第48話

累の家へと戻ってきた。

やはりこちらは何もなかったようだ。


「音倉……お父さんは?」


「家の玄関が壊れてたけど、お義父さんは大丈夫。 お義母さんも、瑠璃さんも大丈夫そうだったよ」


「……他に何かあったの? なんだか凄く……落ち込んでるように見えるけど」


「……犬は……着いた時にはもう死んでた……」


「……そっか。 じゃあ、ちゃんと埋葬してあげないとね」


そう言って累は、いつもより少し強めにハグをしてきた。

累は小さな頃からあの犬たちと一緒に育ってきたので、私以上に悲しいはずだ。

それなのに、ここまで冷静に大人な発言ができるのか……自分の子供っぽさを強く自覚してしまう。


私も累の腰に手をまわして、しばらくの間ぎゅっとハグをしていると、だいぶ精神が落ち着いてきた。


「ありがとう累。 なんか、凄く落ち着いた」


「そう? ならよかった」


気分的にはだいぶマシになったが、なんとなくまだ眠れそうになかったので、累とソファーに並んで座り、テレビのニュースを眺めることにした。

ニュースの内容はどこも、街中に設置された固定カメラが撮った、馬鹿が町の中で好き勝手に暴れまわっている映像を繰り返し流しながら、家の戸締りをしっかりとして、外出をしないよう呼びかけるだけの内容だ。


よくもまあ、ここまで好き勝手に暴れまわれるものだと思う。

これだけ派手に暴れまわったら、復興にどれだけのお金と時間が必要になるのか、考えたりしないのだろうか?

まぁ、考えないから略奪なんて行うのかもしれないが……。


「これからどうなるんだろうね?」


累が少し不安そうに聞いてきた。


「普通は何も変わらないかな。 しばらく景気が悪くなって、一部の企業だけが復興関係で金を儲けて、『復興税』とかいう復興とはなんの関係もないことに流用される税金の額が増えるんじゃない? ……ただまぁ、今回は裏でいろいろと動きがあるみたいだし、普通じゃない方向に社会が変わっていくのかもしれないけど……」


想定外の襲撃に遭ったみたいだが、暴動が起きること自体は事前に分かっていたはずだ。

それなら累パパは、それなりの準備を事前に用意していると思う。

ただ、どういう風に社会を変えていくのかについては……私の狭い知見では、想像することすらできない。

家に襲撃を受けている時点でちょっと不安だが、累パパならきっと、いい方に社会を変えてくれるだろうと思いたい。


そんなことを考えていると、特殊な効果音と共に、速報のニューステロップが流れた。

内容は、複数名の現役国会議員が暴徒たちの襲撃を受けたらしく、病院に運び込まれたが死亡が確認されたそうだ。


名前を見た感じ、もしかするとこれは、累パパを含めた何人かの権力者が仕組んだ襲撃なのかもしれない。

確かこの名前、国連とかいうクソの役にも立たない国際組織から多額の賄賂を受け取っている証拠が表に出ていて、クソ過ぎる法案で、国内の一部製造業と畜産業を意図的に壊滅させようとした経歴があったはずだし……。

累パパがコメンテーターとしてネットニュースに出たのがあの時のはずだけど、明らかにブチギレてたもんな〜……。


また別の政治家の死亡が確認されたみたいだ。

確かこの名前は……機密文書を国外に流した疑惑と言うか、裏付けが取れていないだけで流出させた証拠になるものは表に出ていて、ついでになぜか国籍を頑なに公開しなかったスパイ疑惑議員だったはず。

国籍を公開しないなんて明らかに黒だと自白しているようなものなのに、何故か長い間ずっと国会議員でいられたんだよな〜……不思議。


その後も続々と政治家の訃報速報が流れた。

これはもう明らかに、なにかしらの組織があって、この国に不利益しか生み出してこなかった政治家達を粛清していると、見ている人のほぼ全員が考えるだろう。

まぁそれは正直どうでもいいのだが、これだけ政治家が死んだのなら、もういっそ民主主義は諦めて、天皇制にでも鞍替えしたほうがいいのではないだろうか?

どうせ何年も前から選挙での不正が疑われている時代なんだし……。


「この先どうなるんだろう……?」


ニュースを見ながら、累は不安そうに呟いた。


「う~ん……流石に軍事国家になるとは思えないし、生活そのものは変わらないと思うけどなぁ~……。 でもしばらくは治安が悪くなりそうだし、買い物とか、気楽に行けなくなるんじゃないかな?」


