第38話

とりあえず累の要求通り頭を撫でる。

私は犬や猫だけでなく、牛や豚、山羊にカピバラをも、撫でるとうっとりとした表情に変える自称ゴッドハンドの持ち主だからか、撫でられた累はニッコニコの笑顔だ。

いつも凛とした態度だったり、ツンツンした態度が多い累だが、酔っぱらうとここまで表情や態度が変わるなんて……やっぱりお酒は恐ろしい。


「ねくら〜。 わたしのこと好き? わたしのこと恨んでない?」


……累は私に恨まれるようなことをしたのだろうか?

今日のことは気にしていないと分かってもらえただろうし、他は全く身に覚えがない。

むしろご飯とか食事とか食べ物のことで、お世話になりっぱなしの自覚があるのだけど……。


「恨んだことないよ。 いつも感謝してる」


「ほんと? わたしのせいで、高校の推薦貰えなかったり、いいお仕事がみつからないんじゃないの?」


……考えたことないけどどうなんだろう?

確かに中3の時、累を助けた後しばらくは悪評があったし、そのせいで学費の免除が受けられて、進学も就職も結構強めな私立高校への推薦が貰えなかったということはあるのかもしれない。


でも学費の安い県立高校には普通に合格できたし、学費が免除になる大学への進学ができなかったのは私の頭が悪いからでしかない。

いい就職先が見つからなかったのも、再就職先が見つけられないのも、明らかに現代の社会情勢が原因なので、累を恨むのは筋違いだろう。


ついでに言うのなら、この辺りで一番いい就職先は累パパのところなのだ。

累の誘いを受けて、累パパの組織で働くのが一番安定かつ高収入だと分かっていながら、他で就職しようと頑張った結果が今なのだから、やはり純粋に私が無能だっただけの様な気がする……悲しいね。


「普通に俺の能力不足が原因だね」


「ねくらは凄いよ。 なにかんがえてるのか分からないし、ちょっと怖いところもあるけど、ねくらがいるだけですごく安心できるもん」


結構心を読まれてる気がしてたけど、何考えてるのか分かってなかったのか〜。

ちょっと怖いというのはまぁ……パンクな少年時代に大半の問題を暴力で解決しようとしてたからね。

今でも暴力は必要だと考えてるし、怖がられても仕方がないよね。


それにしても、酔っ払った累は幼い感じで可愛いな……。

酔いが醒めた後に記憶が残っていれば、顔を真っ赤にして恥ずかしがりそうで少し楽しみだ。

今後もストレスがたまったときには飲ませてみようかな?


「ねくらぁ……いい匂い」


「累さんや……年頃の女性なんだし、犬じゃないんだから、股の匂いを嗅ごうとするのはやめようね」


見た感じ、累はどうやら酔いだけでなく眠気も襲ってきたようだ。

そういえば前回飲んだ時もいつの間にか眠っていたような気がする。

お酒を飲むと眠くなるタイプなのかもしれない。


「累。 眠いならベッドで寝た方がいいよ」


「ねない」


累は寝たくないようでソファーに座り直したのだが、私の左腕にぴったりと体を寄せ、腕を絡ませてきた。

ちょっとお酒臭いしお胸が当たっているしで、正直居心地が悪い。

明らかに酔っているので先に帰るのも少し心配だし、寝てくれた方がありがたいのだが……。


「ねくら、いい体してるね。 手もおっきい……ここ、触って」


……やはりお酒は馬鹿になる飲み物のようだ。

思考力や判断力を鈍らせ、酩酊状態では自制心や羞恥心までも薄くなる。

味が好みなら仕方がないが、私は味も好きではないので、やはり出来るだけ飲むことを避けた方がいいだろう。


「累、ちょっと水を飲もうか。 お酒を飲むときは水分補給が大事だよ」


「のどかわいてない。 ん……ズボンぬぎたい」


そう言って累は私から少し離れ、ズボンではなく着ていたカーディガンを脱いだ。

そしてシャツも脱ぎ、肌着も脱いで、上半身は下着だけの姿に。

ついにズボンも脱ぎ始めた累を出来るだけ見ないように目を逸らしながら、この状況でどう行動するのが正解なのかを考える。


一度帰る……とはいかないまでも、家から出て、累が寝るのを待つべき?

それとも累が満足して寝るまで少し手を貸すべきかな?

意識しないように意識していたけど、累もこんなに大きくなって……凄く魅力的だ。


「ねくら……つづき、して」


下着姿となった累が甘えるように密着してきた。

あまりの魅力にどことは言わないが体の一部が凄いことになっていて、ちょっと痛い。


「そうだね。 ほら、掴まって。ベッドに行こうか」


きっと私もお酒で少し酔っていたのだろう。

累の魅力を前に欲に負けてしまった私は、累が満足して眠るまで欲求の解消に手を貸すことにした。

もちろん責任など取れないので本番行為は一切しない。

累がスッキリするように、手を貸して反応を愉しんだだけだ。


でももし、累がお酒で酔っていないときに誘われたら……我慢できる自信はなかった。




「お、おはよう」


朝になり、ベッドでぐっすりと寝ていた累が起きてきた。

私は当然眠れなかったので、累が眠った後は前回と同じように洗い物をしてから動画編集をして、朝まで過ごした。

今回は既に朝食の準備もほぼ完了しているので、温めなおすだけですぐに朝食を始めることが出来る。


「うん、おはよう。 結構飲んでたけど、二日酔いは大丈夫? 気分が悪かったり、吐き気とかは?」


「え? ……え〜っと、少し頭痛がするかな? 大丈夫……」


普通あれだけの量を飲めば、大半の人が次の日に地獄を見ると思っていたのだが……もしかすると累は強靭な肝臓を持っているのかもしれない。

だが顔を真っ赤にして目が泳いでいる様子から察するに、昨晩の記憶はしっかりと残っているようだ。

これで今後は慎重にお酒を飲むようになればいいのだが……。


「その……昨日のことだけど……」


「うん」


「今度は私も……その……頑張るから、またお願いしていい? 」


……頑張る?

頑張るっていうのはつまり……まぁいいか。

興奮しすぎて襲いたくなるくらい累は可愛かったし。

ただ……


「1つ条件がある」


「な、なに?」


「お酒の飲み方を覚えようね」


「……気を付けます」


「じゃあ、朝ご飯食べようか。 準備は大体できてるから、すぐに温めるよ」


一緒に朝食を食べ、食後に少しイチャイチャした後家へと帰った。

『幼馴染』で『友人』だった累との関係が、だいぶ深まったと思う。


「やっぱりお金を稼げるようにならないとな~……」


現状既に累のヒモ男になりつつあるのだ。

対等な関係を築き継続させるためにも、もう少し頑張らなければいけないだろう。


(とりあえず……明日までに夜のダンジョンを攻略するか。 それ以外に今できそうなことはないし……)

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