第75話

今月のボス部屋は、先月よりも少し狭かった。

部屋の中央には2本足で立つ人型のモンスターが2体いて、他にモンスターの姿はない。

つまりボスモンスターが2体しかいないため、そこまでの広さが必要なかったのだろう。


ボスモンスターの特徴としては、2体とも形だけでなくサイズも人間と同じくらいで、1体はムキムキのマッチョマン、もう1体は逆に、骨と皮しかなさそうな、ガリガリに痩せた姿をしていた。

パッと見の印象としては、物理攻撃特化と魔法攻撃特化の組み合わせみたいだ。


とりあえずまずは、初見のモンスターなので『スキャン』を行う。

眼鏡のスイッチを押すために、いつも通り左手を上げると、目の前にムキムキのモンスターがいた。

目を離したわけでも、瞬きしたわけでもないのに、一瞬で目の前にモンスターが移動してきたのだ。

こうして近い距離で見ると、結構ゴブリンに近い顔をしているのが分かる。

ゴブリンと人間を混ぜ合わせた感じだろうか?


結構冷静にそんなことを考えていたが、ムキムキのモンスターは既に、鋭そうな爪の生えた右手で、こちらを攻撃しようとしていた。

私は慌てて回避しようと考えたが間に合いそうになかったため、とりあえずショットガンを撃つ。


結構雑にショットガンを撃ったが、ムキムキのモンスターがいたのは手を伸ばせば届きそうなほど近い距離だ。

当然この距離から撃てば、よっぽどの下手糞でもない限り撃った弾は当たる。

結果、ゴブリンの胴体には、見てわかるくらいの結構大きな穴が開いたのだった。


「ちょっとビックリしたな……いきなり目の前に現れるなんて……。 なんの予備動作もなかったし、テレポート系の能力を持っていたのかな? ……いや、こいつじゃなくて、そっちのボスがテレポートさせたのかも……?」


そんなことを呟きながら、胴体に穴が開いて倒れているムキムキボスを『スキャン』する。

このモンスターは『フィレヒューゴ』という名称らしい。

胴体だけでなく、頭にもショットガンを撃つことで、フレヒューゴは即座に消滅した。

あとはガリガリボスを倒せば、ボス部屋クリアだろう。


そう思ってガリガリボスを見ると、ガリガリボスの前に、直径1メートルはありそうな火の玉が出現していた。

『口から火の玉を飛ばせば、見た目的にも数十年前の格ゲーのキャラそっくりなのにな〜』なんてことを思いながら、火の玉を狙ってショットガンを撃ってみる。

ショットガンの弾は発射された火の玉とぶつかったようで、ガリガリボスの前で大きな爆発が起き、火の玉は消滅した。


「無傷か……。 目の前で爆発があったのに無傷だなんて、ちょっと違和感あるな〜……。 魔法にフレンドリーファイアがないのならゲームっぽいけど、魔法による爆発も無効化されるのかな? それにショットガンの弾はどうなったのかな? 火の玉に当てつつ、ワンチャン貫通して当たらないかと期待して撃ったんだけど……まぁ、火の玉に当たって消えたり、軌道が逸れた可能性はあるか」


そんなことを言いながら、今度はしっかりと狙ってショットガンを撃つ。

だが、ガリガリボスは無傷のままだった。

ガリガリボスの前に薄く光る粒子が見えたので、ある程度の範囲内に入ってきた魔力を分解し消滅させることで、魔法による攻撃を無効化する能力を持っているのではないだろうか?

とりあえずこのショットガンは、撃っても効果がないのだろう。


ショットガンを手放して、ホルスターからハンドガンを抜きながら『スキャン』を行ったところ、このガリガリボスは『マレヒューゴ』という名称らしい。

さっきのフィレヒューゴと名前が似ているので、もしかするとフィレヒューゴは、物理無効化の能力を持っていたのかもしれない。

魔法ならともかく、物理攻撃をどうやって無効化するのかについては、私の頭では予想することすらできないが……。

まぁとりあえず、来月からは無効化能力を持ったモンスターが、ダンジョン探索中に出てくるのだろう。


『スキャン』も終わったので、マレヒューゴの頭を狙い、装弾射出型のハンドガンを撃った。

マレヒューゴの顔が上を向き、そのまま後ろへと倒れる。

倒れたマレヒューゴに近づいて、もう1発頭を撃ち、念のため心臓にも1発撃ちこむと、マレヒューゴは消滅し、部屋の中央に金の宝箱が出現した。

これで今月の昼ダンジョンはクリアだ。


「今月は結構時間かかったな〜。 まぁ、オートマトンでの探索にこだわったから、無駄に時間がかかっただけだけど……。 夜のダンジョンはどうしようかな?」


そんなことを考えながら、金の宝箱を確認する。

金の宝箱から出てきたのは、金色に光るリンゴの様な形のものだった。

だが手に持っている感触として、食べものとは思えないほど硬い。

リンゴの形をしているが、これはどういうアイテムなのだろうか?


