第33話

まぁとりあえずは食事だ。

美味しいものを食べれば皆ハッピーになれるはず。

そしてここのホテルのランチは普通においしいことで有名。

相談ごとも忘れるくらい美味しい食事だと、尚更ハッピーになれるかもね!

メニューの値段を見るのが怖いので、頼む料理は累に一任した。


「それで、今回奥阿賀さんに既知貝君を呼んでもらった相談なのだけど……」


呪文の様な料理を注文したあと、さっそく富考さんが話を切り出した。

どうやら相談事を忘れてしまう可能性はなかった様だ。


「最近その……ストーカーの被害に遭っていて……。 もちろん警察には相談したのだけど、結局実害が発生するまでは見回りを増やすくらいしかできないみたいで……」


「へ〜。 まぁ、警察組織なんて昔からそんなもんじゃない?」


「それはそうなのだけど……最近、凄く狙われている感覚があるの。 なんと言えばいいのか……好意を持って影から付きまとっている感じじゃなくて、目的を持って周囲を調べられているような……」


……それは大変だね。

それで、私に何を相談したいのかな?

私はダンジョン脱税をする予定だけど善良な一般市民だから、まだ何もしていないストーカーさんを探してボコるような真似をするつもりはないよ。


「既知貝君はほら、奥阿賀さんを誘拐から助けたことがあったじゃない。 偶然だって言ってたけど、助けてほしくて……」


……確かに中学3年の時、道路を歩いていると偶然、累が若者の男性3人組に誘拐されそうになっているのを目撃して、手加減も遠慮もせずに暴力で誘拐を阻止したことはある。

何故かは知らないけれど、誘拐しようとしてした3人組は全員、搬送先の病院で入院中に死亡し、唯一逃げた車の運転役と思われる1人も死体で発見された恐ろしい事件だ。

累を助けて警察に連絡した後、完全に無関係だった私に対し、なぜか警察は任意同行を強いてきて、私に警察組織の無能さを学ばせてくれた思い出深い一件でもある。


ちょっと車が通るタイミングで犯人を車道に転がしたり、両目に指を突っ込んで地面に倒した後頭に蹴りを入れたり、ナイフをなぜか人質の累ではなく私に向けてきたので、そのナイフで自分の片目を抉らせただけなのに疑うなんて……。

警察にも勿論いい人だっていると思うのだが、捜査の責任者が無能だと組織ごと無能になる残念な印象しか持てなくなってしまった。


ちなみに病院に搬送されて入院していたことからも分かる通り、私は重傷を負わせただけで殺してはいない。

そして個人的な勘だが、殺したのは累パパが手配した人なのではないかと疑っている。

累パパならそれくらいの権力とコネがあるはずだ。

もっと身辺警護に力を入れろよって話なのだが……。


とりあえず、私は誘拐を事前に察知していたのではなく、偶然誘拐の現場に居合わせただけなのだ。

ストーカーの被害に遭っているのかもしれないが、力になれることはあまりないだろう。

それに……


「たしか富考さんってさ、俺は誰も殺してないのに犯人が死んだって報道で、俺のこと人殺し扱いしてた人たちの中の1人だったよね? 俺あの時言ったよね? 『お前らが誘拐されそうになっても無視する』って……相談する相手を間違えてない?」


普通に忘れていたし気にしてもいなかったが、確か富考さんは私を毛嫌いしていた人たちの中の1人だったはずだ。

まぁ『人殺しと同じ教室で勉強できるか!』って気持ちは理解できるのだが、私は殺していないので、普通に風評被害としか言いようがない。


マキゾエさんは……マジで思い出せないんだよな〜。

ほら、この年で萌え声ならともかく、中学生が萌え声でも印象に残らないじゃん?

なにか印象に残っているエピソードがあれば思い出せるかもしれないけど……。


「夢はちゃんとあんたに謝ってたわよ。 許す気がないから無視してるのかと思ってたけど、聞いてすらいなかったの?」


「え? マジで? ……あ〜、あの頃周囲の声がウザかったから、授業中以外イヤホンつけっぱで音楽聞いてたかも……」


「そもそも夢の性格が悪かったら私が相談なんかさせないわよ。 夢を助けて欲しいから、あんたをここに連れてきたの……なんとかできない?」


「あ、それは無理です。 警察でもボディーガードでもないんで、無理なものは無理です」


「夢と忍は20万用意してる「確実なことは言えませんが精一杯努力させていただきます」って……そう、気を付けてね」


一応私刑は非合法だ。

どうにかストーカーを特定して、ストーカーが私を襲うように挑発し、襲ってきたところを返り討ちにすれば基本的には問題ないだろう。

できれば返り討ちにした際に、2人のストーカーをしていた証拠も押さえることができれば完璧だ。

暴力的解決は楽だが、社会的に抹殺する方が、その後の問題は少ないだろう。


そんなことを考えていると、注文した料理が運ばれてきたので、食事を始める。

流石高級ホテルのレストラン。

見た目も美しいし味も素晴らしい。

他人のお金で食べるご飯だからか感動も格別だ。


「そういえば、富考さんだけでなくマキゾエさんもその……ストーカーの被害に?」


「私と忍はシェアハウスで一緒に暮らしてるんです。 そのせいか、忍しかいない時でも嫌な気配を感じるらしくて……」


シェアハウス……。

都会ではそういう生活もあるそうだが、こんな地方にも実在したのか……。

とりあえず、ターゲットが2人いてストーカーが1人だけということはあるのだろうか?

ストーカーが複数人いるかもしれないとなると……ちょっと面倒だな。

まぁ、お金のために頑張るか。

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