第49話
普通の人が相手でも、どんなに相手の顔が怖くても、私は素直な性格を自称しているので、質問には正直に答えることにした。
「え~……私が持っているのは魔改造されたエアガンなので、たぶん、あなたの言う『銃』は持ってないです」
魔改造……つまり魔法を使って改造をしているということ。
ダンジョンの宝箱から手に入れたものなので、『魔改造をした』ではなく『魔改造された』と言ったところも、素直ポイントが高いだろう。
恐らく元はエアガンで間違いないはずなので、嘘は一切言っていない。
「……奥阿賀さん、本当にこいつが昨夜のあれをやったのか?」
……なんだこいつ?
ボスっぽい風格はあるのに、見る目はないんだな。
入り口の修理をしていた顔の怖いおじいさんは、何も言っていないし何もしていないのに、一目見ただけで俺が昨夜頑張ったことを見抜いたのに……。
「何だおめぇその顔は……言いてぇことがあるんならはっきり言えや!」
……本当に何なんだこいつ?
いきなりキレてるよこっわ……。
裏を牛耳ってるヤーさんなのかもしれないけど、こんなのと累パパは付き合いがあるの?
もう少し友人を選んだ方がいいと思うけど……。
「マジでなんだその顔はよぉ……お前俺のこと舐めてんな? 」
このお馬鹿、短気過ぎて銃抜いちゃったよ……。
なんだろう……むしろ馬鹿に見せて私の反応を試しているのかな?
思わず累パパの方を見てしまう。
累パパは驚いて焦っている表情のように見えた。
もしかして、ヤーさんの独断か?
「銃突きつけられてよそ見とは、随分余裕かますじゃねぇか……。 おめぇ、撃たれないと思ってんな? 奥阿賀さんの知り合いだろうと、うちを舐めるやつに容赦はしねぇぞ」
あ〜うん、凄い凄い。
いい凄味だよ〜。
暴対法に引っかかりそうなくらい凄味はある。
……怠いな〜こいつ。
「すみませんけど、俺は今日、犬たちの埋葬を手伝いたくてここに来たんですよ。 なんでこの部屋に呼ばれたのか分かりませんけど、話がないならもう行っていいですか?」
出来るだけ丁寧な言葉遣いを心がけたつもりだが、残念なことにこの馬鹿は、トリガーにかけた指に力を込めたため、普通に踏み込んでリバーブローをお見舞いした。
銃を向けられているのに一切躊躇なく踏み込めた理由は、単純にハンマーが起きていなかったからで、『撃たれないと』思っていたのではなく、『これじゃあ弾が出ないよな~』と思っていたのだ。
それにしても、トリガーを引いても弾が出ない銃で脅しをかけるなんて、この人本当に裏社会で凄い地位にいる人なのだろうか?
脅すのならせめてハンマーを起こせよと言いたい。
今のところ短気で乱暴で間抜けな印象しかないのだが、こんなのと付き合いがあるなんて、累パパは大丈夫なのだろうか?
なぜか普通に殴ったのになぜか護衛っぽい3人は突っ立ったままだが、念のため、馬鹿が持っていたハンドガンをお借りして、スライドを引く。
セーフティーなんてものはなかったし、スライドは戻らず、オープンな状態になってしまった。
マガジンを取り出すと、やはり弾は装填されていない。
どうやら今までのはすべて小芝居だったみたいだ。
……あほらし……。
銃を元通りに戻してからボスっぽい人に放ると、後ろの入り口から声をかけられた。
「随分銃の扱いに慣れてるみたいじゃねぇか。 お前、本当に堅気の人間か? 」
「お、親父……」
部屋に入ってきたのはやはり、入り口で会った見る目のあるおじいさん。
ボスっぽいおじさんが『親父』と呼んだが、この場合、どちらの意味になるのだろう?
単純に血のつながった親子なのか、それともヤクザ組織特有のあれなのか……。
「既知貝 音倉だったよな? 16人も殺せる堅気がどんな人間なのか、さすがに興味が湧いちまってな。 悪いが一芝居打たせて貰った。 まぁ、こいつが大根役者過ぎたせいで、あまり参考にはならなかったが……」
……なんだろう?
雰囲気も言葉遣いも違うのに、どこか累パパと似たようなオーラを感じる。
こう……表向きめちゃくちゃ温厚で優しい感じなんだけど、身に纏う威圧感があるせいで、素直に話を聞いてしまうような感じ。
これがカリスマ性というやつだろうか?
