第69話
私は走った。
車の走行音が聞こえなかったため、相手も徒歩なら走れば追い付けるはずだと信じて走った。
結果、家を出てから20秒程で、指示役と思われる人間の気配を捉える。
あまりにもあっさりと感知できてしまったので、殿や囮を疑うレベルだ。
相手の人数は3名。
先程までは、足音に気を付けながらの駆け足だったが、私の足音が近づいて来ていることに気づいたようで、逃げるのを諦めてウォーキング中の一般人を装おうとしている様子……。
そう思っていると、2人はそのまま道路を進み、1人は私や累の家があるルートへと曲がった。
このタイミングで別行動をするとは……非常に面倒だ。
あと10秒あれば2人に追いつけそうなので、速攻で制圧して、すぐに分かれた1人を追いかけなければ……。
走りながら、マジックバッグから新作のハンドガンを取り出す。
累パパへ贈るお守りを作成した後、こういう時のために用意した、特別なハンドガンだ。
敵の姿が見えたので、深く息を吸ってから、体が上下に揺れない様に意識した走り方に変え、銃を構える。
そして素早く2回の射撃……敵2人は予定通り道路に倒れた。
用意はしたが実験はできていなかったため、ちゃんと効果が出るのか少し不安だったが、想定通りの効果が発揮したようだ。
この装弾射出型の魔法銃に込めた弾には、撃たれた相手を強制的に眠らせる付与が施してある。
ナイフに麻痺の付与があるのだから、銃弾にも状態異常の付与が出来るのではないかと考え作成してみたのだ。
まぁ、銃弾は消耗品なので、1発1発に付与していくのが面倒臭くて、1マガジン分しか弾は用意していないのだが……。
とりあえず、寝ている2人の手足に3Dプリンターで作成した普通の手錠を嵌めてから、私の家の方へと逃げた1人を追跡する。
累の家には忍び込んでいない。
ボロボロの家があった場所は既に更地になっていて隠れる場所はない。
私の家の方には……いた。
家の中ではなく、貰ったけど結局ほとんど乗っていない車に乗っている。
車の鍵は玄関に置いていたはずだが……。
車の窓を割って侵入したのか、玄関を壊して侵入し、鍵を取ったのか……。
玄関を壊していたらぶっ殺してやる。
ハンドガンをマジックバッグに仕舞い、再びショットガンを取り出していると、相手は車のエンジンをかけた。
私の姿を見て即エンジンを掛けなかったあたり、恐らく鍵は持っていないのだろう。
つまり玄関を開けて家に侵入したわけではないはず。
今降伏すれば、命だけは奪わないであげるのだが……。
しばらく暗い夜道で追いかけっこしていたため、車のヘッドライトに照らされて少し眩しく感じていると、タイヤが地面に擦れる音と共に車は急発進し、どんどんこちらへと近づいて来た。
これはもう諦めるしかないだろう……。
というわけで、ショットガンを撃つ。
まずは正面から運転席に1発。
コッキングしながら車を避けて、すれ違うタイミングで横からもう1発。
車は少し曲がりながら進み続け、木にぶつかって止まった。
確実に仕留めるために2発目も撃ったけど、1発目の時点で頭の上半分が無くなっていたのに車は止まらないのか……オートマ車だし、クリープ現象かな?
でも突っ込んでくる車への対処法って、なにがあるんだろう?
……避ける以外の選択肢はない様な気がする。
そんなことを考えながら、車に乗っていたやつを引っ張り出し、持ち物を確認する。
奥阿賀家に突入してきた奴等とは違い、スマホやタブレットを持っていたので、コネや知識があれば、さらに上の指示役を特定することも出来そうだ。
そして、なんとこいつは実弾が装填されたハンドガンを所持していた。
実行犯は何の武器も持っていなかったのに、現場の指示役は銃を持っているなんて……言うことを聞かせるために必要だったのかな?
他に重要そうな物は持ってないみたいなので、先に眠らせた2人の回収へと向かう。
手足に手錠を嵌めているので、目が覚めていたとしても遠くまでは逃げられないはずだが、一応念のため、あいつらも武器を持っていないか確認した方がいいだろう。
2人の元へ戻ると、幸いにもまだ眠ったままのようで、拘束した時の状態のまま動いていない様子だった。
手に何かを持っている様子もないため、一応警戒しつつも普通に近づき、持ち物を確認する。
1人が持っていたバッグからは、大量のスマホと財布が出てきた。
スマホが14個で、財布は11個……恐らく家に突入してきた実行犯たちの物ではないだろうか?
他に持っていたのはナイフと、この人の物と思われるスマホと財布だけ。
指示役全員が銃を持っている訳ではない様だ。
もう1人も銃は持っておらず、持っていたのは財布とスマホ、そして大量の札束が詰め込まれたバッグだけ。
これは恐らく、突入した奴等に報酬として支払う予定だったお金かな?
ありがたく貰っておこう。
「さて、とりあえず帰るか。 でもこいつら運ぶの面倒だな~。 こういう時に車が必要なんだけど……まぁ、やっちゃったものは仕方ないか。 逃げられるよりはマシなはずだし……」
『流石にあの車に乗りたいとは思えないし、累パパが帰ってきたら新しい車をねだっちゃおうかな~?』なんて、図々しいことを考えているときに、ふと気になったのだが、こいつらはどうやってここまで来たのだろうか?
