第52話
3Dプリンターのお勉強は非常に大事だが、動画投稿も大事なので、今日の分もキッチリと編集して投稿し、そろそろ夕食の準備をしようかと考えたタイミングで、累から連絡が来た。
今日も奥阿賀家の方で晩飯をご馳走してくれるそうだ。
昨日も夕食をご馳走になったのに、今日も呼んで貰えるなんて……私もすでに奥阿賀家の家族の一員として扱って貰えているのかな?
そんなことを考えながら、奥阿賀家へと移動した。
「それにしても、めちゃくちゃ綺麗に直ってるな〜……。 いや、確かに昨日帰るときには、ここにドアをはめるんだろうな〜って分かるくらいには修復が終わってる感じだったけど……。 まだ1日しか経ってないのに、職人さんってやっぱ凄いな〜。 裏社会は超凄腕の職人を抱えてるのかな? そういえば、地方じゃ家を建てる人がめちゃくちゃ少ないから、腕のある職人でも仕事がなくて食っていけないって話があったような……?」
都会では、無駄にビルを建てては壊し、新しい靴を買うような感覚で家のリフォームを行うアホ共がいるらしいが、残念ながら地方で田舎のこの辺りでは、表向きそんなお金を持っている人は、この奥阿賀家の累パパくらいしかいない。
だが、累パパは畜産関係のことにしかお金をジャブジャブ投資していないみたいなので、腕のいい職人がいたとしても、職人が食っていけるだけの仕事なんてほとんどないはず。
つまり、表で仕事がなく、裏社会で働いている腕のいい職人がいたとしても不思議ではない。
この玄関を修理したのはきっと、腕が良くて仕事も早い、凄腕の職人さんなのだろう。
「音倉どうしたの?」
そんなどうでもいいことを玄関の前でボケーっと考えていると、扉が開いて累が出てきた。
そういえばどこかにカメラがあるはずなので、私がインターホンを押さずにボケーっと突っ立っていたのを見られていたのだろう。
「いや、ほら、もう玄関が直ってるじゃん? 1日で直るなんて早いな~って思ってさ」
「あぁ……凄いよね。 昨日音倉が帰った後、替えのドアが見つかったとかで家に来て、2時間くらいで取り付けちゃったよ。 ただ、このドアはそこまで防犯性が高くないらしくて、ちゃんとしたドアが完成したらまた交換しに来るんだってさ」
ちゃんとしたドア……?
今度はロケラン撃ちこまれても壊れないくらい頑丈なドアになりそうだ。
でも壁の方は補強しなくてもいいのだろうか……?
いやまぁ、壁の補強なんて出来るのか知らないけど。
「音倉、その……ついさっき色々あって……。 ごめんだけど、夕飯は遅くなるかも……」
累がもの凄く申し訳なさそうな表情で、言い辛そうにそう言ってきた。
まぁ確かに、呼んだうえで『遅くなるかも』なんてことは言い辛いと思うが、表情から察するに、めちゃくちゃ大変なことがあったっぽい感じだ。
なんだろう……?
累パパと累ママが大喧嘩始めちゃったとか?
まさか家に襲撃されて、襲撃が収まった後は顔の怖いヤーさん方が大勢やってくるだなんて、思ってもみなかっただろうし……。
「まぁ、色々あると思うし大丈夫、気にしなくていいよ。 帰った方がいい感じ? それとも、ちょっと長めに待つ感じ?」
「分かんない。 今お医者さんが来るのを待ってるみたいだけど、お父さんもお母さんも他のこと考える余裕がないみたいな感じで……」
医者……大喧嘩ではなさそうだな。
一番高い可能性としては、瑠璃さんが流れちゃったとかだろうか?
妊娠したって聞いたけど、まだ見た目には変化がないくらい初期みたいだったし、襲撃とか元旦那の死とかのストレスが大きすぎて、体に負担があったんじゃ……?
