第44話
「さて……なんで今日ここに来てもらったのか、ちゃんとわかってるよね?」
今日は12月31日。
つまり年末。
私は累に連れられて、累の実家へと来ている。
そして、ノコノコ連れてこられた私は1人、累パパの部屋に呼び出された。
今回は1対1での対面だ。
累とイロイロやっちゃっているからか、今まで以上に緊張してしまう。
「心当たりがあり過ぎて、正直ちょっと分からないですね……。 今日は累さんから『年越しに家族全員集まってご飯を食べるんだけど、音倉も一緒に来ない?』って感じで誘っていただいたので、ありがたくお言葉に甘えてついて来ただけですし……」
「あぁ、食事はもちろん君の分も用意しているよ。 でもこの部屋に来て貰ったのは、君に聞きたいことと、伝えることがあったからだ……累と付き合い始めたそうだね?」
そう……現状私は何の責任も取れそうにないのだが、累とそりゃあもうイロイロやっちゃったので、腹をくくってちゃんと告白し、付き合うこととなった。
現状表向き無職のこととか、自身の性根だとか、色々と思うところがないわけではないが、累が受け入れてくれているのだから、きっと問題はないのだろう。
ただ、累は『まだお父さんには黙っておく』と言っていたのだけど……家に盗聴器とか仕掛けられてるのだろうか?
帰れたら一応確認しておかないと……。
「え~っと……はい、そうです。 先週のクリスマスの翌日に私の方から告白いたしましたところ、累さんにオーケーを貰い、お付き合いをさせていただく運びとなりました。 現状、私に問題があることは重々承知しておりますので、累さんが大学を卒業するまでに、累さんを支えていけるだけの力を付けられるよう、精一杯の努力をする所存です」
どうしよう……言葉遣いとか変じゃなかったかな?
数ヶ月社会から離れただけでここまで語彙力に自信がなくなるとは……。
日本語って難しすぎるよね。
「そっか。 ……音倉君、君に伝言と、頼みたいことがあるんだ」
「……伝言ですか? なんでしょう?」
誰からだ?
累パパに伝言を頼む人に心当たりはないし、そもそも頼める人にも心当たりがない。
伝言というのは嘘で、どこかに呼び出されて罠に嵌め、不届き者を消す計画だとか……?
「『ダンジョンでお待ちしています』だって……どういう意味か分かるかな?」
「ダンジョン、ですか? ……いや、ちょっと分からないですね。 ゲームの話かな? でもダンジョンで、待ってる? ……すみません、心当たりがないです。 人違いの可能性はありませんか?」
「それはないよ。 音倉君を名指しで指名したうえで、さっきの言葉をそのまま伝えるようにお願いされたんだから……」
ダンジョンという単語に少し動揺してしまったが、とりあえず無難なことを言って誤魔化しておく。
それにしても、ますます累パパに伝言を頼んだ人の心当たりがなくなってしまった。
というより、誰にも知られないよう細心の注意を払っていたダンジョンの存在を知っている時点で、間違いなく只者ではないのだろう。
流石累パパ、そんな人とも交流があるんだなぁ~……マジで誰だよ?
「まぁ、とりあえず頼まれていた伝言はちゃんと伝えたよ」
「えっと……どなたからの伝言なのかだけ聞いてもいいですか?」
「……本当に心当たりはないみたいだね。 僕に伝言を頼んできたのは道無家の当主だよ。 世間一般ではあまり知られていない家だけど、うちは先祖代々度々お世話になっているところでね……」
ミチナシ家……やっぱり一切心当たりはないな。
累パパが先祖代々お世話になっていて、伝言でダンジョンのことを伝えてくる……。
なんだろう?
その家の人たち、未来予知とか千里眼みたいな能力持ってたりするとか?
そう言えば、畜産で最も怖いのは、家畜に病気が広がって、飼育している畜産の全てが殺処分の対象となることだと思うけど、累パパの牧場で殺処分を行ったという話は聞いたことがない。
隣の県の結構広い範囲で病気が流行っていたらしいときも、累パパのところだけは何の被害も無いようだった。
……やはり、未来視的な何かで事前に問題を解決していたのでは……?