勿論歩いて来たのは間違いないのだが、あの人数が町の中からここまで集団で歩いて来たとは思えない。
奥阿賀家を襲撃しようとしているのに、そんな目立ち過ぎることはしないだろう。
ある程度の距離までは、確実に車で来ているはずだ。
犯罪集団を送り迎えするドライバーがいるとして、そいつは仲間を送り届けた後に、1人だけ逃げたりするだろうか?
普通は逃走用の足として、すぐに駆け付けられる距離で待機しているはずだ。
それに考えれば、もし乗ってきた車が電気自動車なら、スピーカーを取り外せば走行音はほとんど聞こえなくなるはず……。
もしかすると、私が想像していたよりもずっと近い場所で、犯人たちの乗ってきた車が待機しているのではないだろうか?
ではどうするか……。
実行犯14名で指示役が3名なら、乗ってきた車は普通車なら3台か4台、以前奥阿賀家を襲撃した奴等が乗ってきたバンタイプでも2台は必要だろう。
つい先ほど学んだが、動く車を止めるのは結構難しい。
2台ならワンチャン両方の運転手を殺せるかもしれないが、4台だと流石に1台以上は逃げられてしまうはず……。
「マジでどうしようかな? せめてこいつらが、元々どういう計画だったのか分かれば……いや、失敗した時点で撤退の連絡している可能性が高いかな? ならやっぱり、こいつらを生きたまま尋問する方が大事かも。 こいつら持って、一回戻るか」
なにが正解なのか分からず、思考がグチャグチャになってしまっている自覚があるので、とりあえず理由を付けて、一度奥阿賀家へと戻ることにした。
こいつらが持っていたバッグをマジックバッグに入れて、2人を背負って移動を開始する。
2人を結構雑に扱っているが、未だに目が覚める様子はない。
今回収穫があるとすれば、大量の現金と、睡眠弾の効果を確認できたことくらいだろう。
損失は車だ。
プラスマイナスで言えば、まぁまぁのプラスかな?
そんなことを考えながら歩いていると、車が近づいて来ている気配がした。
ただし電気自動車ではなく、普通のエンジン車みたいだ。
こいつらの乗ってきた車のドライバーが迎えに来たのだろうか?
感覚的に、近づいて来ているのは1台のみ。
恐らく結構大きめサイズの車だと思う。
2人を地面に置き、またマジックバッグからショットガンを取り出して、車が来るのを待ち構えていると、予想通り1台のバンが姿を現した。
以前奥阿賀家を襲撃した奴等が乗って来ていたバンと、そっくりな見た目のバンだ。
暗いので確実ではないが、色も同じなのではないだろうか?
犯罪者たちの間で流行ってるのかな?
そんなことを思いながら見ていると、バンの運転手も私の存在に気づいたのか速度を落とし始め、私から20メートルくらいの位置で止まった。
予想外だったのは、バンには運転手以外にも何人か人が乗っており、そいつらが車から降りてきたことだ。
こいつらを迎えに来たわけではなく、口封じのために排除しに来たのかも……。
「お疲れ様です! シェルターからの信号を受け取って参上いたしました! 襲撃ですか!?」
……普通に味方っぽいな。
少なくとも、降りてきた人たちから敵意や悪意を感じないので、敵ではないはずだ。
だけどなんと言うか、全員めちゃくちゃ緊張しているような……。
まぁとりあえず、いいタイミングで現れてくれた。
ちょっとこの2人を車に乗せてもらって、家にたくさんある死体のお片付けをお願いしよう。
それにこいつらが持っていたスマホやタブレットを調べて貰わないと……。
面倒だし尋問も任せちゃう?
なんと言うかもう、精神的に疲れた感じで、早く帰ってグッスリ寝たい気分だ。
「一応襲撃してきたやつは片付けました。 生け捕りにできたのは、現場での指示役と思われるこの2人だけです。 あっちに1つ死体があって、家にも14体の死体があります。 ただ、ここへ来るまでの移動手段が徒歩とは思えないので、襲撃に参加しなかった他の仲間がいる可能性は高いと考えられます」
「14……わ、分かりました。 恐らくこいつらの移動手段は車です。 ここへ来る途中、不審な車を発見したので、もう1台の仲間達が逃がさない様に押さえています。 今すぐ捕まえて連れてくるように連絡します」
「いや、連れてくる必要はないです。 むしろ片付けをお願いしたいんですよね……」
「了解です。 すぐに手配します」
というわけで、生け捕りにした2人をバンに積んで、車と死体がある場所へと案内した。
私は『ちょっと玄関を確認してくる』と言ってその場を離れ、ショットガンをマジックバッグに入れて、指示役たちが持っていたバッグを取り出す。
玄関はやはり無傷だった。
どうやって車に乗って、エンジンをかけたのだろう?
まぁきっと、素人が知らない車の秘密があるのだろう。
奥阿賀家へと移動して、死体のお片付けをお願いし、スマホや財布などが入ったバッグを全て渡せば、私の仕事はとりあえず完了だ。
1人だけ客間のベッドで寝るのもあれなので、キッチンへ行き、床下収納下シェルターの扉を開いて中へと入る。
暗証番号は、累ママが入力するところを見ていたので問題ない。
最初は梯子、次にスロープ。
その先には、結構広いトレーラーハウスの様な内観の住居空間が広がっていた。
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