第50話

奥阿賀家で夕食までご馳走になった後、1人家に帰ってきた。

累は今日は家に戻らず、実家に泊まるそうだ。


「にしてもホント、新年早々大変なことになったな~……。 そういえば、電気は問題ないみたいだけどネットはどうなんだろう? wi-fiは生きてるみたいだけど……」


というわけで、パソコンを起動してネットをチェックする。

接続自体は問題なく繋がっているみたいだ。


ネットのニュースは流石に、暴動や暴動による被害、そして政治形態が大きく変化することなどで埋め尽くされている。

だがそれ以外は……そこまで変化がないようだ。


もちろん、どんなに国の経済がオワコンで現代社会や将来に希望が持てなかったとしても、責任を取らない政治家が暴動で排除されたことについて、『暴力はいけないよね~』的なことを書き込んでいる頭ハッピーな平和主義者は多々見受けられる。

だがもっとこう……ネットにしか居場所のない、支離滅裂で言動が明らかにおかしい底辺の人間達が大騒ぎするかと思っていたのだが、どこを見ても想像以上にまともな書き込みしかなくてちょっと不思議な感じだ。

もしかすると、世界中から無法地帯と言われていたこの国のネット環境も、とうとう情報統制が敷かれるようになったのかもしれない。


そんなことを思っていると、ちょっと気になる記事を見つけた。

なんでも、暴動によって死亡したと見られる死体が、1箇所にまとめられた状態で見つかったらしい。

それだけでも普通に大問題なのだが、顔立ちから全員が外国人と見られ、誰1人として身分証を持っておらず、顔写真で検索しても誰1人戸籍データに載っていないことから、滞在中の外国人である可能性が非常に高いそうだ。

本当かどうかは知らないが、死体の見つかった地域では国外のマフィア組織が根を下ろしているとの噂があったそうなので、事件を捜査している自衛隊は、暴動に乗じた粛清の線で捜査を進めているらしい。


「警察じゃなくて自衛隊なのか……まぁ、暴動で被害が出まくっている時点で警察は機能してないよね。 それに、今回の暴動が粛清なら、警察の上層部も間違いなく、粛清リストに名前が載っているだろうし……」


まぁ、どうせ私とはなんの関係もないことなのでスルーすることにして、次は私の動画チャンネルの方を確認する。

登録者はあれからじわじわ増えて、もう少しで1万人だ。

プチとはいえ、動画がバズった割には……正直少ない様な?

バズったショート動画の再生数なんて500万を超えているのに、チャンネル登録は未だに1万を超えていないのだから、たぶん少ないのだろう。


「やっぱり、10分とか15分の動画って、もう需要がないのかな? ……そんなことはないよな。 他の動画投稿者さんもそのくらいの時間だけど伸びてるし……。 そうなるとやっぱり、動画の内容に問題があるのか……。 結構普通のプレイ動画だと思うけど、リアクション系とか解説系の動画にするべきなのかな~? まぁ、リアクション系は無理だろうから、解説系になると思うんだけど……」


問題は、解説系をするには何の実績もないことだろう。

リリースされたばかりで全員が手探りの状態ならばともかく、何の実績もないやつが、既にそこそこ知られているゲームの解説動画を出したところで、興味を持ってもらえるとは思えないし、バズることもないだろうと考え、今まで解説動画は1本も出していなかった。


だが、クロスプレイが実装されて、少しだけ話題にもなった今なら、ドゲザーの解説動画も少しは需要があるのではないだろうか?

たぶんキーボードとマウスでの操作じゃないと難しいキャラコンとか、最近マッチングした人の動きを見た感じ、知らない人が多いだろうし……。


「……あれ? そういえば、ドゲザーって既に開発終了したんだよね? じゃあなんでクロスプレイが実装されてんの? 実は裏で開発が続いてたの?」


ちょっと気になったので調べてみると、私がドゲザーを引退したあとくらいに、ドゲザーの運営元が買収されたらしい。

それも聞いたことはないが、どうやら日本の企業が買収したそうだ。

買収しても運営にはほとんど変化がなかったみたいだが、開発には強化が入ったのか、ほぼすべてのゲームでバグの修正やクロスプレイの実装、サーバー環境の安定化、チート対策の強化など、ゲーム自体はそこまで変えずに、プレイ環境やサービスの質の向上が行われたそうだ。

運営元の名前はそのままだったし、起動するランチャーもそのままだったから気づかなかった……。


「へ~、元々ドゲザーを滅茶苦茶やり込んでた人たちが集まって起業した会社なんだ……代表取締役は『ITIMEI』……いちめい? 立ち回りガチ勢のヤバい人がそんな感じの名前だったような……?」


よくよく調べるとこの『ITIMEI』さん、社長兼バーチャルな配信者さんらしい。

活動名は『射致命 取』で、ゲーム配信や自社開発のゲーミングデバイスの宣伝を主に行っているみたいだ。

SNSのフォロワー数と、動画サイトでのチャンネル登録者数はなんと15万人越え。

配信サイトでのフォロワー数は40万人越えという、めちゃくちゃ人気のある人物だった。


「でもドゲザーは配信で遊んでないんだよな……。 動画もドゲザー関連はないみたいだし、同じ名前なのは単なる偶然で別人なのかな?」


そんなことを考えながら、とりあえず解説動画を作るために、録画ソフトを立ち上げてからドゲザーを起動するのだった。

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