第66話
というわけで、2月1日となった。
今日から数日間、恋人の実家にお泊りだ。
メンバーは私・累・累ママ・瑠璃さん・夢月・忍という、男性1人女性5人の超肩身が狭そうな男女比率。
会社で働いていた頃の様に、常に周囲に気を使わなければならないだろう。
さらに襲撃の可能性も考えないといけないので、家の外の気配にも気を配らなければならないし、この数日間で禿げることがないよう祈っておこう……。
累パパの出発時間は事前に聞いていたため、その時間の前に皆で奥阿賀家へと移動し、今回用意したプレゼントも贈ることが出来た。
最初はアクセサリー系にしようかと思ったのだが、累パパに私が突然尤もらしい口実もなくアクセサリーをプレゼントするのは不自然過ぎるかと思い、お守りに変更。
見た目は結構普通のお守りだが、毒の無効化だったり、よく分からないけどダメージを大きく軽減する効果が付与された凄いお守りだ。
これなら毒殺は防げるだろうし、ハンマーで殴られてもちょっと押された程度の威力しか感じないはず……。
そんなことを思いながらも、案内された一室でノートパソコンを開く。
男性が私1人なので、私だけ客間で個室なのだ。
やることはもちろん動画の編集。
タンス先行体験の録画がいっぱいあるので、しばらくはタンスとドゲザーで再生数を荒稼ぎするのだ!
……ドアの前でミャーミャー鳴いてるんだよな〜……。
どうしようかと悩んでいると、累の気配が近づいて来て、ドアが少し開いた。
ラテちゃんはドアの隙間からスルッと部屋に入り、機嫌が良さそうに駆け寄ってくる。
ドアを開けたのはやはり累で、私の姿を確認すると、部屋に入ってきた。
「音倉がいたんだね。 この部屋で寝泊まりするの?」
「ベッドもあるし、たぶんそうだと思うよ」
「そっか……ラテがこれだと、ドアは閉められないね」
「そうだね。 まぁ、見られて困るようなことは特に無いから問題ないけど」
唯一困るとすれば、後でやるつもりだったオートマトンでのダンジョン探索くらいかな?
遠隔操作の場合、オートマトンの視点がFPSゲームのようにノートパソコンに映し出されるのだが、何も問題がなければ『マイナーなゲーム画面』って感じの言い訳で押し通せるけど、モンスターにやられた時にどうなるのか……。
操作の練習は何度もしてるけど、実戦投入は初めてだから正直不安だ。
そんなことを考えながらも、サクサクと動画編集を進めていく。
太ももの上にはラテちゃんが伏せていて、背中には累がくっ付いた状態での作業だ。
スキンシップは非常に嬉しく思うのだが、若干恥ずかしくもあるような……なんでだろう?
翌日に予定のない日は、夜な夜なもっと過激なスキンシップを楽しんでいるはずなのだけど……。
そういえば、夜の過激なスキンシップ以外だと、ほとんどスキンシップを取っていないような……?
だからこういう普段のスキンシップに対して妙に照れてしまうのかも?
最近まで彼女も恋人も一切縁がなかった奴はこれだから……。
今後は普段からもう少しスキンシップを意識してみようかな?
「なに考えてるの?」
ちょっと意識が思考に集中してしまったせいで、動画の編集作業の手が止まってしまい、累に不思議がられたようで、先程よりもより密着しながら質問してきた。
「いつもより累を近くに感じるから、なんというか、少しドキドキするね。 環境の違いもあるのかな?」
「……あたしもちょっとドキドキしてる。 なんか変な感じだね。 ……邪魔したら悪いし、そろそろお母さんの手伝いしてくるね」
そう言って、累は部屋を出て行った。
私はラテちゃんを太ももの上に乗せたまま、動画の編集作業を再開する。
今更ながら、1つだけ気になったのは、この部屋にカメラなどは仕掛けられているのだろうか?
セキュリティーの関係上、廊下にはいくつかの隠しカメラが設置してあると予想しているのだが……さすがに個人が使うプライベートな空間には設置してないよね?
