第47話

累の家に行き、累に美味しいご飯を食べさせてもらい、累の激しいご奉仕を受け、ちょっとお互いトイレに行ったり水を飲んだりして休憩していたところ、どこか遠くから、大きな音が聞こえてきた。


「え? なに、今の音……?」


「なんだろうね? 音的には、車が事故った感じだけど……」


「……ちょっとお父さんに電話するね」


累がスマホで連絡を取ると、ちゃんと累パパに繋がったようだ。

ただ、累の話している雰囲気からして、たぶん累パパの方ではなにかしらのことが起きていそうなので、パンツとズボンは身に着けておく。


「音倉、お父さんが代わってって……」


累のスマホを受け取ると、累パパはいつもより少し余裕がなさそうな感じで話しかけてきた。


「こんばんは音倉君。 累と随分仲良くしているみたいだね?」


「そうですね。 累さんには本当にお世話になっています」


「……あまり君に頼みたくないのだけど、今ちょっと困っていてね……。 そっちまで音が聞こえたみたいだけど、うちにバンが突撃してきて、今家の中では暴漢が暴れまわっている状況なんだ。 タイミングの悪いことに、うちを守ってくれている人たちは忙しさでこっちの対応に来るまでに時間がかかるみたいで、助けはちょっと間に合いそうにないんだ。 申し訳ないのだけど、音倉君ならなんとかできるかな?」


……へ~。

未だ私は遭遇していない『道無家』とやらに、暴漢が襲ってくることは教えてもらわなかったのかな?

まぁ『道無家が未来予知能力を持っている』というのはあくまでも私の予想なので、普通に予知能力は持っていなくて、本当に想定外の襲撃なのかもしれないけど……。


それで、手を借りたいっていうのはあれかな?

方法は問わないし後始末も何とかするから、一般人の私に何とかして助けてほしいってことかな?

……しょうがないにゃ~。


「暴漢の人数は?」


「カメラの映像だけでも16人。 その中に見覚えのある顔があるかもしれないけど、気にせずやっちゃっていいよ」


……見覚えのある顔?

誰だろう……?

元職場の元先輩とかかな?

見るからに悪人ヅラの先輩なら何人か覚えがあるし……。


「分かりました。 それじゃあ、今から行きますね」


「うん、頼んだよ」


そう言い残して、電話は切れた。

累にスマホを返して、上の服も着る。


「お父さんに何かあったの?」


「暴漢に襲撃されてるってさ。 助けは呼んでるみたいだけど、被害を出来るだけ抑えたいから、ちょっとちょっかいかけて、暴漢の邪魔をして欲しいんだって」


「……私は待っていた方がいいよね?」


「うん、戸締りはしっかりね。 何かあったらすぐに連絡して。 お義父さんを後回しにして戻ってくるから」


「気を付けてね」


暴動の話を聞いていたので、ちゃんと装備は累の家に持ってきていた。

装備の確認をしながら、山の中のショートカットルートを通り、累パパの家へと到着。

玄関の近くでは、いつも出迎えてくれていた犬たちが、血を流したまま動かないでいる。


家の前には見覚えのない大型のバンが3台並んでいて、その中の1台は前方が潰れている。

恐らく暴漢たちはこの車でやってきて、この前方が潰れた1台が家の玄関に突撃して、入り口を吹き飛ばしたのだろう。

とりあえずナイフで全ての車のタイヤをパンクさせておく。


最後の車のタイヤにナイフを刺していると、暴漢が2人、何かを抱えて外へ出てきた。

計画的な犯行なのか、目と口元にしか穴の開いていない覆面を付けているので、暴漢の顔は分からない。

そもそも興味もないので、バンに荷物を載せるタイミングで2人とも撃ち殺した。

残りは14人。


ここで出てきたところを殺すのが一番簡単なのだが、目的はあくまでも累パパの救助なので、土足で悪いけど家の中に侵入する。


累パパが籠城していると思われる部屋の方から結構大きな音がしているし、他の奴らもはしゃぎながら金目の物を探しているみたいだ。

これなら多少暴れても、気づかれる心配は少ないだろう。

私は慈悲深いので、1発ずつ確実に頭へ弾を撃ちこんで、暴漢の数を減らしていく。

3分もかからずに10体の生ゴミを生産し、残りは扉を壊そうとしている馬鹿共だけ。


というわけで見に行くと、ちょうど扉の一部が壊れて、ドアと壁の間に大きめの隙間が出来たタイミングだった。

マヌケも随分と気と声と態度が大きくなっている様で、大声で聞くに堪えない汚い言葉を吐きまくっている。


それにしても、この撃ってくださいと言わんばかりの大声……瑠璃さんの旦那さんではないだろうか?

