな私の様子を見て、累パパも苦笑いだ。
流石にこれで話すのは失礼な気がするので降りて欲しいのだが、降ろそうとするとミャーミャー鳴いて抗議してくる。
猫は理不尽可愛い生き物なのだろう。
「今日はちょっと話があるだけだからそのままでもいいよ。 実は、明後日からまた出張に行くことになってね……。 僕が戻るまでの間、音倉君にこの家に滞在していて欲しいんんだ」
……この家にお泊り?
なんでだろう?
累パパが出張へ行く。
恐らくボディーガードも大勢一緒についていく。
となると、家を守る人員が少なくなる?
……また家に襲撃が来る可能性が高いとか……?
常に襲撃の危険性があるなんて、恐ろしい時代になったものだ……。
「えっと……分かりました。 期間はどれくらいでしょうか?」
「予定では3日間だけど、長引けば5日はかかるかも」
「了解です。 明後日の朝から来る感じでいいですか?」
「うん、よろしく。 あと1つ、筋トレ用のマシンについてなんだけど……」
……そういえば、考えておくと言ってくれてたな。
社交辞令とかじゃなかったんか。
「累の住んでいる家の近くに、ボロボロになった家があるだろう? その家を解体して、そこにマシンを置けるユニットハウスを置こうかと考えてるんだ。 家の解体作業自体は3日くらいで終わるらしいけど、やっぱり大きな音がでちゃうから、累のお友達も数日間家に呼んでもらえるかな?」
……めっちゃお金がかかりそうなやつやん!
家の解体と整地で100万円は超えるはずだし、ユニットハウスは……ピンきりだけど、大きいやつは数百万くらいするんじゃなかったっけ?
そう考えると……新車買うのと変わらないくらいか。
「そうなんだ。 分かった」
累はあっさり返事をしている。
これが金銭感覚の違いという奴か……。
まぁ私にとっては、家の近くに利用できる筋トレ施設ができるなんてメリットしかない。
かかるであろう費用を考えると、あまりにもお世話になり過ぎな感じがするが、その分私も累パパの力になればいいはず……。
それに贈り物をするのもいいかもしれない。
オートマトンの装備を色々と作成しまくった結果、付与魔法のレベルが上がっているので、毒をほぼ無効化するアクセサリーなどがたぶん作れるはず。
帰ってお泊りの準備をしてから、累パパへの贈り物を最優先で作成するか。
というわけで、しっかりと感謝の気持ちを伝え、抗議する猫をそっと降ろして家へと帰った。
そういえば、明後日と言えば2月になるような……?
そして2月は28日までしかないような……?
来月のダンジョン探索は忙しくなりそうだ。
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