第71話

特に何事もなく1日が過ぎ、5日目の夕方。

先程多くの護衛を伴いながら、無事に累パパが帰ってきた。

ただ、累パパの方でもいろいろなことがあったのか、明らかに疲れた表情をしている。

お土産にいっぱいお菓子を貰ったので、帰ってから食べるのが楽しみだ。


そして、ヤーさん親分もご一緒だった。

まぁ、ヤーさんのところの人員を護衛にしていたと思うので、親分さんが一緒でもおかしくはないのだが、堂々と交流しても問題はないのだろうか?

私の知っている常識だと、裏社会との繋がりが表沙汰になるのは、結構大きなスキャンダルのはずなのだが……。

奥阿賀家の皆さんの反応を見た感じ、私の考え過ぎか、私の常識が間違っているのかな?


そんなことを考えながら、累パパの話を待つ。

なにやら他の人には知られたくない重要な話があるそうで、今は累パパの部屋に呼ばれて、累パパ・親分・私の3者面談となっている状況だ。


「まずは音倉君、皆を守ってくれて本当にありがとう」


「まぁ、そのために泊まっていたようなものですから……」


「だとしても、君以外なら確実に全員が誘拐されていたはずだ。 音倉君には本当に感謝してるんだよ」


……まぁ確かに、私が敵の気配を感じ取ったからこそ、突入前に皆をシェルターへ避難させることが出来たわけだし、2人生け捕りに出来たことも踏まえて、私の功績は非常に大きいだろう。

そこは否定しない……だって報酬欲しいし……。


でも、そんなことを言うためにわざわざ呼んだのだろうか?

『重要な話』と言うから、なんとなく例のミチナシ家からの伝言を予想していたのだが……。

ダンジョンで待っているらしいが、未だに会っていないため、最近では人違いの可能性を考えている。


「そしてこれだ……」


累パパが机の上に出したのは、私が出発前に渡したお守り。

『解毒』と『加護』の付与を施したため、神頼みするよりは効果が高い代物だろう。

なにか効果を感じる出来事があったのだろうか?

食事に毒を混ぜこまれたとか、普通にありそう……。


「実は僕も襲撃されて、銃で撃たれちゃってね……。 左胸に弾が当たったのだけど、奇跡的に痣ができる程度の被害で済んだんだ。 なにか心当たりはあるかな?」


そっか〜……私のお守りって凄いね!

作って大正解だったというか、私のお守りを持ってなかったら普通に死んでたんじゃ……?

累パパはめちゃくちゃ真っ当な商売しかしてないイメージだったけど、それでもやっぱり敵はいるんだな~。

まぁ、ヤーさんとの関係がある時点で、真っ白というわけではないか。


とりあえずまだ、撃たれて無事だった理由については、お守りの効果と言い切ることは出来ないはずだ。

適当なことを言ってはぐらかすことにしよう。


「銃で撃たれた……恐いですね。 本当に無事でよかったです。 痣が出来た程度で済むということは、火薬の量が少なかったか、防弾ベストの効果じゃないですかね?」


「火薬の量は何とも言えないけど、防弾ベストなんて着てないよ。 それにお守りに効果があることだけは分かってる。 君はこれをどこで手に入れたのかな?」


……効果があることだけは分かってる……?

人体実験でもしたのかな?

流石に銃で撃って実験はしていないと思うけど……殴って確かめたとかかな?


「どこと聞かれても、ネットを見ながら俺が作ったお守りですよ。 そんな銃で撃たれても痣で済む効果とか、あるとは思えないんですけど……」


「……そっか。 これと同じものをいくつか用意できるかな?」


「まぁ、材料さえあれば同じ作り方はできます。 ですが、全く同じものは流石に無理です。 それに銃弾を防ぐ効果を期待されると……流石に困ります」


「それで構わないよ。 これを好きに使っていいから、20個ほどお願いできるかな?」


そう言って累パパが机の上に置いたのは、私も持っている銀行の通帳とカード。

現金ではなく通帳とカードを渡して来るとは……あ、これを用意したのが親分さんなのかな?


とりあえず手に取って、確認してみる。

通帳とカードは同じ番号で、名前はちゃんと『キチガイ ネクラ』になっていた。

通帳には付箋が貼られており、付箋には口座の暗証番号と思われる4桁の数字が書かれている。

通帳を開くと、そこには20,000,000という数字……。


昔から思っているのだけど、なんで3桁ごとにコンマ記号を付けるのだろう?

日本人としては、4桁にしてくれた方がぱっと見で分かるのだけど……とか思ってる場合じゃないな。

二千万円……だよね?

これが『10万ドルポンとくれたぜ』というやつか……。


「なんというか……ただのお守りに支払う額としては多過ぎないですか?」


「一応今回のお礼も込めた額を用意したつもりだから、気にせず受け取って欲しいかな。 それにお守りの効果次第では、追加で報酬を振り込むつもりだし」


気にせずと言っても……普通に気にするよね。

渡したお守りにそれだけの価値を感じたってことなんだろうけど……2,000万でお守り20個なら、1個100万ってことか。

100万で銃を防げると考えれば、むしろ安く感じるような……?