さすがに長年平和主義だったこの国で、『国内が大混乱……そうだ! 他国にヘイトを向けて、国民の意思統一をしよう!』みたいな感じで、軍事国家なることはないはずだ。

ただ、一時的に治安が悪くなることは間違いない。

暴動で治安が悪くなったところに、不法に入国してさらに治安を悪くするカス共が現れた前例が、いくつも存在するからだ。

それも不法に入国しておきながら、排除されそうになると被害者面をして、他国に風評被害を撒き散らすカスっぷり。

この国がどうなるのかは分からないが、カス共の対処だけは、社会全体が一丸となって対応するべき事案だろう。


そんなことを考えながらニュースを見ていたら、既に結構遅い時間となっていた。

隣に座る累も結構眠そうだ。

累には先に寝ていてもらい、私は一応汚れているかもしれないので、シャワーだけ浴びてから寝ることにした。




翌日のお昼。

テレビはどこも、同じ内容のニュースを繰り返し放送し続けている。

その内容は、まさかの天皇制復活だ。

といってもこれは、国会議員が死にまくったことによる一時的な措置で、将来的には民主制と天皇制の両立を目的としているみたいだが……。


まぁ、それ自体は一庶民でしかない私にはどうでもいい。

気になるのは、いつもなら『天皇制に戻すなんて、日本は軍事国家に戻ろうとしている!』みたいな、見当違いのお馬鹿コメントが流れないことだ。

これは在日が異常に多いと言われているメディア関係上層部も、暴動に見せかけた粛清の嵐だったのかな……?


そんなことを考えていると、累パパから累に、私を含めたお呼び出しの連絡が来たので、累と一緒に奥阿賀家へと移動する。

到着した奥阿賀家では、怖い顔の人たちがバンに突撃された玄関周りの壁の補修を行っていて、見る限りでは物々しい雰囲気だ。


怖い顔の人たちは、ノコノコとやってきた私と累を一応警戒しているのか、怖い顔で睨みつけてくる。

そんな大勢に睨まれちゃうと、思わずポケットのナイフに手を伸ばしてしまうのだが……。

累は怖がって動けない様子だし、私もできれば近づきたくはないが、あそこが玄関で既に顔を合わせている以上、今更引き返すと逆に怪しまれるだろう。

ポケットからいつでもナイフを抜けるように意識して、仕方なく私は玄関に近づいた。


「……なるほど、あれをやったのはお前さんだな。 すげぇもんだ」


怖い顔の人たちの中で唯一、なんというか、地位が高そうなおじいさんがそう言うと、周囲の人たちが一斉に、ヤクザらしいお辞儀をしてきた。

一応警戒はしているがこの人たち、怖い顔をしていても敵意はないみたいだ。

まぁ、累パパのボディーガード……この場合はハウスガード?

そんな感じの関係だと思うので、敵意を持っていることの方がおかしいのだけど……。


とりあえず累と一緒に通して貰い、家の中に入る。

リビングへ行くと、累ママと瑠璃さんがいた。

累パパは……いない様だ。

流石にあんなことがあったからか、2人とも顔色が悪かった。


「累……それに音倉君。 宗司さんが呼んだのね?」


「うん……チョコとマシュマロ、死んだんだね」


累は泣いていた。

昨夜はやはり我慢していたのだろう。

もしくは死んだという実感がなかったのかもしれない。

だが実際にいなくなったのを見て、どうしようもない感情が溢れ出てしまったのだろう。

そんな累に対してなんと声をかければいいのか分からず、とりあえず累の手を握る。

累が私にしてくれたように、累の気持ちが落ち着くまでハグをしようとしたのだが、私よりも速く、累ママが累に近づいてハグをしていたのだ。


「音倉君。 こっちへ」


若干の敗北感を味わっていると、累パパがやってきてついてくるように言われたので、私だけ移動する。

案内された部屋には、明らかに組織のボスっぽい、良い服を着たおじさんが座っていた。

この人が累パパと繋がりのある組織のボスだろうか?

顔も怖いし風格はあるけど、なにかちょっと物足りないような……。


ボスっぽいおじさんの他は、ゴツくて顔の怖い男が3人立っている。

腕は前で組んでいて、手には何も持っていないようだし、胸とか脇の位置に膨らみはない。

腰にもなさそうなので、銃は持っていないのかな?

まぁ確かに訓練を受けた人なら、室内では銃よりもステゴロやナイフの方が強いイメージだけど……。


「奥阿賀さん、そいつが?」


ひっそりと護衛っぽい男たちの装備を確認していると、ボスっぽいおじさんが累パパに話しかけた。


「えぇ、近所に住む音倉君です。 昨夜は助けてもらいました」


「話には聞いていたが……そこまでイカれてる様には見えねぇな」


累パパはこのボスっぽいおじさんに、私のことを話していたみたいだ。

ただなんとなくだが、昨夜の話だけではなく、もっと前から私のことを話していたような気がする……。

もしかすると、誘拐されそうになっていた累を助けたあと、悪評で私が高校へ進学できなかった時のために、話をしてくれていたのかもしれない。


高卒でもまともな就職先がなかったのだから、中卒じゃお給料を貰える仕事に就くことすら難しかったはず。

中卒の約2割は就職先が見つからないため、二十歳時点でなにかしらの犯罪に加担しているというデータがネット記事に載るくらいなのだ。

お優しい累パパなら、娘を助けた子が半グレになるくらいなら、知り合いのヤクザに比較的まともな仕事を斡旋してもらった方がまだマシだと考えても不思議ではないだろう。


「ところで一つ聞きたいんだが……」


そんなことを考えていると、ボスっぽいおじさんは私の方を睨みつけながら話しかけてきた。


「おめぇ、銃はどこで手に入れた?」


……さて困った。

なんて答えよう?

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