第14話

いつの間にか周囲を完全包囲されている気分だが、とりあえず1つ確認しておかなければならないことがある。


「うちを札束で殴って追い出したりしないよね?」


「札束では殴らないわよ。 殴るならアタッシュケースね。 それで1人暮らしの話なんだけど……」


「1人暮らしのアドバイス? 防犯とか?」


「そっちは気を付けるしかないでしょ。 そうじゃなくて、家事を楽にする方法とか、買っておくと便利な道具とか、そういうお勧めってない?」


「あ~……何かあったかな……? どちらかというと、いかに無駄を減らせるかって考えてるからな~。 あ、でも食器洗浄機はあったら便利かも。 働いてると食器洗うのが面倒に感じるんだよね。 1人暮らしだから洗う量は少ないんだけど、少ないから逆に面倒に感じるというか……。 それと洗濯物を外に干しづらいから、ガス式の乾燥機は買ったよ」


「……意外と参考になる意見が出てきたわね。 食器洗浄機とガス式乾燥機ね……乾燥機はガス式にこだわる理由とかあるの?」


「ガス式の方がパワーがあって短時間でいい感じに乾燥できるらしいよ。 ただ、取り付けに工事が必要だったりするらしいから要確認だね。 電気式の方はコンセント挿すだけで使えるメリットがあるけど、ガス式よりも時間がかかるうえに仕上がりも負けてるって話を聞いた」


「ガス式乾燥機は確認がいるのね。 他は何かある?」


「う~ん……正直ないかな。 結局1人暮らしって、自分に最適な環境を作ることが大事なわけだし、欲しいと思ったものを買ってみて、実際はそこまで必要じゃなかったら潔く売ることが大事なんじゃないかな?」


「ふ〜ん……ありがと。 また何かあったらよろしくね」


「こっちこそ、お肉ありがとう。 力仕事なら前の日に言ってもらえれば手伝えるよ」


「分かった」


累は帰っていった。

ダンジョンで一仕事した気分だったが、10時過ぎはまだ朝と言える時間。

今日から住むということは、これから引っ越し荷物の受け入れとかで忙しいのだろう。


「問題は完全包囲されてることだよな……。 なんでこのタイミング? ダンジョンのことは誰にも……SNSの『家に穴が開いた』発言は消しておくか。 でもリアルでダンジョンの話をしたことは一度もないからバレてはいないはず……」


累の視線や表情を思い返すが、ダンジョンの入り口がある和室を気にしている素振りは全くなかった。

会話の内容もダンジョンとは一切関係がない。

周辺の土地を買収したことも、累が近所に引っ越してきたことも偶然である可能性が高いと思う。


だがとにかく、今はダンジョンの存在を隠さなければならない。

和室に入る方法は3つ。

外から窓を割って入るか、玄関のすぐ近くにある木製の引き戸から入るか、リビングにある引き戸の襖から入るかだ。


「外からの侵入は……雨戸を閉めるのはあまりにも不自然過ぎるし、窓ガラスの鍵を増やして対応するしかないか。 ただ、外から中が見えにくくなるうえに窓が割れにくくなるシートがあったはず。それを買ってきて貼り付けよう。 ついでに障子も光を通さない障子紙に変えよう」


外窓はこれで妥協するしかない。

問題は玄関前とリビングから和室に入る引き戸だ。

和室に入って中からどうやって封鎖するのかを考える。


「ここは中から完全に封鎖するしかないな。2×4材でガッチリ固定して動かなくしておこう。あ、ついでに障子も動かないように固定するか。 それで問題は……この襖なんだよな~。 玄関側をガッチリ固定するからリビング側から和室に入ることになるんだけど……こっちは開いてもリビングに置いてあるソファーが邪魔で出入りしにくい。つまりこっちから出入りすることにして、出入りしやすい方をガッチリ固定すればいいか」


これで和室の侵入経路封鎖計画はだいたい決まった。

メジャーを使って素早く長さや広さを計測し、必要となる材料をリストアップしていく。


「そういえば累が引っ越しするから人の目があるのか……。 材料を家に入れるところを見られたら不審に思われるかも? 言い訳用に大きなテーブルを作れるくらいの材料を追加しておくか。 ちょっと前からPCデスクが狭く感じてたし。 木材は……うん、これでたぶんオッケー。 工具はあるし、後はネジと接着剤だけでいいはず。 それじゃ、ホームセンターに行くか。 あそこは確か軽トラのレンタルもやってたはずだし」


そんな訳でホームセンターへ行き、軽トラをレンタルしたいことを伝え、リストアップした材料のメモを渡し、在庫を確認してもらう。

軽トラがマニュアルだったため、私が一度エンストしたことくらいしか問題はなく、昼過ぎにはレンタルした軽トラの返却も終えて家へ帰宅。

朝ダンジョンで入手した10万円は、900円しか残らないのだった。

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