まずは『スキャン』してみたところ、『魔法の果実』という表示が出た。

『魔法の種』『魔法の実』というアイテムと同じで、恐らくこの『魔法の果実』も、魔法を覚えることが出来るアイテムだろう。

『付与魔法』という最高の魔法を手に入れたのは、銀の宝箱から出た『魔法の実』だった。

なら金の宝箱からでたこの『魔法の果実』は、もっと凄い魔法が手に入る可能性があるということ。

私は一瞬も迷わずに、『魔法の果実』に魔力を流し始めた。


「さてさて、何の魔法を覚えたのかな〜? ……『空間魔法』! 空間ということは、テレポートとか練習すれば使えるのかな? そういえばさっきのボスが目の前にテレポートしてきたような……ちょっと使ってみるか」


というわけで、さっそく空間魔法を試してみることにした。

スマホの『魔法』というアプリで『空間魔法』を選択すると、いくつかの選択肢の中に『転移』という文字を発見。

その『転移』を選択すると、次は転移元と転移先を指定する必要がある様で、『マップ』のアプリが起動した。

今回はとりあえず、転移元は現在位置で、転移先はダンジョンの入り口でいいだろう。

そして決定を押す。

すると、魔力が減る感覚と共に、足元に魔法陣っぽいサークルが出現し、眩暈を感じた瞬間には、ダンジョンの入り口に立っていた。

あまりにも想像通りの効果だ。


「マジか……。 これはいくらでも悪いことに使えそうな予感。 まぁ、家からあまり出ないから使う機会は少ないだろうけど、絶対にバレない様にしないとな……」


そんなことを言いながら、空間魔法を使って行える、大金の稼げる完全犯罪を考えながら、自室へと戻った。


自室に戻ってまずやるべきことは、銀の宝箱から手に入れた『魔才のチケット』というアイテムの確認だ。

ノートパソコンの『データ』を開き、『魔才のチケット』というアイテムの説明文を確認する。

そこには『消費することでLv5以下の魔法Lvをランダムに1つ5上げる』と書かれていた。


「魔法レベルを上げるか……なんと言うかまぁ、レベルを上げる飴の魔法レベル版みたいな感じかな? 今一番レベルが高いのは付与魔法のLv4だし、Lv5以下なら全部が選択対象か……。 とりあえず使ってみよう」


ということで、『魔才のチケット』に魔力を込めていくと、『魔才のチケット』はすぐに光を放って消滅してしまった。

『体調管理』を確認したところ、『念力魔法』がLv1からLv6へと変わっている。

……一番微妙な魔法がレベルアップしちゃったな……。


「まぁいいか。 元々付与魔法以外はほとんど使ってないし、ランダムなら仕方ない。 魔法のレベルなんて、使っているうちに勝手に上がるものだし、探索を続けていればまた『魔才チケット』をゲットできるだろうしね。 さて、じゃあ次は……この指輪のことを調べようかな」


というわけで次は、『高価な魔覚の指輪』を調べてみる。

『データ』の『高価な魔覚の指輪』の説明文には、『外付けの魔法器官として使える指輪』と書かれていた。

……『魔法器官』ってなんだろうね?


「器官って言えば、臓器が真っ先に思い浮かぶけど……魔法器官なんだから、魔法を使うための器官? スマホなしでも魔法が使えるってこと?」


そう予想して、指輪に魔力を流しながら、念力魔法で床に置いたリュックを持ち上げるイメージをしてみる。

最初は全くできる気がしなかったが、指輪と魔力から感じる感覚を頼りに続けていると、指輪とリュックに魔力的な繋がりを感じ、その瞬間にリュックは、座っている私の顔の高さまで浮かび上がった。

スマホを使わずに念力魔法を発動することに成功したのだ。


これからは発動するたびにスマホでいちいちポチポチ選択しなくても大丈夫だね!

……まぁ、慣れるまで発動するのに手間取りそうなので、日常的に使うにはしばらく何度も練習する必要があると思うけど……。


「でもそっか……要は魔力があっても、魔力を魔法に変換する器官がないから、スマホ以外では魔法を使えなかったんだね。 正確には、スマホが魔法器官の役割を果たしていたってことで……いや、弾を発射することしかできないけど、魔法銃もある意味、魔法器官の一種ではあるのか」


そんなことを考えながら、しばらく念力魔法で遊び、飽きたのでゲームをすることにした。


そういえば最近動画のコメントで、私のことをチーター扱いしてくるアンチが現れ始めたんだよな……。

付与したアクセサリーで身体能力を上げているのだから、チーターじゃなくてドーピングに当てはまると思うのだけど、動画を見ている人にはそんなこと分からないだろうし……。


ちょっと気になったのでエゴサしてみると、なんと私のプレイ動画を切り抜いて、チーターかどうかの検証をしている動画を見つけた。

めちゃくちゃ気になったので見てみると、ダンジョンを探索する前にあげていた動画と、この前の先行体験の動画のエイムの動きを、スロー再生にして比較した動画みたいだ。

こうして比較した動画を見ると、確かに不自然なほど反応速度が速くなって、フリック精度・トラッキング精度共に、良くなりすぎていることがよく分かる。

この動画を見ると確かに、私がチートを使い始めたと思われても仕方がないのかもしれない。

……手元カメラを導入して、ノーカットのプレイ動画を投稿しておくべきかな?


そう考えて、ネットで配信向きのカメラを調べ、通販のカートに入れてから、今日も楽しくゲームをプレイするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人生詰みかけダンジョン探索 ~お金がなくて人生詰みそうなので、一発逆転を目指して動画投稿を続けながらダンジョン探索始めました!~ ふぉいや @feuer0922

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