第61話

宝箱から人の形をした物が現れた瞬間、金の宝箱は見た目だけのトラップであり、現れたこれはモンスターである可能性が頭をよぎって、だいぶドキッとしてしまったのだが、動く気配はなく、しっかりじっくりと確認したところ、等身大の人形だったみたいだ。

冷静さを取り戻したので『スキャン』で確認したところ、『迷宮端末未連携オートマトンLv1』という表示が出た。


「迷宮端末……? スマホと同じ……いや、スマホの場合スマートフォン型が名前の先に来てたから、どちらかと言うとルーターに近いのかな? まぁ、そこはどうでもいいんだろうけど。 それで……オートマトンね〜……。 そういえば最近、AIを搭載した人型ロボットがお金持ち向けに販売されたってニュースを見たな~……」


そんなことを思い出しながら、とりあえずスマホと連携ができるか確認してみると、充電などをしなくても連携ができるみたいなので、連携しておく。

するとスマホの画面が切り替わり、オートマトンの背中と思われるイラストと共に、『魔力を注入して下さい』という文字が表示された。

スマホの指示に従って、背中に手を当ててしばらく魔力を送り込む。


スマホにオートマトンのエネルギー残量が表示されていたのだが、20%まで回復したタイミングで、画面上の『起動』の文字が選べるようになった。

一応、起動した瞬間襲ってくる可能性も頭に入れて、少し離れてから『起動』をタップ。

……動かないので、再びスマホの画面を確認すると、なにやら設定しなければならない項目が沢山あるようだ。


「なんか面倒臭そうだし、とりあえず先にボス部屋をクリアして、オートマトンは帰ってからゆっくりと確認しようかな」


というわけで、オートマトンを停止してから、リュック型のマジックバッグに入れておく。

そして体調を再確認。


少し前に強烈なタックルを食らったはずなのだが、やはり体には何の問題もなさそうだ。

つい先ほどマガジンとオートマトンに魔力を移したのだが、こちらも体感上特に変化はない。

水も飲んだし、今回メインで使う予定のショットガンも問題なく、予備のハンドガンも、セーフティーを外せばいつでも撃てる状態にしてある。

準備は万端と言ってもいいだろう。


正直、アサルトライフルも、いつでも使える状態で持っておきたかったのだが……そうすると、荷物が多過ぎるように感じたので諦めた。

ゲームの中には、複数のデカい銃を持ち替えながら戦闘を行えるゲームが多々あるのだが、リアル系のFPSや現実の軍隊でそれをする人がいないイメージなのは、携帯性にデメリットがあり過ぎるからなのだろう。

普通に重くて疲れるからかもしれないし……。


結構気楽に、そんなことを考えながらボス部屋へと入る。

ボス部屋の中にいたのは、デカいクリーチャーをさらにデカく、ゴリゴリのムキムキにしたような見た目のモンスターが1体。

二足歩行なことも、腕が4本あることも変わらないのだが、身長と筋肉以外では、頭に角みたいなものが生えているのが主な変化だろう。


部屋の中を天井までしっかりと見渡して確認したが、他にモンスターはいないようだ。

つまりダンジョンさん的には、取り巻きが多くいるデカいクリーチャーよりも、このクソデカゴリマッチョモンスター1体の方が強いということなのだろう。

そう考えて、気を引き締める。


まずはショットガンの射程に入るために近づくと、クソデカゴリマッチョモンスターが赤く発光し始めた。

なんとなくだが、魔法を発動した時のスマホの発光と似た印象だ。

どんな魔法が来るかは予想できないが、左右に回避行動をとるか、先に攻撃して魔法はキャンセルしてもらうか……。

……少し迷ったが、ダッシュで突撃してショットガンの弾をぶち込むことにした。


地面を本気で蹴って前へ進み、2歩目、3歩目でショットガンの射程に入るので、少しジャンプしながら体勢を整え、首の少し下辺りを狙って引き金を引く。

見た目通り防御力は高いようで、貫通はせずに着弾点が爆発し、肉が抉れているのが見えた。

ついでに発光もどんどん弱くなっているので、魔法は中断されたのだろう。


流石のクソデカゴリマッチョモンスターでも、ショットガンがモロに命中した時の衝撃は受け止めきれないようで、上半身が大きく仰け反っていくのを確認して、この隙にコッキングをしてから『スキャン』を行う。

表示されたのは、やはり『クリーチャー』だった。

あの顔面を見て、そんな気はしていたのだ。


『クソデカゴリマッチョクリーチャー』と呼ぶのは流石に長くて面倒なので、こいつのことは『γ(ガンマ)クリーチャー』とでも呼ぶことにしよう。

普通のが『α(アルファ)クリーチャー』、デカいのは『β(ベータ)クリーチャー』だ。

その方が分かりやすくていいと思う。


体勢を崩しているγクリーチャーに追撃を行おうとしたのだが、γクリーチャーは仰け反った体勢から後転を行い、そこから4本の腕の力でこちらに飛び掛かってきた。

流石にこれを食らうのはヤバそうなので、ショットガンを雑に狙って撃ってから、横に跳んで回避する。


回避後、コッキングしながら確認すると、私のところまで飛んで来ると感じたγクリーチャーは、結構手前に墜落していた。

よく見ると、顔面の下半分と首のお肉が無くなっていて、骨が見えている。

結構雑に狙ったのだが、完ぺきな当たりを見せた様だ。


「でも骨は無傷に見えるんだよな〜……硬すぎるだろマジで。 こういう時に装弾射出型の貫通力に特化した銃が必要なのかな? ハンドガンは口径が小さすぎだけど、もっと大口径なら相当な損傷を与えられるだろうし……」


ちょっと気になったので、倒れたまま動かないγクリーチャーの頭を、ハンドガンで撃ってみた。

γクリーチャーの頭が少し動き、全身がピクッと動いた後、徐々に肉体が消滅していく。

どうやらハンドガンの弾は骨に弾かれず、頭蓋骨の中に入ったようだ。


「なるほど。 利便性なら間違いなく魔力射出型だけど、ガッチガチのモンスター相手なら装弾射出型の方がいい場合もあるのか……。 それにしてもこのハンドガン、一番最初に手に入れた武器なのに、未だにボス相手に通用するって、普通に凄いよな〜……。 結構愛着があるし、連射機能を付けたり、弾の口径を変えたりする改造ができないかな~?」


少しの間、何かいいアイデアが浮かばないか考えていたのだが、特にいいアイデアは浮かばないまま、γクリーチャーが完全に消滅し、部屋の中心に金色の宝箱が出現した。

ボス部屋の前に金の宝箱が置いてあったのは、普通に運が良かっただけみたいだ。

ハンドガンの改造は、最優先事項ではないので一旦忘れることにして、まずは宝箱の中身を確認する。


「なにがで〜るかな〜? ……なにこれ?」


出てきたのは植木鉢だった。

もちろん真ん中には小さな植物が植えられている。

違法な怪しい植物ではないと思うが、果たしてまともな植物なのだろうか?

『スキャン』したところ、『魔果の苗木』という表示が出た。


「魔果ね……ま〜た知らない単語が出てきちゃったよ。 育てれば実がなりそうな名前だけど……大事なのは味とか効果だよな〜」


そんなことを言いながらも、とりあえずマジックバッグに入れておく。

ダンジョンさんが用意したアイテムなら、きっと何か意味があるはずだと信じたいので、なにをどうすればいいのか分からないが、大事にお世話することにしよう。


というわけで、夜ダンジョンの探索も終わったので、家へ戻ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る