……まぁとりあえず、そういうことなら今日は大人しく帰った方がいいだろう。
累の様子を見た感じ、そこまで切迫した状況ではないみたいだが、累パパと累ママが余裕ないのなら、邪魔をするわけにはいかない。
というわけで、今日は帰ることを伝えようとしたのだが、足元に猫が駆け寄ってきた。
治癒魔法は使ったが、こうして元気いっぱいな様子を見ることが出来て少し安心だ。
ただ、ミャーミャー鳴きながら全身を足に擦りつけて甘えてきているので、この状況で帰りますとはちょっと言い辛い。
お医者さんが来るまで、少し撫でさせてもらおうかな?
「ラテも甘えたいみたいだし、とりあえず上がって」
「そうだね」
この猫の名前は『ラテ』というのか。
あの犬たちは確か、『チョコ』と『マシュマロ』って言ってたな……。
可愛らしいネーミングセンスだ。
恐らく毛の色に合わせて名付けたのだろう。
だとすればこの白と茶色の『ラテ』は……カフェラテかな?
食べ物じゃなくて飲み物だけど、色合い的にそんな感じがする。
リビングで椅子に座り、足の上に乗ってきたラテを累と一緒にモフモフしていると、累ママがやってきた。
顔色を見た感じ、落ち込んではいるみたいだが、そこまで深刻そうには見えない。
瑠璃さんの様子はどんな感じなのだろうか?
「音倉君……ごめんなさい、来てたのね。 あらもうこんな時間……すぐに温め直すから少し待っていてね」
「いえ、大変そうですし、ほんと、気にしないでください。 ところでその……大丈夫ですか?」
「……たぶん、瑠璃のお腹の子は流れちゃったと思うわ……。 あんなことがあったんだもの、仕方がないわよね」
……こういう時、なんと言えばいいのだろう?
正直言葉が見つからない。
累パパに『気にせずやっちゃっていい』と言われていたとはいえ、瑠璃さんの旦那さんを殺したのは私だ。
それもムカついたから、最後に唯一痛めつけて殺してやった。
ぶっちゃけ特に罪悪感はない。
なんだかんだ、人間を殺したのは初めての経験だったが、あいつらが死のうと私にとってはどうでもいいことだ。
ただ……もし今回の流産が、旦那が死んだことによる心因性のものだった場合、瑠璃さんからすれば、『旦那とお腹の中の子供は私に殺された』と考えても不思議ではない。
少なくとも、良くは思われていないだろう。
だが将来、この奥阿賀家は瑠璃さんが継ぐ予定のはずだ。
なので、瑠璃さんと確執のある状態のままでいることは避けたいのだが……どうしたものだろうか?
「音倉君、音倉君は何も悪くないからね。 あの男は本当にどうしようもない屑で、 あいつ瑠璃に…………止めておくわ。 とにかく、私も瑠璃も、音倉君には感謝しているの。 だからそんな顔しないで」
やはり、累ママと累は親子なのだろう。
なんというか、何も言っていないのに心を読んで、欲しい言葉を言って甘やかしてくれる感じ……。
学生の頃から社会人として働いている時までずっと、常に周囲から『表情が分かりにくくて何を考えているのか分からない』と言われ続けていたのだが……いや、累も『何考えてるのか分からない』って言ってたな。
表情の変化は分かるけど、表情から感情を読み取りにくいのかも?
累と累ママは高精度で読み取ってくれるから、一緒にいても比較的自然体でいられる感じなのかな……?
まぁとにかく、累ママの話だと、瑠璃さんは私のことを恨んではいないようなので少し安心。
もちろん実際に会って話すまでは何とも言えないが、少なくとも累ママは、私という人殺しに対しての嫌悪感はないようだ。
というより、瑠璃さんの元旦那さんは、いったい何をすれば、ここまで累ママを怒らせたのか……?
生まれて初めて殺気というものを感じた気がするのだが、累ママは怒ると結構怖い人だったのかもしれない。
まぁ、それくらい意志が強いからこそ、累パパと結婚できたのかもしれないが……。
そんなことを考えながら、お医者さんが来るまで猫を撫でながら過ごすのだった。
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