第51話
翌朝。
いつも通りの時間に目を覚ました。
動画の編集を終えて投稿・公開予約をした後は早めに眠ったからか、肉体的な疲れは一切なく、スッキリとした感覚だ。
スマホを確認したが何も連絡は入っていないようなので、朝食を食べた後はダンジョンへと降りる。
ダンジョン内は電波が届かないので少し不安だが、社会が大きく変化して治安が悪くなりそうな今だからこそ、ダンジョンの探索はしっかりと行って、フィジカル面での強化を図るべきだろう。
というわけで、ダンジョン内を素早く移動し、前回探索を終えたところまで戻ってきた。
時々モンスターを処理しながらも順調に探索していくと、本日最初の宝箱を発見。
宝箱の色は茶色だった。
「なにがでるかな〜? ……なんだこれ? 無線LANルーター?」
『スキャン』したところ、『迷宮端末連携通信機器』という堅苦しい名前のアイテムだった。
まぁ、見た目は無線LANルーターなので、wi-fiの通信速度が有線並みに安定するか、有線以上に速くなったりするのだろう。
ただ正直、無線LANルーターが良くなったところで、家のネット回線が変わらなければ、何の意味もない様な気がする。
「そういえば、こういうルーターって中継器にもなったような……? その前に、これ繋げばダンジョン内でもwi-fi届くようになったりしないかな? 駄目なら入り口近くまでLANケーブル引かないといけないけど……ダンジョン産のヤバい性能なら、ワンチャン家からここまで電波が届くような気がする」
というわけで、一旦ダンジョン探索は中断して、家へと戻る。
そして、今使用している無線LANルーターと交換をして、ダンジョンへと降りてきた。
スマホの画面を確認すると、wi-fiのマークがちゃんと表示されている。
累パパがいれば基本的に安全とはいえ、想定外のことで私に助けを求めてきたように、これからしばらくの間、いつどこで何が起こるか分からないのだ。
ダンジョン内にいる時でも連絡が取れるようになったのは、非常にありがたいことだろう。
「ダンジョンさん流石っす! 宝箱から今必要としているものをドンピシャで提供してくれるなんてマジで感動しました! じゃあ何で女性用下着出したんだよ馬鹿野郎!」
そんなことを言いながらも、一応ダンジョンに感謝しながら探索を再開。
相変わらずモンスターの数が多く、100円玉を沢山ゲットできるので結構嬉しい。
ただ、もうだいぶ奥まで進んでいるのか、遭遇するモンスターにも少し変化が出てきた。
と言っても、現れるモンスターは相変わらずゴブリンとメウバウだけなのだが、遭遇する頻度が少し減って、その分1つの群れに4匹から6匹しかいなかったのが、8匹以上の群れで行動する様になった感じ……。
群れの数が増える程、処理が間に合わずに接近されるリスクが上がるので、あまり群れの数は増えて欲しくないのだが、良い面が増えれば悪い面も増えるものなのだろうと諦め、より素早く無駄なく正確かつ確実に、モンスターを仕留められるよう意識しながら探索を続ける。
このペースなら、明日には『マップ』を全部開放することが出来そうだ。
「お、2個目の宝箱。 しかも銀色じゃん。 なにがでるかな~?」
確認するために銀の宝箱に触れた瞬間、宝箱は破裂するように砕け散って中身が落ちてきた。
出てきたのは大きくて重くて四角い箱。
一瞬電子レンジかと思ったのだが、じっくりと観察すると電子レンジではないようだ。
「これは……3Dプリンターってやつかな? カタログしか見たことないけど、多分ここが動きながら、こっちの部分から溶かしたフィラメントを出して造形する感じ? なんだろう……? 『これで武器でも作れ』っていうダンジョンからのお告げかな?」
『スキャン』によると、『魔力物質立体造形迷宮機器』というアイテムだそうだ。
魔力物質というのは気になるが、立体造形ということはやはり3Dプリンターみたいなものだろう。
問題はその重さと大きさ……両手で持ち上げることはできるのだが、普通に重いのでダンジョン内を持って移動したくないし、縦横高さ全てが1メートル近いので、そのままではマジックバッグに入りきらなかった。
マジックバッグの中身を全て取り出したところ、なんとかギリギリ入れることが出来たので、とりあえず持ち帰ることはできそうだ。
まぁ、マジックバッグの中に入れていたものを全て、マジックバッグの中に入れていたリュックに入れて背負うことになるので、探索を続けるのは無理そうだが……。
というわけで、今日はもう探索を切り上げて、帰ることにした。
「さて……それで、この3Dプリンターはどうやって使うのかな? 見た感じ、USB差し込み口が見当たらないし、SDカード差し込み口もない。 ならwi-fiかBluetooth接続になると思うけど……」
さっきは『スキャン』でアイテム名を確認しただけなので、スマホの『カメラ』で確認してみると、やはりスマホやノートパソコンと同じく連携するアイテムだったので、とりあえず連携する。
すると、スマホに新しく『3DCAD』というアプリが追加されたので、さっそく起動してみる。
「あ~……なるほど。 自分で3Dデータを作るのが基本だけど、『カメラ』を使えば3Dスキャンが出来て、それを元に色々と弄ることもできるのか……めちゃくちゃ難しそうだな。 でもスマホで撮ってノートパソコンで編集できるのは凄く楽かも」
というわけで、さっそく使ってみることにした。
私にとって武器と言えばエアガンの魔法銃だが、エアガンは中身がしっかりとしていないと意味がないので今回は見送って、まずはナイフを作ってみる。
まぁ、正確には短刀だが……。
ナイフを立てて、アプリ内の3Dスキャナーを選択し、スマホで360度から撮影。
すると、めちゃくちゃあっさりと、ナイフの3Dデータが作成された。
「まぁ、流石に研がないと切れ味はないだろうけど、とりあえずこのまま出力するか」
『作成』を押すと、『魔力を充填してください』という表示と共に、3Dプリンターの1箇所が青く光り出す。
とりあえず手を置くと、魔力が結構な勢いで吸われていき、吸われなくなると同時に『出力を開始します』という表示が現れた。
後は待っていればいいだけだろう。
以前見た3Dプリンターのカタログでは、10センチほどの高さでも3時間ほど時間がかかるらしい。
ナイフは体積はそこまで大きくないが、グリップから刃の先まで30センチくらいはある。
いくらダンジョン産のファンタジー3Dプリンターでも、完成するまで結構な時間がかかるだろう。
「って作業はっやー!? もうグリップ部分まで出来てんじゃん! しかもこの色……ダンジョン産のエアガンと同じ色じゃね?」
グリップ部分はめちゃくちゃ速く造形されたのだが、刃の部分は繊細なのか、結構ゆっくりと造形されていく。
これは恐らく、研がなくてもそのまま普通に使える状態で造形されているのではないだろうか?
造形されていく様子を少しワクワクしながら眺めること20分、ついにナイフが完成した。
当たり前かもしれないが、『スキャン』では『短刀』としか表示されなかったので、付与はされていないのだろう。
紙も力を籠めずにスパッと切れたので、実用性は十分だ。
「マジか~……なんか過去一ヤバいものを手に入れちゃった気がするな……。 いや、レベルが100上がる飴もヤバかったけど、別ベクトルでこれはヤバいでしょ……。 銀の宝箱から出るアイテムの中でも相当な当たりなんじゃないの?」
というわけで、この半端なくヤバい製造アイテムを使いこなすために、まずは『3DCAD』の詳しい使い方を勉強するのだった。
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