「……一応あとで確認しておくか……」
4時間ほど動画編集を行い、お昼に累ママ特製の焼きそばを食べた後、隠しカメラはないようなので、さっそくオートマトンを使ったダンジョン探索を行ってみることにした。
先程焼きそばを食べながら、(そういえばノートパソコンってネットに繋いでないけど、遠隔で操作はできるのかな?)と考えてしまったのだが、確認したところ普通に家のwi-fiでネットに接続されていたので、オートマトンを動かすことは問題なさそうだ。
流石はダンジョンで拾った無線LANということだろう。
とりあえずゲームみたいにWASDとマウスでの視点操作を行い、オートマトンをダンジョンへと移動させた。
ここまではタンスの先行体験で忙しくなる前に何度も試験を繰り返し、特に問題がないことを確認している。
特に傾斜も障害物もないダンジョンなので、ただ歩いて移動するだけなら、だいたいの問題は解決しているのだ。
ただ、武器を使用してモンスターを倒すとなると……。
まぁ、無理に戦う必要はないだろう。
できればモンスターを倒して数を減らせるとありがたいが、1番の目的はマップの開放だ。
スマホの『マップ』を立ち上げてみると、ちゃんとオートマトンの位置が表示されている。
少し進むとその分だけ『マップ』の地図も表示されていくので、今後は私が無駄に歩き回る必要はなさそうだ。
「まぁ、宝箱を見つけても回収できないから、結局自分の足でダンジョン内を歩かないといけないんだけどね……。 完全自動で探索して、モンスターも倒して、宝箱もきっちり持ち帰ってくれるようにならないかな~」
そんな願望を口に出しながら慎重にダンジョン内を進むと、さっそくモンスターを発見した。
見た目的にほぼ間違いなく、先月のボス部屋で倒したヒュージゴブリンだろう。
だが数は2匹しかいないし、他のモンスターもいないようなので、生身ならボス部屋で戦った時よりもだいぶ楽に倒せるだろう。
……まぁ、オートマトンで戦うのだが……。
オートマトンに持たせた武器は、ハンドガンに近い形状のショートバレルショットガンと、刃渡り75センチで全体の長さ99センチの3Dプリンター刀だ。
ショットガンが強いのはもちろんだが、ショットガンとオートマトンで使われるエネルギーは残念ながら共有なので、3Dプリンター刀がメインウェポンとなる。
3Dプリンターで作ったにしては、相当切れ味がいいとは思うのだが、果たしてヒュージゴブリンをバラバラにできるのだろうか……。
そんな不安を抱きつつも、Shiftを押して、ダッシュでヒュージゴブリンへと近づく。
刀を使って戦うとしても、まずは1対1の状況で試したいので、だいぶ近づいたタイミングでショットガンを撃って先制攻撃。
走りながらでの射撃だというのに、しっかりと弾は命中したようで、ヒュージゴブリンの首から上が消し飛んでしまった。
ちょっと威力がオーバーキル過ぎたかもしれない。
まぁ、モンスター相手なら強い分には悪くないので、気にせずそのまま特攻し、刀の間合いに入ったと思われるタイミングでまずは一振り。
思っていたよりも少し間合いは近かったようだが、刀はヒュージゴブリンの左腕へと当たり、そのまま斜めに一刀両断してしまった。
当然即、ヒュージゴブリンは消滅する。
私が使う様にもう1本3Dプリンター刀を作っているのだが、使用時の取り扱いには最大限の注意をした方がいいかもしれない。
「まぁ、とりあえずオートマトンでも戦えるって分かったから、結果は良好だね。 消費エネルギーも想定通りだし、エネルギーの自動回復機能もちゃんと働いてるみたいだし……。
これホント、宝箱の中身もオートマトンで回収できるようになれば、何のリスクも負わずにダンジョン探索が出来るようになるんじゃないの?」
いつかそうなればいいな〜っと思いつつ、オートマトンに持たせた小銭回収用の道具を使って、落ちているお金の回収に取り掛かる。
オートマトンの指先では、100円玉を拾うのが難しかったため、わざわざ専用の道具を用意したのだ。
「あれ? お金が落ちてない……。 もうお金落とさなくなったの? 100円玉なくなった? わざわざ道具まで用意したのに、お金落とさないってマジ?」
しっかりと確認したが、やはりお金は落ちていない。
たった100円でも、地味にモンスターの数が多かったので、昼と夜を合わせれば普通に働く以上のお金が入っていたのだが……。
これは流石に結構ガッカリだ。
今後のリアルマネー収入が減ることに落ち込んでいると、スマホに通知が来て、一気に脳みそが覚醒した。
なぜなら『ダンジョンからのお知らせ』という通知タイトルだったのだ。
「ダンジョンからの通知……? え、なにこれ初めて……」
当然、お知らせをタップして内容を確認する。
『平素よりダンジョンを探索していただき誠にありがとうございます』という、めちゃくちゃビジネス的な文章で始まったお知らせの内容を超簡単にまとめると、モンスターの強さに見合った現金報酬を検討したが、肝心の現金確保が長期的に見て不可能だったため、今月から新たに『ダンジョンウォレット』という独自のサービスを開始したということだった。
先程まで『マップ』を起動していたため気づかなかったが、スマホのホーム画面に戻ってみると、確かに『ダンジョンウォレット』と書かれたアプリがいつの間にかインストールされている。
今後はモンスターを倒すとこの『ダンジョンウォレット』にポイントがたまり、ポイントをアイテムと交換する形となるそうだ。
「ダンジョンも電子マネーを導入しちゃったのか……。 ダンジョンも進化というか、近代化していくんだな~」
色々と思うところはあるのだが、残念ながら私の頭はそこまで良くないので、そんなめちゃくちゃ浅い感想しか言うことが出来ない。
とりあえず、モチベーションだけは回復したので、引き続きダンジョンの探索を行うのだった。
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