「それで、音倉君に頼みなんだけど……たぶん道無家の人は、君に頼みたいことがあると思うんだ。 だからもし、道無家の人が君を訪ねてきて頼みごとをした場合、出来るだけ引き受けて、力になってもらえるかな」
累パパとの会話を思い出しながら、少しだけ考えてみる。
まず累パパは、先祖代々、その道無家に恩があるらしい。
そして、もし将来、累と私が結婚した場合、当然ながら私も累パパの親族となる。
つまり『君も親族になるのなら、少しは恩返しを手伝ってくれるよね?』ってことなのでは……?
逆を返せば『断ったら累とのお付き合いは認めないよ』ってことだけど……。
「分かりました。 道無家って名乗る人が現れた場合、出来るだけ誠意をもって応対することにします。 頼みごとについては……申し訳ありませんが話を聞いてみないと確約はできません。 ですが、出来るだけ力になれるよう努力することを約束します」
「そこまで固くならなくていいけど……うん、よろしく頼むよ。 累のこともよろしくね」
なんだろう……随分あっさり任されたけど、結構累パパに信頼されてたのかな?
それともやはり罠か……?
とりあえず、精神的に少し疲れたし、猫を撫でて癒されよう……。
「ねぇ、お父さんと2人で何を話してたの?」
そして始まった年末の食事中、奥阿賀家のすき焼きの美味しさに感動していると、隣に座る累がこっそりと話しかけてきた。
やはり先程、累パパと2人きりで話をしていたときの話の内容が気になるのだろう。
「あ~……累、お義父さんに先週から付き合ってること話した?」
「話してないけど……知られてたの?」
「まぁね。 でも、特に反対はされなかったよ。 後は俺が頑張ってお金を稼げるようになれば、何の問題もなくなるんじゃないのかな?」
「そうなんだ……でも音倉、無職のままでも、私が養ってあげるからね」
……累なりの冗談だと思うのだが、若干本音が混ざっているように感じた。
愛を感じて嬉しい反面、若干怖さを感じるような……まぁ、気のせいだろう。
「ありがとう。 でもやっぱ収入は大事だし、俺も出来るだけ頑張るよ」
そんなことを累と小声で話していると、少し周りの雰囲気が暗くなったというか、緊張感が漂っているような気がした。
結構小声だったので、話していた内容は聞かれていないと思うし、スキンシップを取ったわけでもないので、周囲に甘い空気を振りまいて気まずい空気にしたわけでもないはず……。
なにか重要な会話を聞き逃した?
「2人は随分仲が良くなったのね~。 もしかして、お付き合いを始めたのかしら?」
気まずい空気をぶった切るように、累ママが直球を投げ込んできた。
私は苦笑いで誤魔化そうとしたが、累は顔を赤くして照れてしまっている。
なるほど、これで累パパにバレてしまっていたのかもしれない……。
正直に白状することにしよう。
「はい。 先週から、お付き合いさせていただくこととなりました」
「そうなの。 累、良かったわね」
「うん……」
累ママは笑顔だ。
普通に累と私が交際することを喜んでいるように見える。
累パパはちょっと苦笑いだ。
なんというか、認めてくれてはいるのだろうけど、ちょっと複雑そうな心境が見事に表れている感じ。
気になるのは累の姉の瑠璃さんだ。
笑顔ではあるのだが、苦笑いというよりも取り繕ったような作り笑顔にしか見えない。
そういえば、前回夕飯をご馳走になったときにも気になったが、今日も瑠璃さんの旦那さんの姿はない。
妊娠に対して祝福した際も、少し苦笑いだったような気がする。
もしかすると、旦那さんが何かやらかしたのでは……?
そんなことを考え、あまり触れない方が良さそうだと判断し、自己主張をせず、空気になるように気配を殺し、猫を愛でながら美味しい食事を楽しむのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます