第9話
「金色の箱だ……銀色で魔法銃だったし、これは結構期待できそう。 でもそろそろお金になりそうなものが出て欲しい! 売っても問題なさそうなもので、価値がめちゃくちゃ高いものをお願い!」
そんなことを願いながら金の箱に触れる。
金の箱は繊細なのか、触れただけで壊れてしまい、消えてしまった。
そして台座の上に、金の箱に入っていたと思われる物が残されたので、手に取ってみる。
「……パーカーだよね、フード付きの……」
どこからどう見ても普通のパーカーだった。
生地の色は少しくすんだ白の無地色だが、フードを絞る紐は黒。
デザインとしては私がよく着るファスナー式ではなく、左右のポケットがつながっているタイプのフード付きパーカーだ。
「……目がおかしくなったのかな? 金色の箱だったからめちゃくちゃ価値のあるものが出てくるのかと期待したんだけど……。 あ、昨日『目のコイン』とかいう効果の分からないコインを使った影響かな? 金色に見えただけで実際は茶色だったのかも」
そんなことを考えながら、ポケットに入れていたスマホを取り出す。
『カメラ』を起動し、フード付きパーカーへ向ける。
「『神秘のパーカー』……? なんか凄そう。 まぁ金の宝箱から出たものなんだし、実際凄い効果があるのかもしれないけど、着てみないと分からないんだよな~……とりあえず一度着てみるか」
というわけでお着替えタイムだ。
今着ているパーカーを脱いでマジックバックに入れ、『神秘のパーカー』に袖を通す。
……なんやこれめっちゃ肌触りええやん!
「流石金の箱から出たアイテム……こんな肌触りのいい生地は初めてだぜ。 まぁ服の上から着てるから、着るときと脱ぐときくらいしか肌触りの良さを実感しないけど……まぁいいや。 それで、ダンジョンはこれで終わりなのかな? 入ってきたとこ以外に出入口はないみたいだけど……」
周囲を見渡しても入り口以外は壁しかなく、入り口から壁に手を付けたまま部屋を一周しても何もない。
恐らくこれで終わりなのだろう。
「まぁ……ここは多分ダンジョンなんだし、どのくらいの周期かは分からないけど、そのうち新しくモンスターと宝箱が追加されるでしょ。 たいした広さでもないし、毎日少し散歩する習慣をつけようかな」
そんなわけで、今日はもう家へと戻ることにした。
途中、ダンジョンで全くお金を稼げていないことに気づき、少し悲しくなった。
「今日は風呂に入るか……」
精神的な疲れからか、今日の動画投稿を終えた後、久しぶりにゆっくりと湯船につかりたい気分になった。
湯船にお湯をはり、服を脱いで洗濯機に入れていく。
ふと、ズボンのポケットに何か入っているような気がした。
確認してみると、出てきたのは10円玉。
「……あ、これダンジョン初めての宝箱で出てきた10円じゃん。 確かにズボンのポケットに入れたわ。 お金がないって分かってるのに、10円玉の存在を忘れるなんて危機感が足りてないのかな……」
そんなことを考えながら、とりあえず10円玉を置こうとしたとき、なにか少し違和感を感じた。
ダンジョンで手に入れたアイテムは、なんだかんだ言いつつも、どれもファンタジーな効果を持つアイテムだった。
恐らく効果を証明することができるのなら、そこそこの値段で現金化できると思う。
例外はこの10円玉だけ……。
10円玉を持って、パンツ一丁の姿のまま部屋に戻り、スマホの『カメラ』を起動し、10円玉を映してみる。
『十円青銅貨』
「……ただの10円玉か。 なんでダンジョンの宝箱から出てきたんだろう? 外れ枠とか?」
そんなことを言いながら、10円玉を摘まんで観察していると、明らかにおかしな点に気がついた。
10という数字や、その下の年式を示す文字が鏡文字になっているのだ。
慌てて裏面を確認する。
そちらは普通に10と書かれていた。
「これ、エラーコインってやつじゃない? 『10円玉』『エラーコイン』……え〜っと……影打ちっていう種類でいいのかな? 状態は普通に綺麗だし、これネットオークションで普通に売れるのでは?」
というわけで、複数の角度から何枚も写真を撮り、本物であることを示すために手袋をはめて短い動画も取り、期限は7日、開始価格は5万という条件で、ネットオークションに出品してみた。
『影打ちのエラーコインは人気が高く、状態が良ければ高い値段で取引される』とネットの記事に書いてあったので、私としては強気の価格設定だ。
「高く売れるといいなぁ……。 さっむ! 早く風呂入らないと風邪ひきそう」
『これなら問題なく高く売れそう!』という欲に目が眩み、寒い中パンツ一丁でめちゃくちゃ気軽にネットオークションで出品したが、これが小さいながらもニュースで取り上げられ、めちゃくちゃ注目を集めることになるとは、全く予想していなかった……。
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