第58話

特に何事もなく、累の家へと帰宅することができた。

道中町の様子に変わったところはなく、あのチンピラ共の被害を受けたのは、私たちだけだったみたいだ。


暴動の際、警察から逃げた奴等が、たまたまあの店に来たのだとすれば、それはあまりにも不運が過ぎるだろう。

だからと言って、演技をしていたとは思えない。

あいつらから向けられた悪意や敵意は、間違いなく本物だった。

となるとやはり、何らかの理由があって、あの場にチンピラたちは来たはずなのだが……。


「GPSかな?」


電流が走ったのか、ある仮説を思いついた。

この新しい車には、ほぼ間違いなくGPSが取り付けられているはずだ。

そのGPS信号を、半グレのチンピラが不正に受信していたとすればどうだろう……?

最近のGPSは、値段によって違う周波数が使用されていると、以前ネットニュースで読んだことがある。

この車は累パパが持ってきた車なのだから、GPSもきっと最高グレードのものが付けられているはずだ。


金を持っているのか分からない奴を襲うよりも、金を持っていそうなやつを襲う方が、ああいうやつらからすれば効率はいいはず……。

車を壊して憂さ晴らしをしつつ、持ち主を襲って金を奪えば一石二鳥。

これならあのチンピラ共が、店ではなく車を目標に動いている様に見えたことの説明になるだろう。

それに顔の怖いヤクザ組員さんがタイミング良くあの場に現れたのも、予め累パパからGPS信号を受け取れるように手配されていて、影から護衛して貰っていたのだと考えれば、説明が付くような気がする。


(……まぁ、全部ただの推測と言うか、妄想なんだけどね……)


だが、もしこの妄想がだいたい正解だった場合……私たちは累パパに、チンピラを釣るための餌にされた可能性が出てくるような……?

いや、累パパがそんなことをするとは流石に思えないし、きっと累パパの安全策が裏目に出てしまっただけだろう。

一応警戒はしていたが、半端なく運が悪かっただけのはずなのだ。


そう結論付けて、少し早いがお弁当を食べることにした。

なんだかんだ、起きてから何も食べていないので、少しお腹が空いたのだ。


車の運転代ということで、結局累の奢りとなった『唐揚げハンバーグフランクフルトパスタ弁当』。

電子レンジで温めたところ、蓋を開ける前から見た目通りの肉肉しい香りが漂っている。

これはマジで期待できそうだ。

私がこれを選んだ際、あまりのボリュームの多さにちょっと引いていた3人も、匂いに釣られたのかちょっと興味が出てきた様子。


「ちょっと食べてみる?」


そう聞きながら、蓋を取った。

素晴らしいお肉の香りが広がって、涎が出てしまいそうな程食欲を刺激される。

……部屋が肉臭くならないかちょっと心配になって来たので、あとで消臭剤を撒いておこう。


「いいの? じゃあ貰おうかな。 これ食べていいよ」


「私も貰っていい?」


「私も食べたいです。 これどうぞ」


というわけで、仲良くおかずを交換しながら、晩御飯のお弁当を食べる。

まぁ、流石にまだ晩御飯を食べるには早い時間なので、私以外の3人は、お弁当ではなくお酒がメイン。

町であんなことがあったのに、3人とも特に普段と変わらない様子を見て、少しだけ安心するのだった。




三半規管がグラグラ揺れているような頭痛で目が覚めた。

恐らく頭痛の原因は、昨夜お酒を飲み過ぎたことだろう。

3人に付き合って、半分くらいの量しか飲んでいないはずなのだが……記憶が途中で途切れていることと、この頭痛症状から考えて、私はやはりお酒には強くないのだと思う。


「あ、音倉、起きたんだ」


左から累の声が聞こえてきた。

だが、右手にも柔らかい人肌の感触がある。


ぼやけた思考のまま状況を確認すると、まず私は服を着ていなかった。

そして、左で横になっている累も、服を着ていない。

まぁ、ここまでは、付き合っているのだからこういうこともあるだろう。


問題は……右隣では、富考さんと牧添さんも服を着ていない状態で眠っていることだ。

この部屋はたぶん、富考さんと牧添さんが寝泊まりしている部屋で、寝ていたのはベッドではなく布団……。

これらの状況から考えると、恐らく酔った勢いで、仲良く4Pでもしてしまったのだと思う。

つまり、非常にまずい状況だ。

過去一やらかしたと言っても過言ではない。


唯一の救いは、累が怒っていたり、嫉妬している様子ではなさそうなこと。

富考さんと牧添さんは意識がないようなので、とりあえず累から話を聞くことにした。


「ごめん……全然記憶がないんだけど、俺はその……やっちゃったの?」


「うん、でも安心して。 誘ったのは忍だから」


忍ってことは牧添さんか。

……どんなきっかけがあれば誘われるんだ?

てっきり、2人は女性が好きだと思っていたのだが……。

どっちがより女性に気持ちがいい思いをさせることが出来るのか、プライドバトルでもしたのかな?


「その……ごめん。 本当に全く覚えてない。 自分で思っていた以上に、俺はお酒に弱い体質みたい……」


「そうなんだ……。 でも、謝らなくていいよ。 音倉には必要なことだったと思うし……。 それより、体の調子はどう?」


体の調子……?

確かに凄くスッキリしているような……。

なんというか、溜まっていた在庫がはけて軽くなった感じだ。


「ちょっと頭痛がするけど、感覚的には凄くいい感じかな……。 累はその……何とも思ってないの?」


累はいつもと変わらない表情に見えるのだが、私が他の女性と寝てしまったことに対して、本当に何とも思っていないのだろうか?

私なら……ちょっと嫌だな~って思ってしまうのだが……。

それに累だけではなく、富考さんや牧添さんは今回のことをどう考えているのだろうか?

誘ってきたらしい牧添さんはともかく、富考さんにどう思われたのかは少し気になる。


「う~ん……正直なことを言うとね、最近ずっと、私だけが先に限界来ちゃって、音倉に我慢させちゃってるんじゃないかって、少し心配してたの……。 だからこうして、4人でやったのはいいきっかけになったと思ってるよ」


「累、聞きたいのはそこじゃなくて、累がどう思ったのかが聞きたい。 その……他の人とやってるのを見て、嫌な気持ちにならなかった?」


そう聞くと、なぜか累は少し笑った。


「音倉が私のこと、ちゃんと好きなのが分かって嬉しかったかな。 夢と忍とやってるのを見ても、嫌な気持ちにはならなかったよ。 むしろ、やっぱり私1人じゃ無理かなって思った」


……まぁ、嫌な気持ちにならなかったのならいいけど……。

好きなのが分かって嬉しかったって、私はなにをしたんだろう?

恥ずかしいことをしていなければいいけど……。


そんなことを考えていると、累が私の上に乗ってきた。

表情から察するに、話しているうちに少し発情してしまった様だ。

私も累を見ていると、どんどん元気が湧いてきて漲っている感覚があるので、今夜はもう考えることをやめて、本能のままに愉しむことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る