もちろん私からすれば普通に高いけど、命を狙われるお金持ち基準なら安いと思われてもおかしくはない様に思える。

今回のお礼も込みというのなら、実質もっと安く買われていることになるんだし……。

でもここに追加報酬……?

もう真面目に働かなくていいじゃん。


「分かりました。 ありがたく受け取らせていただきます。 それで、お守りはいつまでにお渡しすればいいですか? 材料の調達もありますし、20個となるとそれなりに時間がかかりますが……」


「出来れば今月中にお願いできるかな?」


「分かりました。 用意でき次第、ここへお届けします」


というわけで商談は終了。

ところで、親分さんが未だに一言も言葉を発しないけど、何でここにいるのかな?

何か用があるのかと思っていたのだけど……この後累パパと大事なお話があるのかな?

私はそろそろ退出して、家に帰るべき?


そう思っていると、親分さんが話しかけてきた。


「お前さんにちょっと聞きたいことがあるんだが……」


「はい、なんでしょう?」


「今この屋敷の周りに何人人がいるか、分かるか?」


……玄関の前に4人、洗濯室のある裏口に3人、キッチン横の勝手口に2人かな?

動き的に、ドアの鍵を調べているみたいだ。

そういえば襲撃の時、当たり前のように鍵を解除されていたし、ドアの鍵かドアを丸ごと交換することになるのかも。

今はそのために確認してる感じかな?

あとは……車は6台あるけど、そのうちの4台に運転手が残ってるな。

つまり家の周りには13人か。

家の中にはヤーさん達が17人いるから、全部で30人のヤーさんがいる計算になる。

……結構多いな。


「家の周りには13人いますね。 玄関前に4人……今1人入って来たので3人になりました。 そして裏口に3人、キッチン横に2人で合計8人です。 車の中に4人いるのも合わせると、12人が外にいることになります」


「……マジで見えてるみたいだな。 それなら襲撃に気づいてもおかしくはないか……。 今回の襲撃、襲ってきたやつらは外の人間で間違いないんだが、内部に裏切り者がいる可能性が高い。 なにか気づいたことはあるか?」


「……いえ、特に無いですね。 裏切り者ですか……」


そっか……そうだよね。

腕が良ければ鍵なんて数秒で簡単に解除できるのかと思ってたけど、普通あそこまで短時間で開けたりすることはできないはずだよね。

でも流石に裏切り者は分からないかな……。

私がいる時にその裏切り者がなにか裏工作をしたとしたら気づけるかもしれないけど、今回の場合裏切りの証拠って、通話履歴とか通信履歴のはずだから、私には調べようがないんだよね……。


「そうだよなぁ……。 まぁ、なにか気づいたことがあれば、奥阿賀さんにでも連絡してくれ。 あと、お前さんの車のことなんだが、修理には時間がかかりそうだから、代わりの物を手配しておいた。 明日か明後日には届くはずだから、少し待っていてもらえるか?」


「ありがとうございます。 すみません、せっかく頂いたのに、すぐに壊してしまって……」


「お前さんが事故ったわけじゃないんだから気にすることはねぇよ。 ただ……お前さん、ショットガンを持っているらしいな?」


「それでは、そろそろ帰りますね。 お守りに関してはできるだけ早くお届けします」


失礼だとは思ったが、流石に面倒過ぎるので会話を強制終了し、一礼してから部屋を出た。

ドアは普通に開いたので、累ママの言っていた通り、ドアの修理はできていない様だ。


泊まっていた部屋は綺麗にしてあるし、ダミーの荷物は常にまとめてある。

累ママに挨拶をして、皆に声をかければ、帰っても問題ないだろう。

ということでリビングへと戻る。

リビングには皆が揃っており、夕食の準備をしているようだ。


……ヤーさんがいっぱいいるのに、皆結構落ち着いてるな〜。

世間一般では悪い人だし、顔も怖いと思うのだけど……。


「あ、音倉。 お父さんとの話は終わったの?」


「うん、終わったから帰ろうかと思ってたけど……なんというか、皆落ちついてるね」


「まぁ、いざという時は音倉がいるからね。 帰りたいなら夕飯を分けてもらうけど……急ぎなの?」


「特に急いでるわけじゃないよ。 ただほら、顔の怖い人がいっぱいだから大丈夫かな~って思ってたし、俺が長居すると奥阿賀さんが休めないかなって思って……」


「大丈夫だよ。 夕飯まで食べてから帰ろ」


というわけで、リビングで夕飯の準備を少しだけ手伝っていると、親分がやって来て、累ママに挨拶をしてから、ヤーさん達を引き連れて帰って行った。

さすがにヤーさん達と一緒に夕食を食べることはないみたいで安心だ。

そして累パパもやって来たので、皆で美味しい夕食を食べる。

明日から晩御飯はどうしようかな……?


夕飯後は特に累パパと話すこともなく、軽く挨拶をして、改めてお土産のお礼を言ってから家へと帰った。

久しぶりの我が家はやっぱり落ち着くな……。

まぁ、どちらかと言うと、1人でいることに落ち着きを感じてるのかな?


そんなことを考えながらも、お守りを作るための材料をネットで探すのだった。

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