第41話

無事に家へと帰還。

一応レベルの急上昇によって、なにか肉体に変化が起きていないかを確認しながら戻ったのだが、今のところ本当にまだなにも変化を感じていない。

いくら体調の変化に鈍い私でも、ここまで一気にレベルが上がれば、さすがになにかしらの変化があれば気づけると思うのだが……。


まぁ、分からないことは仕方ない。

今気になるのは付与魔法の方だ。

お腹が空いていたので冷蔵庫に入れていた残り物を食べたあと、さっそく付与魔法について調べてみる。


スマホで『魔法』というアプリケーションを開く。

新たに増えた『付与魔法Lv1』を選択する。

『魔法を使用しますか?』という確認に『はい』を押し、使用する端末にスマホを選択。

これでやっと『カメラを対象に向けてください』と表示された。


「相変わらずめんどくさいな~。 もうちょっと手順のショートカットが出来ればいいんだけど……。 それで付与できる対象は……赤く縁取りされるから分かりやすいね。 とりあえずマウスでいいか」


スマホの画面に映るマウスをタップすると、『付与する能力を選択してください』という表示と共に、『剛力』や『繊細』など、見覚えのある選択肢が沢山載っているリストが表示された。

恐らくこの中から付与したいものを選べということなのだろう。


「マウスだし、器用さが上がる『繊細』がいいのかな? 他によさげな付与はなさそうだし」


というわけで、『繊細』を選択し付与魔法を発動。

何の問題もなくマウスに『繊細』の付与がつき、マウスの名前が『繊細なマウス』という表示に変わった。

操作した感じは……特に変化は感じない。

同じ『繊細』の付与が付いた指輪をはめたときも、特に効果は感じなかったのだ。

プラシーボ効果よりはマシ程度の効果なのだろう。


まぁ、付与魔法は先程覚えたばかりの魔法なのだ。

付与魔法のレベルが上がれば、持った瞬間に効果を実感できるくらい強い付与を付けられるようになるのかもしれないし、何度も使ってレベルを上げることにしよう。


「他に付与したら使えそうなもの……あ、これとか?」


目についたのは、ネットで買ったエアガンのガバメント。

リサイクルショップのお兄さんに持っていると言っちゃったので、ネットで普通の物を買ったのだ。

性能は……目に当たったら危険だし、当たるとやっぱ痛いので、人に向けて撃たない方がいいっていう程度のもの。

ダンジョンで手に入れたハンドガンよりも、コッキングは重いし、スライドに妙な引っ掛かりを感じるし、弾は真っすぐ飛ばないしで興味がわかず、見た目だけはプラスチックとは思えない高級感があったので壁際の棚に飾っていた。


「この銃に付与魔法を使えば魔法銃になるのかな? 何の付与をすればいいのか分からないけど……あ、この『魔法』ってやつかな?」


というわけで、エアガンを対象にした際に表示された付与リストにあった『魔法』という項目を選択すると、今回はさらに新たなページが出現した。

上には『射出』と書かれており、どうやらこのページで『弾速』『射程』『貫徹』という項目を設定するようだ。


「これってやっぱり……銃のスペックだよね。 弾速と射程は予想通りだったけど、貫徹……? え〜っと、『物事をやりとおすこと。 貫きとおすこと』ね……貫通力とは少し違うのかな? でも確かに、貫徹が6のサブマシンガンはボスクリーチャーの頭に弾をぶち込めなかったけど、10のハンドガンは普通に頭に撃ち込めたな……これは展示用のおもちゃだし、最低でいいや」


イロイロいじった結果、弾速と射程で設定できる最低値は1で、最高値は50だった。

弾速はサブマシンガンでも結構速いが最低にするのもあれな気がするので、とりあえず1にしておく。

射程はハンドガンとサブマシンガンがどちらも50なので50にしておく。

貫徹で設定できる数値は1から10までだったので、最低値の1にした。


この条件で付与をしてみる。

恐らく1-50-1という数字になるはずだ。

決定を押すとスマホとエアガンのガバメントが光り、体から結構な量のエネルギーが抜けていく感覚があった。


「うわ~……これ結構魔力使う感じだな。 『繊細』みたいなプラシーボレベルの付与じゃなくて、魔法銃にする付与だから結構魔力を使うのかな? とりあえず『スキャン』だと……うん、『装弾射出型魔法銃1-50-1』だね。 まぁ、見た目はそのままだけど……」


とりあえずは再びダンジョンに降りて試し撃ち。

今回はエアガンに付属されていたBB弾をマガジンに装弾した。

そしてマガジンを装填してコッキング。

今まで使っていたハンドガンと違い、このエアガンはコッキングが非常に重い。

これだけ重いと連射は怠いだろう。


準備も整ったので、まずは適当に撃ってみた。

するとエアガンらしい音と共に、目で普通に追える速度で球が飛んで行く。

どうやら射撃自体は問題ないようだ。

射撃自体は……。


「弾の速度は魔法銃とは思えないくらい普通な感じで問題ない。 でも明らかに物理法則を無視した軌道で弾が飛んでるよね? ホップアップとか書かれてたけど、弾に綺麗なスピンがかかっていたとしても、今みたいな超直線的な軌道で球が飛ぶわけないじゃん。 設定した『射程』って、有効射程とかそこまで弾が飛ぶってことではなくて、射程の距離まで魔法の力で弾を運ぶってことなのかな? この銃の場合50だから、50メートルは魔法の力で弾を飛ばして、あとは自然な物理法則に従う感じ?」


そう予想しながら追加で5発ほど撃ってみたが、やはりすべて同じような速度、同じ様な軌道で弾は飛んで行った。

恐らく考えた通りで間違いないだろう。


「『貫徹』は……なんだろうね? やっぱり貫通じゃなくて貫徹ってあたりに意味があるんだろうけど……あ、壁に撃ったら跳ね返るのか。 そういえば、今までのハンドガンとかサブマシンガンじゃ跳ね返ったことなかったような……もう俺の頭じゃ分かんないや」


分からないことは一旦後回しにして……とりあえず、付与魔法を覚えたことによって、火力不足に関する問題は何とかなる気がする。

今は1つの物に対して1つの付与しか行えないみたいだが、レベルが上がれば今着ているパーカーのように、いくつもの付与を付けられるようになるのかもしれない。

つまり火力だけでなく、防御面でも活躍する魔法というわけだ。


それならとりあえず、付与魔法のレベル上げは優先事項とするべきだろう。

今年はもう少しで終わるが、ダンジョンは昼も夜もクリアできているのだ。

というより、結構ゆっくり探索したので、頑張ればもっと早く終わるだろう。

動画編集はもちろん頑張らないといけないけど、男たち数人に回復魔法を使った程度でレベルが上がるのなら、空いた時間に付与魔法のレベル上げをすれば、すぐにこのパーカーくらいの付与が出来るようになるかもしれない。


そんなことを考えながら、再び家へと戻るのだった。

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