第29話
言葉が出ない。
前のダンジョンでは、宝箱から出てきた現金は10円だけだった。
今回のダンジョンでは、もう使い切ったが10万円がでて来ている。
つまりダンジョンで現金は手に入るのだ。
だが……1万円の札束となれば、流石の私でも興奮してしまう。
「なんで1万円が100枚じゃなくて、1枚目だけ1万円であとはただの紙束なんだよ! 帯まで巻いて紛らわしいんだよボケェー!」
……そう、怒りで興奮した。
1枚目だけが1万円札で、2枚目から100枚目まで全てしっかりと確認したが、何も書かれていないただの紙だったのだ。
つまり、価値はほぼ1万円。
恐らくジョークグッズの類だろう。
「は〜しょうもな。 顔真っ赤にしちゃうわまったく。 ボスぶっ殺してやる」
というわけで、怒りに身を任せて木の鍵を消費し、ボス部屋へと突入した。
そこにいたのは、4足歩行の大きな醜い獣に乗ったゴブリンが5組。
サブマシンガンをフルオートでぶっ放し、まずは獣を優先して処理。
残ったゴブリンのうち2匹もサブマシンガンで倒せたが、最後の1匹はその前にサブマシンガンが弾切れになったので殺せなかった。
仕方がないのでホルスターからハンドガンを抜いて、最後のゴブリンも処理。
これでボス部屋はクリアだ。
部屋の真ん中に金の宝箱が出現した。
「あ〜……金の宝箱を見てやっと少し心が落ち着いたわ〜。 やっぱ宝箱の中身がしょぼいとブチギレちゃうって。 こっちは一応死ぬ覚悟でダンジョン探索してるんだよ。 銃とかスマホとかパソコンみたいな機器とか付与が付いたアイテムならまだ許せるけど、現金を出すのならもうちょっと考えてもらわないと困るわ~」
そんなことを言いながら金の宝箱を触る。
今回は自動で壊れないので、中身は小さいみたいだ。
箱を壊すと出てきたのは、装飾の施された革製と思われるブレスレットだった。
とりあえず『スキャン』してみると、『剛力な金のブレスレット』というアイテム名が表示された。
「『剛力な金のブレスレット』ね〜……明らかに革製なんだけど金……? この装飾部分が金ってことなのか、金の宝箱から出たから金なのか……。 まぁ、今はいいや。 『剛力』ってことは、たぶん力が強くなる感じかな? とりあえず着けてみるか」
左腕には腕時計を着けているので、ブレスレットは右腕に着けることにした。
着けた瞬間、体の感覚が明らかに変化する。
「力が強くなったというよりもこれは……筋肉のバネがめちゃくちゃ強くなった感じ? まぁそれで力も強くなるんだろうけど……なんだろう、言葉に表しにくい感覚だな」
その場で軽くジャンプしてみると、明らかに着けていない状態で全力で跳んだ時よりも高く跳んでいるのが分かる。
本気で跳べば、フリースローラインからのダンクシュートくらいなら出来るのではないだろうか?
そんなことを考えながらも、とりあえず今日で昼の探索は終わったので、家に戻ることにする。
時間はもうすぐ20時になるところで、今から帰って夕食の準備をしなければならない。
1万円の札束を1枚1枚確認しなければ、もう少し早く帰れたのだが……。
まぁ、過ぎたことを言っても仕方のないことだ。
さっさと帰ることにしよう。
というわけで、来るときに通った通路をのんびり歩いて帰っていたのだが、急に周囲が真っ暗になり、何も見えない暗闇となった。
思わずサブマシンガンを構えてしまうが、さっきのボス部屋で全弾撃ち尽くし、弾切れになっていたことを思い出し、ハンドガンを抜く。
周囲を見渡しても何も見えないが、敵が近づいて来ている足音も聞こえない。
この暗闇はモンスターによる攻撃ではないのだろうか?
それとも浮遊しているタイプのモンスターが夜には現れるのだろうか?
(……夜? さっき時計を見たとき、時間は確か20時前だったけど……そろそろ20時になった? だとしたらこの暗闇は、昼のダンジョンから夜のダンジョンに切り替わるときの演出的な何か? ……可能性はありそう。 まぁ、いきなり目の前にクリーチャーとか現れたら怖いけど)
そんなことを考えながら、暗い中ジッと動かずに周囲の様子を窺っていると、少しづつ暗闇が晴れてきて、視界も戻ってきた。
周囲にモンスターはいなさそうだ。
「やっぱりダンジョンが切り替わった感じなのかな? ハンドガンにはまだ弾が残ってるし、弾が入った予備マガジンもある。 サブマシンガンはマジックバッグに入れておくか……サブマシンガンのマガジンって、値段どのくらいするだろう? やっぱマガジン1つじゃ不便だし、予備は買わないとだよな~」
注意しながら戻っていると、茶色の宝箱を発見。
今回の探索は宝箱の数だけなら本当に運が良かったと言えるだろう。
1万円札束事件さえなければ、めちゃくちゃ楽しい1日になったはずだ。
そんなことを思いながら宝箱を壊すと、中から結構な量の紙幣が出てきた。
今度は全て本物の紙幣のようだが、1万円札ではなく、1,000円札や5,000円札のようだ。
現金は間違いなく嬉しいのだが、今は疲れていて合計金額を計算する元気がないので、適当にまとめてマジックバッグに入れ、帰り道を急ぐことにした。
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