なんというか、瑠璃さんの旦那さんには、おどおどとした印象しかなかったが、実はこんな一面もあった様だ。

たぶん累パパが言っていた『見覚えのある顔』とは、あの人のことだろう。

なのでまずは、瑠璃さんの旦那さん以外の3人を全員撃ち殺した。


「だ、誰だ!? それ……なんで……? お前……」


傍にいた心強い味方が3人、あっという間に死んだからか、瑠璃さんの旦那さんは状況が全く呑み込めていない様子。

なにがいいたのか分からなかったし、理解する気も正直ないので、私の方から話しかけることにした。


「どうもどうもお久しぶりです。 まぁ、安心してください。 これは6ミリの弾を発射するだけのエアガンですから」


そんなことを言いながら笑顔を見せ、目が合ったので両足を撃った。

倒れながら撃たれたところを手で押さえたので、指を狙って追加で何発も撃ちこんでいく。

何発かは当たり所が良かったのか、指が千切れて床を転がり、汚い叫び声が廊下に響いている。


「家の前で、犬が死んでました。 たぶん、そこに落ちている鉄パイプで何度も殴って殺したんですよね?」


「お、俺じゃない! 俺は殴ってない!」


「普通、街で暴動が起きたとしても、ただの暴漢は、こんな田舎の山の中にまで来ませんよね。 来るとしたら、誰かが唆さないと……ね? つまり、あなたが原因だ」


「ま、待ってくれ! 金ならっ……」


うるさいので蹴って黙らせた。

そして、落ちていた鉄パイプを拾う。

今時鉄パイプを武器にするなんて、少し感動ものだ。


「いいですよね〜鉄パイプ。 握りやすくて頑丈で、しかも人を殺すにはちょっと弱いところも最高だ。 おかげで殺すまで、何度も何度も殴って、反応を愉しむことが出来る」


とりあえず振り落とした。

肩甲骨から罅が入ったような音が聞こえた。

次に背中を殴る。

随分と痛そうだが、背骨自体は結構頑丈みたいだ。

お尻を殴った。

これは痛いだけで、大したダメージはない様子。

手に振り下ろした。

いい音と共に骨が砕ける感触が手に伝わってくる。

もう一度背中を叩いた。

当たり所が良かったのか、肋骨が折れた手応え。


「許して……許してくれ……」


ゴルフの様なスイングで、顔面を殴って顔を上げさせた。

そして、顔を押さえる前に顎を狙って鉄パイプを振り抜く。

思い通りに振り抜けたので、鉄パイプが顎に命中し、顎の骨が砕けたような感触が伝わってきた。

随分と痛かったのか、すぐに顔を隠してこちらにケツを向けた状態で丸くなってしまったので、ハンドガンを取り出して、股にぶら下がっているであろうモノを狙い、撃ってみる。

凄まじい咆哮を上げながら、瑠璃さんの旦那さんは床の上を転がり回った。


「音倉君」


背後から累パパに声をかけられたので、そろそろ終わっておくべきだろう。

頭に弾を撃ち込んで、倒れた肉体を蹴って仰向けにし、心臓・喉・眉間に追加で1発ずつ撃っておく。

ここまですれば確実に『安全』なはずだ。

累パパの方に振り返り、話しかける。


「これで、全員です。 助けに来た人たちには後片付けをお願いしてください」


「君は……何者なんだ? 少なくとも君の両親と祖父母は、普通の一般人だったはずだ。 でも君は……」


……やっぱり調べられたことがあるのか。

まぁ、過去にやったことを考えれば、怪しまれて当然なのかもしれないけど……。


「一応一般人ですよ。 ただちょっと、頭はおかしいんでしょうね。 いわゆるサイコパスってやつだと思います。 まぁ、自分でそう思っているだけで、医者にそう診断された訳じゃないですけど……」


「累はその……」


「なんだかんだ幼馴染ですし、たぶん察してると思いますよ。 それでも俺を受け入れてくれたので、俺も本気で向き合おうと思ったんです」


「……そっか……。 今日はありがとう。 音倉君のおかげで助かったよ」


「またなにか手伝えることがあれば呼んでください。 ……じゃあ、帰りますね」


そう言って帰るつもりだったが、少し離れたところから猫の鳴き声が聞こえた。

急いで鳴き声の聞こえた方へと向かうと、猫がおぼつかない足取りでこちらへと歩いてきている。

片足を使わない歩き方からして、恐らく蹴られて損傷を負ったのだろう。

すぐに近づき、スマホを取り出して治癒魔法を発動する。


治癒魔法の光が収まった後、猫は体を舐めたあと、不思議そうな顔をしながら足元へとやってきて、今まで通り甘えるように体を擦りつけてきた。

しゃがんで猫をそっと抱き抱える。

猫の体は少し震えていた。


……あいつら全員、もう少し痛めつけてから殺すべきだっただろうか?


そんなことを考えながら、猫を抱いたまま、累パパの元へ戻る。

累パパだけでなく、累ママと瑠璃さんも部屋から出ていた。


「この子は無事だったみたいです……どうぞ。 それじゃあ改めて帰りますね」


そう言って累パパに猫を渡し、返事を聞く前に外へと向かう。

家を出て、既に息をしていない犬たちを撫でてから、累の家へと帰るのだった。

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