第27話

どうやら累は、1人暮らしを始めてから3日目でホームシックになってしまった様だが、家族に対して強く1人暮らしを希望したため、自分から進んで家に帰るのは少し恥ずかしかったらしい。

そこで、お酒という口実で私を家に誘い、飲みながら少し愚痴を聞いて欲しかったみたいだ。

おつまみめっちゃ美味しい。


「ねぇ聞いてる? ねくらも仕事が見つからないならお父さんに言えばいいじゃない。 時々手伝いはしてくれるのに、うちで働くのは嫌なの?」


「そんなことないよ。 でも累のお父さんにあまり迷惑をかけたくないから、できるだけ他で出来そうな仕事を探しているだけ。 そういえばまだ決まったわけじゃないんだけど、来月から動画投稿でお金が入ってくるかもしれないんだよね」


「そうなんだ……ねくらは凄いな〜。 もう何年も1人暮らしだし、ちゃんと社会に出て働いてたし……」


「凄くないから生活に困ってたんだけどね……。 累は大学卒業してからも家で働くんでしょ? 今はまだお手伝い程度の量の仕事しか振り分けられてないだろうけど、ちゃんと働きだしたら結構仕事が多くて大変になると思うよ。 今のうちに趣味を見つけて、楽しい大学生活を過ごさないと」


累パパは優しい人だと思うけど、仕事に関しては身内でもめちゃくちゃ厳しそうだからね。

慣れた仕事だと油断していると、間違いなく大変な目に遭うと思う。

私のお手伝いも当時としては結構な額のバイト代に見合うだけの仕事量だったから結構大変だったのだ。


……返事がないと思ったら累は目を閉じていた。

胸や背中の動きを見た感じ、呼吸は正常に行われているようなので、普通に寝たのだろう。

少なくとも寝息が穏やかなので、急性アルコール中毒ではないと思う。


「さて……これ、どうすればいいんだろう?」


この辺にはあまり人が住んでいないとはいえ、玄関の鍵も閉めずに、寝ている若い女性を1人、放置するわけにもいかないだろう。

とりあえず累をソファーまで運んで横に寝かせ、使用していたグラスやお皿などを全て洗う。

その後一旦家へと戻り、ノートパソコンを持って累の家へ戻った。

動画のデータはチョビ丸しかないが、これでも5分くらいは動画として使えるだろう。

後の時間は今日録画したものを追加で編集すればいいだけだ。


というわけで、累が目を覚ますまで、字幕多めで動画の編集をするのだった。




「ごめん、寝ちゃったんだ……頭痛い……」


累が目を覚ましたのは午前4時頃。

ちょうど昨日、私がダンジョンから戻ったくらいの時間だ。


「おはよう。 吐き気はある? ないならはい、水飲んで。 アルコールを分解するためにも朝ごはん食べた方がいいよ」


「吐き気はないから大丈夫……ねくらは全然平気そうだね。 お酒飲まないって言ってたけど、実は強かったりするの?」


「さぁ? 水で薄めて飲んでたから飲んだお酒の量はあまり多くないと思うし、強いかどうかは分からないな。 飲み方の問題じゃない?」


「そうなんだ……朝ごはん作るの面倒だな~……」


「……超簡単なものでいいのなら冷蔵庫に入ってるやつで作るよ?」


「ありがとう…… お願い」


という訳で、ご飯と納豆、味噌汁に卵焼きという至って普通の朝食を用意。

緑色が足りていないとは思うが、納豆と味噌汁を個人的に野菜扱いしているのでオッケー。

コーヒーも淹れて、家で1人の時よりもまともな朝食となった。


「卵焼き美味しい……うちのと全然味付けが違うけど、これってなにが入ってるの?」


「え?……卵にベーコンと刻んだネギと中華だしを入れて混ぜて焼いただけだよ? 小さい頃に親に教わった作り方だけど、一般的じゃないのかな?」


「うちは砂糖多めで少し塩と白だしを入れてる……やっぱり料理って家で結構違うんだね」


「まぁ、家の料理の味なんて個人の好みに合わせて作るものだからね。 ネットで基本的なレシピは見たりするけど、それを自分たちの好みにアレンジしたのが家庭料理なんだし……」


そんなことを話しながらも朝食を食べ終え、洗い物は累がやるそうなので家に帰ることにした。

時刻は既に朝の5時。

今から寝たら、ワンチャン寝坊して動画投稿に間に合わないかもしれない。


というわけで、チョビ丸を何戦か遊び、いつもよりも少し内容を詰め込む感じで編集をして、エンコードする。

動画のエンコードは一瞬で終わった。


「……は? エラー?……ではないのか。 え? 動画のエンコード一瞬で終わったの? マジ?」


確認してみると、確かに指定したフォルダに動画ファイルが入っている。

動画を再生し確認してみるが、問題はなさそうだ。


「もうこれがメインPCだわ。 これを手放すとかあり得ないから……デスクトップ型のファンタジーなパソコンがでたらワンチャン……ないな。 ノートの持ち運べる便利さは捨てられないわ。 デスクトップ型出ても両方使う」


そんな訳で、動画サイトに動画をアップロードし、公開予約を設定した後、寝ることにした。

明日はダンジョン探索をしようかな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る