第4章 人付き合いは大事だよね

第32話

昼のダンジョンをクリアしてから2週間ほど経過した。

『剛力な金のブレスレット』を身につけた状態での生活にも慣れ、手に入れた装備品の扱いにも随分と慣れてきたと思う。

サブマシンガンの扱いには少し注意点もあったが……まぁ、特に問題視するようなことではない。

フルオートで使わなければ済む話だ。


最近の生活としては、朝はダンジョンで射撃練習。

昼から夜まではゲームして、編集して、動画を投稿。

そして夜は数時間ダンジョン探索を行い、戻ったらお風呂に入って就寝。

その繰り返しだ。


動画投稿の方は順調だ。

ゲームによっては伸びない動画もあるが、ほぼ毎回のように万単位の再生数が出るようになったし、人気FPSゲームのプレイ動画を投稿した時には、10万再生を超えるようにもなった。

再生数だけならショート動画の方が伸びやすいのだが、通常の動画の方が収益が多いそうなので、今後は通常の動画を100万再生してもらえることを目標に頑張ろうと思う。


夜のダンジョン探索の方は非常にダメダメだ。

クリーチャーはいっぱい倒しているのだが、あれからなんと2週間もの間、宝箱を1つも発見できていないのだ。

睡眠時間を確保したい関係上、夜の探索時間は短めなのも要因の1つだとは思うのだが、流石に宝箱の数が少なすぎるような気もする。

既に夜のダンジョンも8割方探索しているので、そろそろ宝箱が沢山見つかることを期待しよう。


そんな訳で、朝の射撃練習を終えて家に戻ると、タイミングよくスマホの着信音が鳴った。

画面を確認すると、画面には『奥阿賀 累』と表示されている。

以前は夜にお酒を飲むお誘いだったが、今回もまた酒飲みのお誘いだろうか?

とりあえず電話に出る。


「はい」


「あ、もしもし私。 ねくらは今日忙しかったりする?」


「今日は……忙しくはないかな」


最近は夜のダンジョンを探索しているので、寝過ごしてしまう可能性を考えて1週間先まで動画の公開予約をしている。

1日編集作業をしない日があっても、恐らく問題はないだろう。

そして他の予定は一切ない。


「それなら一緒にお昼食べに行かない? ご飯代は奢るから。 ……ちょっと相談に乗ってほしいことがあるの」


「了解です。 何時に累の家へ行けばよろしいでしょうか?」


他人のお金でランチタ~イム!

相談の内容は気になるけど、ご飯を奢ると言われれば行くしかないよね!


「11時に家に来てくれる?」


腕時計を見る。

午前10時28分だ。

シャワーを浴びて身嗜みを整えるくらいは余裕で出来そう。


「分かった。 11時前に家に行くよ」


「よろしく」


というわけでシャワーを浴びて、無精髭を綺麗に剃り、ズボンは洗濯済みの綺麗なやつに履き替えてから、11時5分前に累の家へと行った。

累の運転する車で、30分程かけてやってきたのは、昔1度だけ食べに来たことがあったような覚えのある高級ホテルのレストラン。

確かお昼は宿泊客以外にもランチを提供していたはずだ。


「なんというか、随分お高そうなお店だね」


相談内容を聞くのが怖くなってきたでござる。


「私の奢りだから大丈夫よ。 あ、ほらあそこ。 覚えてる? あの子、中学の頃の同級生なんだけど……」


……累の指さす方向を見ると、確かに同年代っぽい女性が2人、こちらを見て小さく手を振っていた。

まぁ当然、私の記憶力では中学生時代の同級生の顔など、今でも交流のある累くらいしか覚えていない。

というより、化粧をほとんどしていない中学生時代の顔と、成長してばっちりメイクをしている今の顔を久しぶりに見て、同じ人だと判別できるものなのだろうか?

名前を聞けばワンチャン思い出せるか……?

とりあえず正直に答える。


「全然覚えてない……ホントに同級生? 同じ中学にあんな顔の人いたっけ?」


「あ〜……うん、そうよね。 とりあえず今日あんたに相談があるのはあの2人よ。 富考さんと牧添さんね」


累のお悩み相談じゃなかったんか~い。

まぁ確かに、累以外の人のお悩み相談って言われていたら『ご飯奢る』と言われても面倒臭そうだからパスしたと思うけど……。


「フコウさんとマキゾエさんね……ヤバいな、中学生の頃の記憶がないぞ……」


とりあえず相談の内容は不安だが、高級なレストランの食事代を奢ってもらう以上、出来るだけ頑張って相談に乗らなければならない。

頭の中を社会人の頃のお仕事モードに切り替えながら、二人が座っている席に近づいた。


「ゆめ、しの、お待たせ、待った?」


……『ゆめ』と『しの』って誰やねん。

どっちがフコウさんでもう1人がマキゾエさんなのか判断しようと思ったのに、知らない名前出さないで!


「私たちもさっき来たばかりよ。 ……それで、既知貝くん久しぶり。中学の頃同じクラスだったけど覚えてるかな?」


「もちろん覚えてます富考さん。 お久しぶりです」


富考 夢月さんとの関わりは中学の1年と3年の時に同じクラスになった程度で、正直親しかった記憶は一切ない。

それでもこうしてギリギリのタイミングでなんとか思い出すことが出来たのは、富考さんの声に聞き覚えがあったからだ。

活舌が良く、自然と耳に入ってくる様な綺麗な声なので、あまり関りは無かったけど印象には残っていた。

まぁ記憶からは消えていたのだが……累がめちゃくちゃジト目になっている。

話す前に思い出せたのだからセーフだろう。


「あ、あの……私のことは覚えてますか?」


……この声にも聞き覚えはある。

萌え声というか歯抜け声というか舌足らずというか、どこか幼い印象を与える声だ。

まぁ、富考さんと違いまったく思い出すことはなかったが……なにか絡みとかあったかな?


「……マキゾエさんもお久しぶりです」


とりあえず聞いていた名前で挨拶したのだが、私が完全に忘れていることを悟ってしまったのか、帰ってきたのは苦笑いだった。

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