第2話

次の日の朝。

地震はとっくに収まっている。

だが、見て見ぬ振りをして現実逃避をしたとしても、悲しいことに現実は変わらない。

住んでいる家の中で問題が発生している以上、逃げることもできない。

助けを求めることはできるが……ワンチャン一発逆転できる金の匂いがするような気もするので、できればバレるまで秘密にしておきたい気持ちもある。

この穴がもし、ゲームでよく登場するようなダンジョンで、危険はあるかもしれないが金儲けにもなるかもしれないと考えれば、独占したいと思っても仕方がないことだろう。


「スマホの電池は100%。 念のためLED懐中電灯も新品の電池を入れた。 そこまで深入りするつもりはないけど、1リットルペットボトルに入った水1本とおにぎりを2つ。 武器がなぁ……あまり使ってない包丁を一応持っていくけど、メインは金槌でいいか」


というわけで、リュックサックに包丁・おにぎり・水・タオルを入れ、ズボンの左ポケットにスマホ、右手に金槌を持って穴へとやってきた。


「あ、靴履かないと……」


ダンジョン(仮)の地面は土だ。

裸足で入ったら出たときに床が汚れるので、玄関から靴を持ってきてダンジョンの入り口で履く。

これ以上準備できることはないだろう。


ということで出発。

ダンジョン内はもちろん暗いのだが、一応光が届いているので、今のところライトで足元を照らす必要はない。

そこそこ急な下り傾斜をどんどん進み、カーブを曲がり、5分ほどで平坦な通路へと到着した。

ここまでは一本道だったので迷うことはないだろう。


「でも戻ってきたときにここが上に繋がってるって分かりにくいな……。 コンセントの延長ケーブルをここまで持ってくる? お金さえあればできるけど、お金がないから無理だな。 今日はそこまで長い時間探索するつもりはないし、目印に懐中電灯を置いておくか」


というわけで、来た道からダンジョン内を照らすように懐中電灯を設置した。


「問題は十字路なんだよな……。 右か左か真っすぐか、地図は自分で作らないといけないだろうし、結構面倒だな。 ペンもノートも持ってきてないし。 とりあえず今日はスマホのメモアプリで我慢しておくか」


ポケットからスマホを取り出し、画面を表示する。

当然のことだが家のwi-fiは届いておらず、5Gの電波も届いていない。

メモ帳のアプリを開き、文章入力ではなく手書き入力の設定に変更し、十字路を書く。

とりあえず今日はこれでも問題ないだろう。


「それで、どっちに行こうかな……右手に金槌持ってるし、左手で壁を触りながら進める左に行くか」


というわけで最初は左の道へ。

体感で50メートルほど歩くと右へ曲がる通路があったが、まだ真っすぐ進めるので今回はスルー。

さらに数十メートル進むと壁があり、今度は右折するしかないようだ。


「ここまで通路の幅は4メートルから5メートルで、高さも同じくらいかな? そういえば結局、通路に明かりが見当たらないのに普通に見えてる。 やっぱファンタジーなダンジョン的な何かなのかな?」


そんなことを考えながら右折し、少し進む。

少し離れたところに壁があるのが見えるが、行き止まりではなく、また右折方向にしか進めないようだ。

これくらいなら地図がなくても迷わないので、そのまま進む。


突き当りを右に曲がるとそこそこ広い空間だった。

広間の真ん中には変な石像が置いてあったので、近づいて観察してみる。


「ゴブリン?……の、石像かな? たぶん石だよね。 壊せばいいの? それともスイッチとかギミックが……ないな。 叩くか」


左足を大きく踏み込み、右膝、腰背筋、肩へと力を伝え、振り抜いた金槌は見事に石像を捉え、軟らかいような、でも固いところもあるような、何とも言えない手の感覚を残して、石像の首を抉り取った。

よく見ると、頭から胸のところまで石化が解除されていたみたいだ。


「なにこれ? ただの石像だと油断したところを襲うつもりだったとか? あからさまに怪しいからとりあえずぶん殴ったけど……まぁ、いいか。 それよりお宝はないかな~?」


お宝が出ることを期待しながら石像を観察していると、徐々に石化していた下半身も緑色の皮膚へと変わっていき、足先まで綺麗に変化したタイミングで砂の様に崩れていき、溶ける様に消えてしまった。

後には何も残らなかった……。


「……ここは行き止まりみたいだし、宝箱もない。よし、戻るか、地上へ」


というわけで、このダンジョンではモンスターっぽいやつを倒しても何も得られないようなので、今日はもう探索を終えることにした。

迷うこともなく、特に何事もなく戻り、置いていたLED懐中電灯を回収。


そろそろどこでもいいから再就職するべきなのかもしれない……。

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