第25話

工場の周囲は非常によく整地されていて見通しがいい。

確かにこれなら建物に近づく人を遠距離から狙撃しやすいのかもしれない。


ただ、スナイパーライフルという武器は非常にヘイトを買いやすい。

ゲーム内の敵NPCに狙われやすくなるという意味ではなく、プレイヤーからのヘイトが高い武器種なのだ。

それなのに開始早々対物スナイパーライフルを撃つ人がいるとすれば、馬鹿か変態か、スナの音に寄ってきたプレイヤーを狩るつもりなのだろう。


そんなことを考えながらも、私は特に隠れることなく堂々と工場へ近づき、特に何事もなく建物の中へと入った。

恐らくだが、バックパックを背負っておらず、武器も明らかにハンドガン1丁しか持っていない敵を倒しても、たいしてうまみがないと考えスルーしたのだろう。

初見のリアクションが良かったわけでもないし、知らないマップだとコメントできることがないから死んでも良かったのだが……。


先程スナを撃ったのが馬鹿だったなら、今も何も考えずに私のことを普通に撃っただろう。

つまり私なら撃っていた。


陰キャで性格が歪んでいる人なら、引き付けて絶対に外さない距離まで私が近づくのを待ってから撃っただろう。

状況によっては私も似たようなことをするかもしれないが、反撃が怖いし気づかれたら高確率で終わりなので、私は意図的にはやらない。


変態なら、私の前に姿を現したうえで堂々と撃ってくる場合が多い。

以前わざわざ建物の屋根から飛び降りながら撃ってきた変態もいたくらいだ。

外した上に落下死してクソダサかったが……。

流石にそれはやったことがないし、やるつもりもない。


稼ぐために来ているのなら、見逃して出てきたところを全力で狩る。

何も持っていない敵を撃つよりも、アイテムを拾い集めた敵を倒した方が、自分でアイテムを探す手間が省けるからだ。

このゲームが上手くて稼げている人ほど、これができる相手を見極める能力が高いらしい。

私には無理。


スナを撃った人は恐らく私を意図的に見逃した。

つまり今回、ガチで稼ぎに来てる人とマッチングし、出てきたところを狩る自信があるということ。


……流石にこのゲームはガチ勢とエンジョイ勢の実力差が激しいので、今回は半分諦め気味の方が良さそうだ。

まぁ、録画しているので出来るだけ頑張るつもりだが……。


「倒しに行くのなら他にも人が集まってからかな〜。 それまでアイテムを集めておいて、どこか見つかりづらそうな場所に隠しておくか。 となるとバッグが欲しいな……工場内にNPCはいるかな?」


というわけで工場内を探索する。

外から見て大きい工場だとは思ったが、想像以上に中は広いようだ。

階層も地下1階、地上3階の4階層あるみたいなので、お金になるかは分からないがアイテム自体は沢山ある建物なのだろう。

アイテムっぽいものを全部スルーして、NPCがいないか探していると、まだ少し距離はあるようだが足音が聞こえてきた。


「足音……重なるように聞こえるし隠す気も警戒心もなさそうだから人じゃないな」


私は足音が小さくなるようにゆっくり歩きに切り替えて移動する。

武器もハンドガンから手榴弾に持ち替えた。

あとはピンを抜いて投げるだけ。


音がだいぶ近づいてきた。

できれば目視で位置を確認してから投げた方が確殺率は高いが、ちょっと場所が悪そうなので敵が壁から出てきそうなタイミングで手榴弾を投げた。

そして素早くハンドガンを装備。

武器を眺めるボタンを押して、ハンマーが起きていることを確認。

問題はなさそうだ。


そして投げた手榴弾が爆発した。

走りに切り替え、急いで敵のいた方へと近づくと、1人は手榴弾で倒せたようで地面に倒れており、もう1人は普通にピンピンしていた。

慌てて壁まで下がり、リーンしながら敵に射撃する。


1発目は胴体に当たってしまったが、2発目でしっかりと頭に当てることが出来た。

NPCは地味にいい防弾ベストを身に着けていることが多いので、私のハンドガンでは胴体じゃあまりいいダメージを与えられないのだ。


「さ〜て、1人は7ミリっぽいアサルトライフル撃ってきたけど、もう1人の装備はなにかな〜? うわ、ショットガンかよ。 まぁ貰うけど」


こんな風に倒した敵の装備を奪えるから、このゲームは楽しいのだ。


「それじゃあバッグと武器も手に入ったことだし、本格的にお金になりそうなアイテムを回収していこうかな」




というわけで、時々NPCやNPCと戦っていたプレイヤーを倒して物資をウマウマしていたが、あらかたアイテムは集まったと思うので、出入り口近くに集めた荷物は隠し、空のバックパックを装備して、いったん外に出てみよう。


「時間的に多分向こうもそろそろ脱出を考えてるはずだし、外に出たら即撃ってくるだろうな……。 問題は何の武器で撃ってくるかだけど……」


相手がスナイパーで狙撃してくるのなら、1発目さえ躱すことが出来れば、普通に撃ち合いになるので勝ち目がある。

マークスマンやアサルトライフルを使っているのなら……相手がよっぽどクソエイムをしない限りほぼ負け確だ。

可能性が一番高いと思うのはSMGを持っている可能性だ。

元々使いやすさから一番使用率が高いし、このマップの工場内のような室内戦を考えると、SMGをメインで持ってきている人は多いと考えられるから。


「SMGだと……どうなんだろう? 距離が近ければハチの巣になって終わりだけど、入り口の周囲に身を隠せるところはないし、遠れば弾がばらけるからワンチャンある感じ?」


そんなことを考えながら移動し、脱出場所方面の工場出入口に到着。

装備していたバックパックを適当に捨てて、空のバックパックを装備。

建物の外に出るためにドアを開こうと近づいたタイミングで、少し妙な感覚を覚えた。


「なんだろう……なにかあるような?」


違和感の正体が分からないままドアを開くと、爆発音とともにキャラクターが倒れ、リザルト画面へと切り替わる。

どうやらドア前に爆弾が仕掛けてあり、私がドアを開いたタイミングで起爆したようだ。


「あの違和感の正体は爆弾だったのか。 爆弾の存在を完全に忘れてたわ」


(だって、ダンジョンに爆弾の罠は仕掛けられてないんだもの……)


録画していたので声には出さなかった。

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