第13話

1時間ほどダンジョンを探索し、無事に戻ってきた。


「ダンジョンって最高だな~! ちょっとゴブリンが多かったけど、やっぱダンジョンには夢が詰まってるわ!」


一新されたダンジョンは以前よりもだいぶ広くなっている様だった。

以前のように広い場所でゴブリンが石像となって待ち構えているのではなく、普通にダンジョン内を歩き回っていたので戦闘も多い。

『体調管理』を見たところ、レベルは4から6に上がっていた。


そして、肝心の宝箱だ。

あの後宝箱を2つ見つけたのだが、1つ目はまたもや『目のコイン』だった。

その場で使ったが、相変わらず体感変化はなし。

2つ目の宝箱が、今ハイテンションになっている理由だ。


「まさか宝箱から普通に現金が出てくるなんてね〜 さっすがダンジョン様! 10万円ポンッとくれたぜ!」


以前の10円玉のエラーコインは確かに30万円の利益が出たが、拾ったときに普通に10円としか思っていなかったし、テレビの影響がなければネットオークションで売ることが出来たかも怪しいと思う。

それに比べると現金10万円は確かに額は少ないが、価値が分かりやすいし、周囲に探られる心配もないし、手に入れたらすぐに使うことが出来るので、個人的には現金がそのまま出てきてくれた方が嬉しく感じた。


一応この10万円がファンタジーな紙幣である可能性を考え『カメラ』で確認すると、表示されたのは『1万円券』だった。

ネットで調べると、紙幣の正式名称は『日本銀行券』であり、一万円札の正式名称は『一万円券』で正しいそうだ。

つまり何のファンタジー要素もないので、この10万円は好きに使うことが出来る。


「今夜はお肉が食べたいな~!」


そんなことを言っていると、家のチャイムが鳴った。

現在時刻は朝の10時を過ぎたあたり。

郵便や荷物の配送がくる時間ではないのだが、誰が何の用で来たのだろうか?

とりあえずインターホンを取る。


「はい」


「あ、久しぶり。 ちょっと賞味期限が怪しいお肉がうちの冷凍庫にあったから、持ってきたよ」


素早く無駄のない動きで玄関へと移動し、鍵を開けてドアを開いた。


「へいらっしゃい!」


立っているのは1人の女性。

小学校から中学まで同じ学校だった、ちょっと離れたところに住む元同級生の、奥阿賀 累さんだ。

小学校の頃からなんだかんだ細々と付き合いがあるため、幼馴染と言える間柄。

彼女の親は県内で一番大きな牧場を管理しており、そこの次女である累は、たまにこうしてお肉を持ってくれる非常にありがたい存在だ。


「はいこれ、牛と豚ね。 冷凍してたから大丈夫なはずだけど、一応期限はギリギリだから早めに食べてね」


「いつもありがとうございます」


「……胡散臭い顔はやめて冷凍庫に入れてきたら? ……ところで、最近どうなの? 新しい仕事は見つかりそう?」


「いや、相変わらずその仕事だけじゃ食べていけないレベルのヤバい仕事しかない感じだよ。 ゲームをプレイする動画を投稿してお金にできないか頑張ってるとこ」


「……それで生活できるの?」


「無理。 だから毎日仕事は探してるよ」


質問に答えながら、今夜食べる分のお肉を冷蔵庫に入れ、残りを冷凍庫に入れて玄関に戻る。

いつもはお肉を渡したらすぐに帰るのだが、今日は珍しく質問してくる。

なにか話でもあるのだろうか?


「どうしたの? なにかあった?」


「え? いや〜……最近お姉ちゃんが妊娠してね……。 それはおめでたいことなんだけど、親戚が大勢家に来てて面倒なんだよね。 無駄に声が大きくて騒がしいし、『彼氏いないの?相手を紹介しようか?』みたいな感じの押し付けがしつこくてウザいし……」


「それはめんどくさそうだね~」


正直あまり興味はないが、累はお肉を持ってきてくれる神様なので、とりあえず同調して頷いておく。


「……うん、興味がないことは伝わったわ。 まぁ、別にいいけど……。 それでそろそろ1人暮らしをしようと思ったのよ。 それで今日からあそこの家に住むことになったんだけど……1人暮らしするのは初めてだから、いろいろとアドバイスが欲しくてね」


「へ〜……えぇっ!?」


私の家の近所には一軒家が2つ建っている。

片方は何年も前に住んでいた人が亡くなっていて、今は誰も住んでいないのだが、恐らく相続人は興味関心がない様で、売りに出すわけでもなく更地にすることもなくずっと放置されていて、周りには雑草が生えまくった状態だ。

もう1軒は噂で聞いただけなのだが、聞いた話だと借金が膨らみ過ぎて去年夜逃げしたそうだ。

私は全く気付かなかった。


累が『今日から住む』と言って指を刺したのは当然、前住居者が夜逃げした方の家。

手続き的なことは分からないが、人が消えたのは去年なので、少し点検して手を入れれば、特に問題なく住める状態だったのだろう。


「でもなんでこんなところの家? 確かに累の家から結構近いけど、もっと都心部の方が便利じゃない?」


「正確にはあんたの家と道路を除いたこの辺一帯の土地は、全部うちの敷地になったわよ。 転用するか売るかはまだ決まってないけど、とりあえず1人暮らしにはちょうどいいから借りることにしたの」


……世界から置いて行かれてる気分だよ。

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