「ただまぁ……奥阿賀さんが気にかける理由は十分理解できた。 腹ん中にいろんなもん隠していそうだが、少なくとも救いようのないクソ野郎ではないみたいだな。 今回、想定外のことだったとはいえ、本来うちが請け負うはずの仕事を代わりに果たしてくれたんだ。 後日謝礼を送るから、奥阿賀さんから受け取ってくれや」
「えっと……はい、ありがとうございます」
『お気遣いなく』と断ろうかとも考えたのだが、なんとなく断らない方がいい様な気がしたのでお礼を伝える。
普通に考えて、こういう組織の人たちから金品を受け取らない方がいいと分かってはいるのだが、累パパを通して贈って貰えるのなら、そこまで心配しなくてもいいのではないかとも思ったのだ。
普通にお礼欲しいし……。
それよりも、やっぱり昨夜の襲撃は想定外だったのか……。
市内各地で暴動が起きようと、普通こんな山の奥にまで暴徒が押し寄せてくることはないだろうし、累パパが何の防衛手段も持たないまま襲撃されるなんて、普通は考えられないもんな~。
となるとやはり、瑠璃さんの元旦那さんが、今回の襲撃を企てたのだろう。
累パパからすれば、跡を継ぐはずだった家族同然の人が、まさか襲撃を企てるなんて考えたくはないもんね。
でも、動機はなんなのだろう?
普通に働いているだけで生活には困らないし、将来は大金持ちの権力者になれるはずだったのに……。
……何かやらかして、跡を継げなくなったから、瑠璃さんとの婚姻が解消される前に、皆殺しにするつもりだったとか?
……まぁいいか。
どうせ死んだ人間のことなんだし、この先も累と付き合っていれば、嫌でも何をやらかしたのか知ることになるだろう。
他人のやらかしを聞くのは面白いが、無理に探るほど興味があるわけではないのだ。
そんなことを考えながら、一礼してから部屋を出た。
この部屋に呼ばれたのは、本当にただ私の反応が見たかっただけらしく、特に用はなかったそうだ。
まぁ、用がなかったというよりも、私という人間の品定めをするために呼ばれた様な気がするので、今後なにかしらのお仕事の依頼がくるのかもしれない。
社会が大きく変化しようとしている今、裏社会では仕事が出来る人を大量に募集していそうだし……。
「音倉」
リビングへ戻っている途中で累がいた。
表情を見た感じ、だいぶ落ち着いたみたいだ。
「累、大丈夫?」
「うん……お父さんとなに話してたの?」
「改めて昨日のお礼を言われただけだよ。 色々と片付いたらお礼の品をくれるってさ」
「……それだけ?」
「それだけ。 他はまぁ、部屋に怖い顔の人たちがいたから挨拶はしたけど……」
大根さんに凄まれたけど、あれは挨拶の一環みたいなものだろうし、見る目ある真ボスっぽいおじいさんとは普通に挨拶をした。
その後改めて累パパにお礼を言われて部屋を出たから、嘘は言っていない。
まぁ、今の言い方だと、お礼を言うために呼ばれて、ついでに挨拶を行ったように受け取られるかもしれないが、大した違いではないだろう。
「……音倉は、危ないことの方が向いてるのは知ってるけど、怪我するようなことはしちゃ駄目だからね。 それに逮捕されるようなこともやっちゃ駄目」
「分かった、ちゃんと気を付けるよ」
昨夜16人も殺したけど、一応奥阿賀家を守るためにほんと~に仕方なくやったんだし、逮捕はされないよね?
……そもそもあちこちで暴動が起きているんだし、司法は機能していないか。
死体を累パパか見る目あるおじいさんがなんとかすれば、逮捕されるようなことはないでしょ。
そうであればいいなと願いつつ移動し、深い穴を掘るのを手伝い、石灰や炭を敷いた後、犬たちを埋葬する。
深い穴を掘るほど害獣に掘り起こされるリスクが減るし、石灰は菌の繁殖を防ぎ、炭は腐敗臭を軽減するそうだ。
『チョコ』『マシュマロ』と書かれた石を設置し、手を合わせる。
小学生の頃から、ここに来るたびにあの犬たちを撫でていた。
もう撫でることはできないのだと思うと、結構寂しいし、悲しく思う。
でもただ寂しいとか悲しいというよりも……母親が死んで、後を追うように父親も死んだ時より、喪失感があるというか、虚しさがある感じ。
これは瑠璃さんの元旦那を痛めつけて殺しても消えなかったし、あいつら全員を痛めつけて殺したとしても、きっと消えることはないのだろう。
ただ1つ、確実に言えるのは……少なくとも殺すことが出来て良かった……。
そんなことを思いながら、奥阿賀家へと戻るのだった。
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