第2話 冒険者になった男


この世界で、誰でも成れて食べていく方法、

それは、〈冒険者〉になる事だ。


登録したばかりの 〈F級〉から始まり、


小型魔物やゴブリン単体が倒せる〈E級〉


小型魔物の群れに出会して死なずに戻れる〈D級〉


中型魔物の討伐に参加出来る〈C級〉


大型魔物の討伐に参加できる。

冒険者として一人前と見られる〈B級〉


ギルドの誇り、特殊な依頼もこなす〈A級〉


そして、ほぼ貴族と同じ扱いの国の宝〈S級〉


のランクがある。


俺は冒険者に成って三年で、〈C級〉になったのだが、冒険者としてはフリーターみたいな扱いだ。


〈C級〉と〈B級〉の間にはそれ程に高い壁がある。


それは、盗賊の討伐…

つまり、悪人とは言え、〈人殺し〉が出来ないと一端の冒険者には成れないのだ。


何とも野蛮な世界であるが、特殊な能力があり、その力で良いことをする奴が居れば、悪い事をする奴もいる。

なので、盗賊や人拐いなどウジャウジャ居るのは、当たり前の事なのかもしれない。


しかし、やはり根っこが日本人な俺には〈人殺し〉のハードルは高く万年〈C級〉冒険者として生きている。



今日も森の魔物を狩り冒険者ギルドでクエスト終了の手引きをしているのだが、


「ユウさん、いい加減〈B級〉の昇級依頼受けませんか?」


と、受付の職員に聞かれるが、


「〈C級〉で十分食べて行けるし、〈B級〉は厄介な指名依頼が来るんだろ?


嫌だよ」


と、何時ものように断る俺に


「何でですか?〈B級〉に成れば家が買えますよ。宿屋の料金ぐらいで町の中に家が持てるんですよ?


依頼料も〈C級〉と〈B級〉では同じ位の難易度でも倍以上の違いが有りますよ。」


と食い下がる職員


「無理無理、アイテムボックスだけが取り柄の冒険者は森のお肉集めが丁度なんだから」


と俺が答えると、


「その完璧な森のお肉を求めた貴族達が指名依頼を出したいとうるさいんですよ!」


と今回のしつこい理由を白状したギルド職員


もうすぐ社交のシーズンとやらで、珍しい肉や美味しい肉を求めて貴族達が依頼を出すのだが、血抜きの技術がお粗末だったり、魔物を丸々持ち帰りが出来る冒険者も少なく困っているらしい。


その点俺は、血抜きは勿論、獲物の運搬もアイテムボックスで楽々、そして、アイテムボックスに入っている限り腐らないので、美味しい肉をシーズン関係なく提供も可能だ。


貴族が食材ハンターとして雇いたいのだろう。


「頼みますよ、ユウさん。

ご領主様より、早くユウさんを〈B級〉にして、他所の町に行かない様に家を持たせてしまえと言われていますので、」


なんだよその欲望丸出しの指示は…


「ご領主様に伝えといて、

依頼を出さなくてもお肉は出来るだけ美味しいのを捕って来るから、


あんまり強引だと旅に出ちゃうかも?


と言っておいて。」


とギルド職員に伝えて宿屋に戻った。


正直持ち家は欲しい気持ちはある、


それは、持ち家で有れば風呂が作れるかもしれない事だ、


貴族なら風呂は当たり前かもしれないが、庶民はタライにお湯で体を拭ければ上等で、基本は井戸で水浴びが普通、


国営のスキル屋で〈クリーン〉の生活魔法のスクロールを買えばダンジョンに入っていても何時も小綺麗な冒険者でいられるが、中々高価な出費と成るためクリーンを買うくらいなら攻撃魔法の一つでもと考える。


「風呂かぁ、町の外なら〈C級〉でも家を建てて良いらしいから森の手前に土地を買って家でも建てて暮らすかな?」


と宿屋の部屋で体を拭きながら呟いていたら


ドタバタとオヤジさんが俺の部屋に入って来た。


「娘から聞いたぜ、この宿から出ていくつもりか?」


と真っ青な顔で聞いてくるが…


俺の体拭きが上半身部分で良かったよ。

下半身ならば、この瞬間に宿屋から恥ずかしさに負けて出ていく事に成ったから。


「いや、いや、オヤジさん、

流石に体拭きの最中に部屋に飛び込むのはいかがなものかと思うし、

オヤジさん所の年頃の娘さんがさっきから真っ赤な顔で好奇心と常識の間で揺れ動いて俺の部屋の入り口でモジモジしてるから…」


と俺が注意すると、


オヤジさんが「はっ!」として、


「すまねぇ!」


と部屋から小走りで出ていった。


体拭きもそこそこに切り上げて、オヤジさんとの話し合いにむかう為に食堂に降りた。


夕食時間までまだ時間がある食堂はがらんとしており、オヤジさんと女将さんに二人の姉弟も座っていた。


「で、宿から出ていくってのは本当か?」


と改めてオヤジさんが聞いてきた。


俺が、


「いやね、風呂に入りたいんだよね。

体拭きよりも、さっぱりするから、町の外に土地を買って風呂付きの家でも建てるかな?


と呟きはしたけど、出ていく予定はないよ。」


と答えた。


女将さんが、ホッとして


「アンタ!やっぱり作ろうよ。」


と切り出す。


「そうだな、作っちまうか!」


と、オヤジさんも納得する。


俺は何が何だか解らないまま宿屋の家族を眺めていた。


オヤジさんが、


「ユウ、俺は決めたぜ、

俺の宿屋に風呂を作る!

飯を目当てに貴族様も泊まりに来るが、風呂が無いからと、ご領主様に風呂を作って他の町の貴族達を呼べる宿にしてくれと言われてたんだ。


貴族様より、ユウが出ていくぐらいなら風呂の一つや二つ屁でもない。


頼む、風呂を作るから出て行かないでくれ。」


と頭を下げるオヤジさん…


この世界に来て初めて親切にしてくれた家族からの頼みだ、


益々〈B級〉になる訳に行かなくなったな…


と感じるので有った。

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