第36話

累パパの大きなお家に到着。

真っ先に出迎えてくれたのは、大きなワンちゃん。

なんとかマスティフとかいうめちゃくちゃビッグサイズの犬種で、非常に人懐っこく甘えてくるので可愛いのだが、パワーは半端ないので接する際には注意が必要なワンちゃんだ。


次に出迎えてくれたのもワンちゃん。

ゴールデンなのかラブラドールなのかは知らないが、レトリーバーなワンちゃんだ。

金というよりは白と茶色の毛並みだからラブラドールかな?

マスティフよりは小さいが、普通に大型犬なので体は大きい。

マスティフは体は大きくても性格が大人しいのでまだ接しやすいが、レトリーバーの方は元気いっぱいでスキンシップも激しかった記憶があるので、やはり接する際には注意が必要だ。


「よ〜しよしよし、よ~しよしよし。 う~ん、鼻息すっごい。 久しぶりだね~、覚えてるかな~?」


まぁ、今の私はパワー負けしないので、遠慮なくモフるのだが……。


犬は可愛いな〜。

久しぶりの奥阿賀家で少し緊張してたけど、ワンちゃんをモフるだけでだいぶ癒されたし、緊張もほぐれてきたわ~。


私のモフリスキルで二匹ともヘソ天にして屈服させたタイミングで、累と累パパが家から出てきた。

ヘソ天だった犬たちは即座に起き上がり、ご主人である累パパの方へと甘えに行く。

当然のことだと分かってはいるのだが……少し寂しい。


「相変わらず随分とこの子たちに好かれているみたいだね。 あまり家族以外に甘える子たちじゃないんだけど……。 とりあえず、中で少し話そうか」


というわけで、内心では嫌だな〜と思いつつも、累パパのお宅へとお邪魔することに……。

家に上がったタイミングで、累がひっそりと小声で話せる距離まで近づいてきた。


「その……ごめん。 ストーカーって聞いてたから、ここまで大事になるとは思ってなくて……」


「いやまぁ……1日で仕事が終わったようなものだし、気にしなくていいよ。 あ、お金……今度でいいか」


「相手は8人いたって聞いたけど、怪我はない?」


「何の問題もなかったよ。 ホント、ただの作業だった。 でもこれからもっと、ああいう馬鹿な輩共が増えるんだろうね〜。 累も気を付けた方がいいよ」


景気が悪くて碌な仕事がないせいで、犯罪で楽に稼ごうとする人間が増えるのは自然な流れだと思う。

勿論許すつもりはないのだが、凡人は朝から晩まで働いた後に副業もしないと、1人暮らしはおろか食費までぎりぎりの生活を強いられるのだ。

会社が倒産するまで真面目に働いていたが、私も正直働くこと自体が馬鹿らしく思うことばかりだった。

きっとダンジョンがなくて、動画のバズりもなかったら、私もあいつらと似たようなことをしていただろう。


……したかな?

私の場合諸悪の根源をぶっ殺しに行くかもしれない。

でも誰か1人をぶっ殺しても解決はしないだろうし、何百人も殺さないといけないとなると面倒だし、逃げられたり隠れられたりするだろうし……。

なにより途中で私が死ぬ可能性の方が高いだろう。

そんな馬鹿な真似をするよりは、この辺りはまだ未開拓の山が沢山あるのだから、人生を捨てて山の中で1人サバイバル生活を始めるかも……?


そんなことを考えていると、どうやら部屋に着いたようだ。

部屋に入り、まずは累パパに今日の出来事を最初から説明する。

昔は説明も釈明も直接はしたことないのだが、こうしてわざわざお宅に呼ばれて、私自身の口から話さなければならなくなったことに対し、少しだけ『歳を取って大人になったんだな〜』という感慨深さを感じる。


私の話の後に累が私に2人のことを頼んだことを証言し、刑事さんがあの男たちが関わっていそうな余罪がいくつか思い当たることを伝え、結果的には犯罪者から累の友人を守っただけで、たいした問題にはならないだろうという結論を伝えた。

きっと問題があっても揉み消してくれるのだろう。


「うん、だいたいのことは理解できたよ。 君がその場にいなければ累の友人は酷いことになっていただろうね。 音倉君、累の友人を助けてくれてありがとう。 累は……少し音倉君に頼り過ぎかな。 その友達をうちでしばらく匿うことだって出来たはずだし、1人暮らしを始めたのだから累の家で匿うこともできただろう? 匿っている間に僕から警察に掛け合って、ストーカーそのものをなんとかすることだってできたかもしれない。 安易に音倉君を頼って危険にさらしたことは反省しなさい」


結論、累の対応に反省点はあるけど、私も累も悪くない。

悪いのはストーカーだと思われていた半グレのゴミ共。

つまりお咎めはなし。

オールオッケー!

やっぱり持つべきものは権力者とのコネと悪徳警官の知り合いだわ。


「もうすぐ夕食の時間だ。 累も音倉君も、食べてから帰るといい」


「ありがとうございます。 ご馳走になります」


というわけで、部屋に累パパと刑事さんを残し、累に案内されて奥阿賀家のリビングへとやってきた。


「あら? 音倉君、久しぶりね~。 勤め先の会社が倒産したって聞いたけど、最近はどうなの? 新しい仕事は見つかった?」


リビングに入ると累ママがいて、結構気さくに話しかけてきた。

累ママの名前は聞いた覚えがない。

自己紹介などしなくても『あの~』とか『すみませ~ん』で何とかなるから仕方ないのだ。

以前と変わらず若々しいというか、知らなかったら累の姉と言われても信じてしまいそうな見た目をしている。


他にリビングにいたのは累の姉である瑠璃さんだけ。

累は累パパ似で年相応な見た目の印象だが、瑠璃さんは累ママに似なので年下に見えるほど若い見た目だ。

累から妊娠したと聞いたが、まだお腹は大きくなっていないようだ。

瑠璃さんの旦那さんはいない様だが……まぁ、私が気にすることではないだろう。


「再就職先はなかなかないですけど、副業でなんとか生活していけそうな感じです。 それより瑠璃さん、累から聞きたんですが、妊娠おめでとうございます」


「あ、ありがとう。 ……音倉くんと累は、最近どうなの?」


「ちょっと姉さん」


「どうと言われても……仲良くさせていただいてると思います」


あ、猫ちゃん。

足にスリスリしてどうした?

そうかそうか、背中を撫でて欲しいのか。

この家は犬も猫も、めっちゃくちゃフレンドリーだな〜。


「累もあのくらい積極的にくっついてみたら?」


「……なんで音倉はあんなにうちの子に好かれてるのかな? 私にはおやつが欲しい時しか甘えて来ないのに……」


うわ〜、めちゃくちゃゴロゴロ言ってる。

猫のヘソ天も可愛いな〜。

奥阿賀家はモフモフ天国だわ……。

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